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4 獣の慟哭、少女の絶望

遡ること数時間。

ウルシバラ家の屋敷に向かう馬車があった。

荷台の中にいるのは、黒髪に赤い目、そして右腕に巻かれた包帯が特徴的は少女エヴァ・アヴァロンと白髪交じりの初老の司祭、レイフの二人だけが乗っていた。

整備されていていない道。馬車の乗り心地は最悪。何より司祭はあまり喋る人間ではなかったので、この沈黙が大人しい性格ではないエヴァにとって苦痛であった。

何か話題は無いものかと思惑するがレイフとの共通の話題が少ない事に気づく。諦めてエヴァは肘をつき馬車の揺れに不満を持ちながらも大人しく外の風景を眺めていた。

こんなに何もしないと眠気も募る。

睡魔に負け目を瞑ぶろうとした時、バァン!という爆発音と運転手の叫び声が響いた。

馬車は急停止し荷台にいた二人は慣性の法則に従って勢いのある力を受けた。

奥に座っていたエヴァは倒れそうになるも司祭はそれを受け止めエヴァを覆うように抱き締める。


「大丈夫か、エヴァ!?」


司祭自身、何が起きたか理解できていなかった。爆発音に運転手の叫び声、一向に進むことがない馬車に不安は募るばかりだ。

だが、エヴァはそんな司祭とは裏腹に妙な冷静さを保っていた。


「ごめん。レイフ、また奴らだ」


襲撃は何度かあった。教会に三回、前の引き取り先に一回。

全て彼女が払い除けたが、これのせいで前の引き取り人はまた来る襲撃に恐れそしてエヴァの姿を見て前の引き取り人は軽蔑した。

あの娘は化け物と。


「いい加減、しつこいんだよ!」


許せなかった、化け物と蔑み幸せ邪魔する者たち。

何でこんな思いをしなくちゃいけないのか。何で皆は軽蔑の目を向けるのか。

憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、全てが憎い。


「何度でも殺してやる」


憎悪と悲哀に塗れた感情は彼女の殺意を駆り立てるには十分すぎる材料だった。

司祭の腕を振りほどき、エヴァは馬車の外へと出て行った。


「やめろ、エヴァ!殺してはならぬ!!」


司祭の声は、思いは届かない。ただエヴァは眼前の敵を屠ることしか考えていない。この汚い感情を早く払拭するために。

外に出ると馬車を完全に包囲されていた。辺りを見ると剣を構えた黒装束の人間。

同じだった、前回の襲撃者と。

運転席に目をやると力なく垂れ下がる腕に運転席から流れる血。運転手は死亡していた。完全に運転手の体は見えないが、黒装束の剣に血が付いており、多分あの剣に切り裂かれたのだろう。


「また、君たちは関係のない人たちを傷付けるんだね」


「何、霊廟の守護者よ。我らと共にくれば良い。さすればこの地獄から解放される。拒むなら貴様のような化け物が安寧を得ることなど一生無いものだとしれ」


その言葉に対する応答はなく、ただ黒装束たちは目的だけを述べていた。


「黙れ!!また訳の分からないこと言って……何なんだよ!僕は守護者でも、化け物でもない!!ただ僕は静かに暮らしたいだけなんだよ……」


彼女はただ涙を流すだけ。そして無情にも右腕に宿った力が彼女に殺戮の力を授けようとする。赤い湯気のようなものが漂い右腕がとても熱く、とても痛かった。


「僕を邪魔する奴は、殺す。誰であろうと、殺し尽くす!!」


彼女の悲哀は殺意に変わり彼女の右腕が赤黒く禍々しい獣の腕に変貌した。


「はぁぁぁああああ!!!」


悲しき咆哮が響き、獣の狩りが始まった。


「消えた?」


黒装束の一人がそう呟いた。目の前にいたはずの獣が一瞬うちに姿を消したのだ。


「ぎゃあああ!!」


悲鳴が響く、痛みが全身を支配する。肩を裂かれ血が噴水のように吹き出していた。


「くそ!どこに!?」


またも悲痛な叫び声が響く、次々と黒装束たちは赤き爪に裂かれ倒れていった。

彼女の姿を見るどころか、認識すら出来ず彼女のスピードは人の域を超えている。


「ひっ化け物め!姿を現せ!!」


死の恐怖は冷静さを殺す。一分も経たずに多くの黒装束たちが戦闘不能になり、残るは四人のみ。この状況で冷静さを保つことが難しいか。


「ひっひゃああ!!」


「おい、貴様!!」


情けない声を出しながら、黒装束の一人は逃げた。だが、獲物を獣が逃すわけがなく、逃げた黒装束を横切った影が彼の首を斬り裂いた。


「逃がさない、一匹残らず」


血が舞い、悲鳴が響き、獣が哭いた。

殺戮は終わり、全身に染まった返り血は生暖かく、右手にはまだ肉を裂く感覚が残っている。


「また殺したよ。レイフを守れたよ…」


「エヴァ……」


司祭は名前を呼び抱き締めることしか出来なかった。彼女のその渇いた笑みに喜びはなく絶望しか感じられなかった。


「精霊王よ。何故、何故このようなことを」


少女が背負うには重すぎる業。信仰する神に問うても返答はこない。

司祭は、自分の不甲斐無さに怒りを覚えるが彼女に他人事のように語りかけるしかなかった。


「お前は必ず、幸せになれる。新たな親はそれを叶えてくれる。だから、世界に自分に絶望するな。さぁ早く屋敷に向かおう、また奴らが来るかもしれん」


「うん…わかった」


少女の渇いた声が響く、無力な自分を呪いながら司祭は彼女の右腕に包帯を巻きつけ御者席に乗せた。首を裂かれていた運転手を荷台に移し彼女の肩に手を置いて再び馬車を走らせた。




よろしくお願いします。

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