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アルトが召喚された世界、ユグドラシル。

世界樹と呼ばれる大樹を中心に五つの領土に分かれ、それぞれの種族ごとに独自の政治、文化、貿易、軍事力を持ちそして多くの問題を抱えていた。

世界樹の頂上に存在し精霊たちが住む『精霊領域(アースガルズ)』。

荒野が広がる巨人の国『巨人領域(ヨツンヘイム)』。

精霊の加護を受ける人の国キャメロット王国、大森林を支配するエルフの国アルフヘイム、人間、亜人間(デミ・ヒューマン)などの他種族が多く住む名も無き国、第三帝国。その三つの国で構成されている『人間領域(ミズガルズ)』。

そして世界樹の根に存在する『魔竜領域(ヘルヘイム)』と『封印領域(ニヴルヘイム)』がある。

アルトが現在、滞在している『人間領域(ミズガルズ)』東南地方を支配する国、キャメロット王国。(あたか)も中世の雰囲気を漂わせるこの国は『人間領域(ミズガルズ)』三大王国の一角を担う巨大国家だ。

召喚されて早三年。この世界の情勢は極めて単純なものだった。

戦争による混乱。

魔竜王軍と世界連合軍による種族の生存権をかけた大規模戦争。魔竜王カラミティを討伐してもまだ魔竜王軍の生き残りは数多く存在する。幹部クラスの竜達は主君を無くそうと理想のために人類に牙を向け戦争を続けている。


「ということで、アルト。貴方には戦争の早期終息のためにまた戦場に戻って私の傘下として戦って欲しいのです」


アンドレイに目覚めの鉄拳制裁を受けた後、キャメロット王国宮廷内部、庭園にてアルトはキャメロット王国第二王女ユリア・ペンドラゴンと食事会という名の拷問を受けていた。

マグカップに注がれた紅茶を飲み一息入れるユリア。そして状況把握が出来ず妙な汗をかくアルトの姿があった。


「えっと……ユリア殿。拙者、食事会と聞いてここまで来たのですが?」


「はて、何を疑問に思うことがありますか?ちゃんと食事は用意されていますし、 貴方は私との会話を楽しんでいる。疑問に思うことなど一つもないーーー」


「いやいや!拘束具に繋がれて行われる食事会など絶対ヤバいことが起きるでござるよ!」


彼女の言い分にはツッコミ所が満載だったのでアルトは思わず彼女の言葉を遮る。

自分が置かれている状況を見れば言いたくなるのも当然か。まるで芸術品のような椅子に付着された多くの拘束具。

暴れ破壊しようとするが魔法による強化がされているのか、ビクともしない。


「それは、貴方が逃げようとするからです。私は貴方が欲しい、貴方はただ首を縦に振ってくれればそれでいいのです」


「だぁかぁら!!拙者は政治に興味はない!『王政派』と『軍事派』との権力争いに拙者を巻き込まないでほしいござるよ。それに拙者は戦争から逃げた身。政治的価値など、無いにも等しいのですぞ!?」


「いいえ、摑みどころのなく、切れ者の貴方に私の懐刀に頼みたいのです。それに私が貴方をスカウトしているのは政治的価値だけじゃなくて、一人の男としてもお誘いしているのよ?」


「買いかぶりすぎですぞ、ユリア殿。それに拙者は結婚にも興味なし!拙者は古き友に妖精になろうと共に誓い会った!ゆえに我が純潔は誰にも捧げるつもりはない!!」


「妖精?この世界には転生魔法なんて存在しませんよ?」


興奮してつい余計なことを言ってしまったと思うアルト。

咳払いをし誤魔化すもユリアは何やら不気味な笑みを浮かべアルトを見つめていた。


「そう言えば、貴方の世界では三十まで純潔を保てば妖精あるいは魔法使いになれるという伝承があるらしいですね」


「そっ…そうでござるが、ってユリア殿?!??」


「なら、その純潔。私が頂いてもよろしくて?」


拘束されたアルトの上にユリアが股がりアルトの顔を見つめている。

アルトは何が起こっているのか理解できず、頭が真っ白になっていた。


「ふふふ、可愛い反応ですね。ならこのまま続けてーーーー」


「待ってください、ユリア様」


誰もいるはずがない庭園内に突如、アンドレイの姿が現れた。


「貴女、どこから!?」


アンドレイの出現にユリアは驚きを隠せなかった。庭園には誰もいないはず、しかもユリアは人払いの魔法をかけ今の宮廷内なら誰も近付ける者など居ない。

故に彼が何故ここにいるのか、理解出来なかった。


「アンドレイたソ!!助けておくれーー!!」


「情けない声を出さないでください、ご主人。それにユリア様、私は時空間魔法と魔眼の使い手、この程度の人払いを看破することなど造作もありません」


冷たく殺気纏った言葉をユリアに向けて

放つ。


「あら、傷付くわね。一応、私の魔法は王国内ならかなりの物なのだけれど」


「その程度で王国内上位に入るとは、王国の未来に不安が募りますね」


二人の間にある筈のない火花が見えるのだが、アルトはそんな事よりさっきのアンドレイの言葉を訂正するように伝えた。このままでは、不敬罪に問われる可能性があったからだ。


