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9 女の子は小難しい

よろしくお願いします。

「次はアイスさんがいいのです!」


地下牢を後にしたアルトはエリーと二人で買い物を続けていた。いや、買い物というより食べ歩きを続けていた。まだ食い足りないのかとアルトは思いながらも小さな手に引かれて次なる屋台(いくさば)に向かう。


「えっエリーたん?そろそろ休憩にするでござるよ。拙者の足に乳酸が蓄積されて限界でござる……」


長時間歩き続けたアルトの両足は限界を迎えていた。それにアルトの体型だ、足に負担がかかるのは当然と言えるだろう。フラフラに歩くアルトと違って目の前の少女は風に飛ばされそうな帽子を抑えながらもテキパキ歩いていた。


「また、訳わからないこと言ってないでせっせと歩くのです!早く行かないとアイスさんは逃げてしまうですよ!」


「アイスは逃げないでござるよ!」とアルトの悲痛な叫びはエリーの食欲を抑制することは出来なかった。

何か彼女を止める手段はないかと模索する。


自分はお腹いっぱい?

ダメだ、「私はまだ食べたいのです!」と言われる。


用事を思い出した?

ダメだ、「私はまだ食べたいのです!」と言われる。


(あれ、これ拙者詰んでね?)


こういう押しには弱いアルト。何を言ってもエリーは折れないと確信し諦めて連行さらようとした瞬間、救いの手がそこにあった。


「やっと見つけた、アルト!縁談すっぽかしてどこにいたのよ!!アンタん家行ったら外出中って言ってるし、わざわざ教会まで行ったらもう出て行ったっていうし!街中捜し回ったんだからね!!」


「あっミーシャたん!」


そう呼ばれた彼女は腰に手を当て頬を膨らませていた。


「あっじゃないわよ、バカ!!って人が怒ってるのにどこに行くつもりなの!」


子供っぽい仕草に愛らしさを感じるが気品を感じる銀髪と整った顔立ち。肩まで伸び、(なび)く柔らかなストレートは多くの男性を魅了するものだった。

公爵令嬢にあるまじき言葉遣いにツッコミを入れたかったアルトだったが今はそんなことどうでもいい。ただこの食欲の魔獣を今すぐに鎮める切り札を待っていたのだ。


「エリー!ちょっと待つでござる!!」


「なんですか、アルト様。私はまだ食べたーーー」


アルトの声に足を止めるエリー。不機嫌そうに振り向くとそこには、キャメロット王国建国に携わった御三家の一つレオンハルト公爵家のご令嬢ミーシャ・レオンハルトが視界に入っていた。


「これはミーシャ様、おはようございます!」


公爵令嬢を見て、さっきまでの無差別食欲魔人から戻ってきた。冷静さを取り戻し被っていた帽子を外し一礼する。

ミーシャは軽く笑みを浮かべいつも通り挨拶を返した。


「御機嫌よう、エリー。別にそんな畏まらなくても大丈夫よ。私はただそこに倒れるベーコンに用があるだけだから」


「誰が、ブタでござるか!!拙者はアルト・ウルシバラという立派な名前があるのですぞ!!」


「約束していた縁談を破って、街で遊び呆けているおバカを人と呼ばないわよ」


「酷いでござる!ちゃんと父君には事情を手紙に書いて送ったでござるよ!?」


「あんな一方的で脅迫めいた手紙で私が納得すると思って?ゴミムシ」


「凄まじい速度で拙者に対する認識が酷くなってますぞ!」


当然よ、と怒りが静まることがない。

エリーの暴走から解放されたかと思ったがまさか救世主かと思われた人物がさらなる災厄を呼び起こすとは。

この状況でそんなことは言ってられない。今は何としてでもミーシャの機嫌を取ることに専念する。


「あの時は本当に悪かったと思うでござるよ!前から入っていた予定が急に変わってそっちを優先せざるおえなかったのでござるよ!!」


「それで直接謝罪行かず手紙だけ渡して

はい終わりと?」


謝罪のつもりが言い訳にしか聞こえなかったのか火に油を注いでしまった。

だが一つ、気になることが。


「ん?でも、捜し回ったってミーシャたん。そんな事しなくても連絡くれればミーシャたんの家まで行ったでござるよ。何でわざわざそんな面倒なことを?」


何故かミーシャは頬を真っ赤に染めそっぽを向いて言った。


「べっ別に私の勝手でしょ!ただ買い物ついでにアンタを捜してたまたま見つけた、ただそれだけよ!!」


まるで無理やり付けたような理由にアルトは少し違和感を覚えたが、そこは深く探らないようにした。

もしかしたら地雷を踏む可能性がある。


「そうでござったか!なら、もう用件は済んでござるな。さっエリー今日はこの辺で切り上げてさっさと帰るでござる」


と回れ右して屋敷へと向かおうとした時、頭に圧迫を感じた。

ギリッと嫌な音を立てミーシャの右手がアルトの頭を鷲掴みにしてアルトの動きを封じていた。


「何が用件は済んだって?」


あの目はまさに獲物を喰らう目。捕食者の眼光だった。

自らの身の危機を感じたアルトはすかさずこの場を切り抜ける台詞を選んだ。


「待つでござる、ミーシャたん!!そうじゃなくてね。拙者は…その…そう!ミーシャたんには政略結婚などという形だけの結婚より自分が好きな人と結ばれる恋愛結婚した方が拙者はいいと思うでござるよ」


考え抜いた弁明が安っぽいものになったと後悔する。

待ち受ける運命はバッドエンド。ミーシャの怒りがアルトを襲うであろう。

だが、アルトの予想は外れた。


「その恋愛結婚したいから言ってるんじゃない……バカ」


またそっぽを向いて小声で呟く。アルトは緊張の余り何を言ったか全く聞き取れなかった。


「何か言ったでござるか?」


「何でもないわよ!もういいわ!私帰るわよ」


ミーシャは諦めたのか、顔を真っ赤にしながら離れていく。何とか、危機は去ったが自分の女性に対する対応力の無さにアルトは肩を落とす。


「顔を真っ赤にしてまで怒るとはやはり拙者は女性の扱いにはなれないですぞ」


そう落胆していた時、エリーは何だが呆れた顔でアルトを見ていた。


「何だか私、アルト様が一生結婚できないことを確信したのです」


「酷っ!この合間にエリーたんが何か悟ったのでござるよ!?」


「何だか、疲れたのです。アルト様、アイスはまた今度で大丈夫です。屋敷に戻りましょう」


「このじゃじゃ馬、拙者の言葉を華麗に無視してアイスの約束までしてきたでござるよ!」


アルトはいろんなダメージに肩を落としながら屋敷に向かうのであった。


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