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2 幸せな退屈

漆原歩人(うるしばら あると)

趣味、アニメ鑑賞、アニメグッズの収集。特徴的な口調で数多の老若男女に軽蔑の目を当てられキモオタを体現したような男。そして異世界に召喚され大英雄となった最強の男。


「闇に覆われた浮世に、拙者が必ず希望の光を照らしてみせる」


醜悪な見た目、口調に関わらず絶大な力と高いカリスマ性を持ち多くの戦士たちを率いた。

その中でもアルトと共に戦った勇者たち。

風の騎士アリス、聖剣エクスカリバーの担い手アドルフ。そして大魔導士ルナ。アルト合わせて四大英雄と呼ばれた最強のパーティーは魔竜王カラミティが率いる竜の軍勢を前に臆することなく次々と竜を倒し遂に魔竜王カラミティの前に立ちはだかった。

 咆哮を物ともせず、炎を払い除け、鱗を砕き、とうとう大英雄アルトはカラミティを討ち暗黒に終止符を打った。

だが、アルトには勝利の喜びも、安楽もなかった。涙を流し魔竜王の死を嘆いていた。


「俺は剣を取るべきでは無かったんだ」


何故、その言葉が出たのか誰も理解できなかった。悪を倒し弱き者を助け、武勇に優れた大英雄が何故その言葉を発したのか、数々の死線を乗り越えてきた仲間たちでさえ理解できなかった。


そんな事はない、お前は世界を救ったと仲間たちは語り掛ける。

だが、仲間たちの言葉はアルトには届かなかった。アルトは勇者としての名誉も仲間も捨て逃亡者と蔑まれながらも戦いから離れた。


たった一つの約束を果たす為に。


◇ ◇ ◇


「起きてくださいご主人。朝です」


薄暗い部屋に差し込む光と耳に届く心地よい柔らかな声、目覚めには最高のシュチュエーションであった。

霞んだ視界に入るメイド、アンドレイ・ウルシバラ。目覚めたばかりのアルトの脳が正常に作動するわけなく、半ば寝惚けた状態でアンドレイの言葉に応答した。


「おぉー、アンドレイたソ。デュフwwwまるで夢のようですなwwwよもや二十四年の時を経てようやく毎朝、美少女メイドが起こしに来るという拙者の願望が叶うとは。さぁ!二十四年のゴフゥ!?って何するでござるか、アンドレイたソ!?」


歓喜のあまり抱き付こうとアンドレイに両手を広げ向かっていったが、腹部に強烈な衝撃と頬にストレートを与えられ一瞬でアルトの目は覚めた。


「いえ、自らの身の危険を感じたので防衛処置をとらせて頂きました。ご主人のような脂ぎったその体に抱き着かれるなど拷問にも等しいものですので。そして一つ訂正させていただきたいのですが、私は少女ではなく少ねーーー」


「あー!!あー!!アンドレイたソは女の子!!拙者は何も聞こえないーーー!!」


アルトは耳を塞ぎながら大声を出しアンドレイの言葉を遮る。

それを見たアンドレイは半ば呆れながら口を開いた。


「現実逃避ですか、ご主人。仮にも大英雄アルト・ウルシバラがそのような態度を取られると。威厳、敬意も消え去りますよ?」


「アンドレイたソ、相変わらず手厳しい!!だがこれが拙者、アルト・ウルシバラ!この理想(キャラ)は拙者が思い描く主人公!これを止めるなど大英雄の名が泣いてしまうわ!!」


「多分その名、もう泣いてますよ」


相変わらず氷のような冷たい言葉に何やら胸を高鳴りを感じるアルトだが、流石にこれを許容してしまうと人の道から外れそうだったので気持ちを抑え誤魔化すように言った。


「もう止めて、アルトのライフはゼロですぞ。アンドレイたソ!」


「言っている意味は分かりませんが、今日の予定をその残念な頭に叩きつけてください。今日午後からユリア第二王女との食事会、そしてその後、レオンハルト公爵家との縁談が入っています」


「えぇールーシャたん、まだ諦めてくれないのでござるか?結婚はしないとあれ程伝えていたはずなのに、自分で言うのもアレだが、この熊さん体型の拙者に愛着が湧きますかい?いや、まさかのルーシャたんデブ専という説が」


「いえ、政略結婚というものです。そんな淡い期待など溝に捨ててください」


あぁぁ!!とまたアルトは辛い現実を突きつけられ現実逃避を繰り返す。哀れな。


「はぁ、ふざけてないで、さっさと着替えて下さい。それに今日は新しい子が来るのですから」


その言葉を告げた時にアンドレイは妙な静けさを感じた。


「あぁ、そう言えば。今日だったか」


急にアルトはあの気持ち悪い口調を止めた。何かを思い出したかのように淡い笑顔を見せ、窓越しの空に視線を送った。

アンドレイは長くアルトに仕えているが、何度見てもこの寂しげなアルトに慣れない。

いつものウザいくらいのその態度と口調が優しい笑顔と何もない空に見つめる寂しげな目に変わる。どうしてもその顔を見ると自分も胸が痛くなる。


「〝お父さん〟……そんな悲しい顔をしないでください。私たちは常に貴方の味方です。誰がなんと言おうとご主人は私達の主であり、たった一人の親です。だから元気出してください」


急に抱き着かれたこととその言葉にアルトは呆気に取られた。

ふっと少し笑みを零しさっきの寂しげな笑顔から暖かい笑顔に変わった。


「ありがとうな、アンドレイ。俺はお前がいつも傍に居てくれるから元気になれる。本当にありがとな」


心配してくれていることを察したアルトはアンドレイの頭を優しく撫でる。

アンドレイは頬を真っ赤に染め言った。


「やめてください恥ずかしい。それと口調戻ってますよ。ただ私はこんな弱気なご主人を見たくありません。だから笑顔で気持ち悪く振舞ってください」


「はは!気持ち悪いは余計でござるよ!そうでござるな。こんなだらし無い姿を皆んなに見せるわけにはいかない。新しい子が来るのだ、笑顔でそして幸せに迎えてやろうではないか!!さぁ、アンドレイたソ!今の雰囲気ならえっちぃフラグがビンビンなので、上から下までお着替えをして欲しいな!ゴフゥオ!!!」


頭を掴まれ鼻に膝蹴りを入れられる。


「はぁ、やはりご主人はご主人なのですね。それともまだ寝ぼけているのですか、ご主人?ならばメイドたるもの、主人の爽快な目覚めのために仕事を全うします」


ポキポキと両手を鳴らしながら倒れているアルトの元へ向かうアンドレイ。

アルトは涙目で鼻の激痛に耐えながら命乞いをする。


「待って!ごめんなさい、アンドレイさん!目ぇ覚めたから!もう、ふざけませんから!!それだと永遠の眠りに着いちゃう!!」


「問答無用です、ご主人」


やめて!!アンドレイた、ぎゃあああ!!!という悲痛な叫びを後にウルシバラ家はいつもの騒がしい朝を迎えた。










不慣れですが、よろしくお願いします。

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