「はぁ〜、アンドレイたソ落ち着くでござる。お相手は王国の第二王女、先のユリア様への非礼を詫びるのでござる」


「ですが!この女が!!」


「言い訳無用、謝るでござるよアンドレイ」


納得のいかない顔をするが、アルト自身に迷惑が掛かることを察したアンドレイはユリアに膝を着き、謝罪の言葉を述べた。


「ユリア様、申し訳ございません。ご主人の貞操の危機に居ても立ってもいられず、無礼を働いてしまいました」


その動機にアルトは疑問しか無かったが、アルトもユリアに許しを貰えるよう口を開く。


「自分も謝るでござるよ、ユリア殿。拙者のメイドを務めているとはいえアンドレイたソもまだ幼い、どうか大目に見てくれないでござるか?」


拘束具に繋がれたままで説得力は皆無に等しいのだが、ユリアは押しに負けたのか、ため息混じりに言った。


「大丈夫ですわ。私も少し大人気無かった」


「寛大な御心、感謝するでござるよ、ユリア殿」


「ユリア!」


「へっ?」


「ユリアって呼んでくれたら、今日のところは諦めてあげますわ」


「別に呼び捨てする必要がないと思うのですが」


「いいから!」


頬を赤くしながら言うユリアに何か裏が有るのではないかと疑いながらもアルトはユリアの名を呼んだ。


「えっと、ユッ…ユリア?」


ぼふ!っと何やらユリアから破裂音が響き顔が真っ赤に染まっていた。


「だっ大丈夫でござるか!?」


「くっ予想以上の破壊力ね。だけど、とてもいいものね。約束ね、今日のところは諦めて上げますわ。また機会があればお食事でもアルト」


「はいはい、分かったでござるよ。ユリアどーー」


「違うわ、ユリアよ」


人差し指で唇を抑えられ、不意にドキッとするアルト。一瞬だけだが、彼女の笑顔に見惚れてしまった。


「ご主人……」


背後に漂う殺気を感じ我を取り戻すと、アルトはアンドレイを連れて庭園を後にした。


◇ ◇ ◇


「いやー、本当助った。感謝しきれないでござるよ。アンドレイたソ」


庭園を後にしたアルトたちは次にレオンハルト公爵家の屋敷に徒歩で向かっていた。


「いえ、ご主人の危機に駆けつけるのはメイドの務め当然のこと。でも、もしあのまま鼻の下を伸ばしていたらご主人を蹴り飛ばしていましたが」


「アンドレイたソ。それ洒落にならんぜよ」


妙な寒気を感じ、命あることに感謝するアルト。

アルトは歩きながら街を見渡すと住人の顔色が少しずつだが、明るく活気ある物に戻っていることを。魔竜王を倒すまでは皆、悲しみと絶望に打ちひしがれ、平和とは程遠いものだった。


「良かった。皆、笑顔になって」


「ご主人?」


「いや、何でもないでござるよ!アンドレイたソ」


「そうですか、なら良いのですが。それにしてもご主人。宮廷からレオンハルト公爵家までそこまで遠くはありませんが、馬車を使った方が良かったのでは?」


「ん?いやー、最近何もしてないからか。お肉が増えたような気がしましてな。まぁ少し歩いたぐらいでこの憎きお肉たちが燃焼されるなど、これっぽっち思ってないのでござるが」


「私は丸っこいご主人も好きですよ」


唐突な告白にアルトはアンドレイにダイブした。


「アンドレイたソーーー!!ゴフェ!!!」


顔面に正拳突きを喰らい、数メートルほど飛ばされた。


「ご主人、次は殺す」


「はい、すいませんでした」


謝罪の後に世界が逆さになっているので起き上がろうとした時、アルトを呼ぶ声が聞こえた。


「アルト様ー!!」


声の元へ顔を向けると、見覚えのある顔がそこにあった。子供染みた笑みに靡く金髪の髪、赤と青に輝くオッドアイ。彼女の名はエリー・ウルシバラ。

ハーフエルフと呼ばれる人間とエルフのハーフだが、エリーの耳を見ると普通の人間と変わらず丸みを帯びており、エルフの特徴と言えるものは金髪とオッドアイだけだった。

エリー本人も何故、耳が丸いのか分かっていない。アルトはハーフエルフは人間の血を色濃く受け継いでいるとエルフの特徴が減るという知識をもとに勝手な予想を立てて納得している。


「あれ?エリーたん。どうしたのでござるか?」


今日はアンドレイと出掛けると皆んなには伝えていたが、何かあったのであろうかとアルトは思った。


「教会の方がもう屋敷まで来ているのです!!」


「何ですと!?屋敷の到着は夕方と聞いていたのでござるが!?」


屋敷に新たな孤児が来ると連絡はされていたが、まさか予定時刻より早く来るとは。予期せぬ事態にアルトはアンドレイの伝達ミスかと思ったが、エリーが事情を説明した。


「そうなのですが、新しい子が早く屋敷に来たいということで司祭様が予定より早めに到着したのですよ」


「それは非常事態!アンドレイ!急いで、屋敷に転移するでござる!」


「ですが、ご主人。レオンハルト公爵家の縁談が!」


「まぁ何とかなるでしょ。ルーシェたん、事情を話せば納得するでござるし。てかしなかったらあの家ごと吹き飛ばすから大丈V」


「またご主人は。はぁー、どうなっても知りませんよ?」


アンドレイは物騒なことを言うアルトに半ば呆れ何が大丈夫なのか分からなかったが、この男は子供のことになると人が変わるので何言おうが無駄だと分かっていた。


「それでは、飛びます!エリーも捕まってください!!」


両手に二人の手を繋ぎウォン!と異様な音を立て、その場にいた三人は一瞬で姿を消した。


少数ながらもブクマ登録、ポイントありがとうございます。



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