6 少女と笑顔とキモオタさん
エヴァは目覚めるといつもの石の天井ではなく見知らぬ木造の天井があった。それに体を優しく包む毛布、返り血は綺麗に落ちていた。
寝起きの瞼は重く左手で目を擦る。
意識は覚醒し辺りを見回すが、やはり覚えのない風景だった。
「お目覚めですか、エヴァ様」
唐突に声を掛けられ体が強張る。扉にはいつの間にかメイド立っておりエヴァは声の主であるメイドを睨み付け問いを投げかけた。
「お前は誰だ?それにここは?レイフはどうなった!?」
声の主は冷静に返答した。
「落ち着いてください。私はこのウルシバラ邸のメイド、アンドレイ・ウルシバラと申します。レイフ氏は貴方をここまで送り、休息を取っております」
エヴァは気付いた。
ウルシバラ、エヴァを引き取る家の名前を。
「本当にレイフは無事なのか?」
懐疑的な問いにアンドレイは少々呆れながらエヴァの質問に答えた。
「えぇ、レイフ氏に屋敷の者が回復魔法を掛け安静にしております」
よかったと安堵するエヴァ。
ベットから体を起こし、再びアンドレイに質問する。
「レイフはどこの部屋にいるの?お見舞いに行きたいんだけど」
「少々お待ちください。ご主人に貴方が目覚めたことをご報告いたしますので」
アンドレイは一礼すると部屋から出ていった。
沈黙が部屋を支配する。静か過ぎるこの空間にエヴァは落ち着かず寝室を探索した。
寝室にはもちろんベッドと照明魔道具、テーブル、椅子等の家具が置いるだけでエヴァにとってつまらない物ばかりだった。
だが、一つ目を引くものが。何かの偶像だろうか?その像は髪の毛を二つに縛り妙に露出の多い女性の像だった。
「いやらしい……」
エヴァが知る中でこんな精霊、聖女を見たことが無い。なら、この像は誰を象ったものだろうか。その像を手に取ろうした瞬間ーーー。
「エッヴァたーん!!無事目覚めてよかったでござるよ!丸一日寝ていたので一時はどうなるかと思ったお!!」
何だが、吐き気を催す口調と共にバン!と扉が勢いよく開けられた。
「ひゃあい!?」
今まで出したことがない声の後に、バキッという何か嫌な音が鳴った。
足元を見ると、あのいやらしい偶像の頭と胴体が分裂していた。
「「あっ………」」
エヴァとアルトの声はハモり、顔色が蒼白になり、お互い涙目だった。
これまでの一連の動作が見事に同じだった。
「ぎゃああああ!!!ミユたんフィギュアが、ミユたんがぁ!!合体ロボにぃ……やべぇよ…やべぇよ…今すぐパイルダーオンして復活の呪文を唱えたいのだが、シノたまが今遠征中、まいるこれはまいるーでござるよ」
エヴァは数秒、硬直していた。あのミユと呼ばれる偶像を壊してしまったことの罪悪感。そして何より彼の言動に途轍もなく嫌悪感を抱いたからだった。
「ご主人、その程度で叫ばないでください。エヴァ様がご主人の気持ち悪さに打ちのめされています」
すると、アルトは壊れた偶像に涙しながら文句を垂れていた。
「その程度とは、アンドレイたソの頭はハッピーセットでごさるか!?ミユたんは俺の嫁でござるよ!嫁の首が取れたのだ!このリアクションは必然ですぞ!」
「ご主人の言語には理解出来ませんが、馬鹿にされたことは理解出来ました。非常に不愉快です。今すぐ訂正しなければ、実力行使に移ります」
命の危機を感じたアルトは突如、空中で回転しアンドレイの前で体を縮め丸めていた。
「申し訳ございません。アンドレイ様」
「何ですか、それは?」
頭、両手両膝を地に着け、ひれ伏し誠心誠意謝罪の言葉を述べる。そう、これはーーー。
「拙者の故郷で最高位の謝罪。土下座でござる」
「ほう、命欲しさにプライドまで捨て去りますか。ご主人」
アンドレイの殺気は消えることがない。アルトは汗が止まらない。自らの死期を悟った時、笑い声が響いた。
「くっあははは!!!メイドに謝る主人って馬鹿みたい!!何、あんた達ホントに親子なの!?」
エヴァは腹を抱えて笑っていた。それを見た二人に険悪な雰囲気は消え去っていた。アルトは笑みを浮かべエヴァの精神状態に安心した。
(よかったでござる。襲撃があった後、あの歳では不安定になるかと思ったが、大丈夫でござるな)
アルトは立ち上がり、笑顔でエヴァに言った。
「エヴァたん、申し遅れたでござる。拙者の名はウルシバラ家当主アルト・ウルシバラ。元勇者でござる」
「えっと初めまして、僕の名前はエヴァ・アヴァ………じゃなかった。エヴァ・ウルシバラ!宜しくね、お義父さん!」
ゔぁ!と涙が溢れるアルト。
「生きてて良かったでござる」
二人は完全に引いていた。
「やっぱり、気持ち悪いね。お義父さんは」
「気が合いそうですね、エヴァ。ご主人の気持ち悪さは王国、いや全種族の頂点に君臨します」
アルトの精神状態が不安定になったのでアンドレイはアルトを引きずりながらエヴァをレイフが休んでいる寝室へと案内した。
よろしくお願いします。