依頼主は有名人だ!・・・と思ったのに
前回のあらすじ:いつの間にかスキルを取得してた。
急いでギルドに戻るとホールにティグレさんがいた。
「お、来たか。ちょうど今魔物を積んだ馬車が到着したところだ。おめぇも倉庫に移すの手伝ってきな。」
「はい。」
言われた通りに倉庫に行くと馬車が3台ほど止まっていた。うわぁ、間近で見ると大きいなぁ。大きさ2トントラックぐらいあるんじゃないか?たった2頭の馬であんな重そうなものを引っ張ってるのか。しかも魔物や人が乗ってて重くなってるのを。馬ってすげぇな。
「おーい新入り。そっち持ってくれ。」
「はーい。」
オオカミや鳥みたいな魔物なら1人で運んでいるがクマなど大きい魔物は今しているように2人以上で運んでいるらしい。
この程度なら俺1人で運べるな。これ運び終わったらクマを1人で運んで驚かせてやるか。
「よしっと。じゃあ次のを運ぶか。」
馬車の中にはまだ結構残ってるな。よしクマにするか。
「よいしょ。」
やっぱり軽いな。あ、でも肩に担いだら地面に着いちまう。まあ引きずって行ったらいいか。このまま倉庫までもっていって今度こそ俺のことすげぇって思わせてやる。
「おいこら新入りぃ!てめぇ何やってんだ!」
えっ、怒られた!?何で!?
「引きずったら毛皮が傷つくだろうが!もっと大事に扱えや!!」
え、なんかみんな『何やってんだこいつ』みたいな顔してこっち見てんだけど。毛皮そんなに大事なの?どうせ切り傷とかで傷だらけなんだし別によくね?
「ほら、頭の方持ってやるからそっち持て。」
「あ、はい。」
固まっていると近くにいた人が手伝ってくれた。せっかくだしこの人に聞いてみるか。
「あの、もうすでに冒険者からの攻撃で傷だらけなのに丁寧に扱う必要あるんですか?」
「ああ。切り傷や刺し傷みたいな単純な傷なら縫えば直せるけど引きずってできた傷はそうもいかないからな。引きずった部分は禿げちまうし傷跡もボロボロになっちまうからな。」
そんなに違うものなのか。まあ本職がそう言うならそうなんだろう。
「次からは1人で運ぼうとしないで誰か呼べよ。」
「わかりました。」
俺TUEEのアピールポイントはここではなかったか。しょうがない、誰かと協力するか。
うわ、このクマでけぇ。3メートルぐらいあるんじゃないか?頭に角ついてるし。どうやって倒したんだこれ。
「すいませーん。誰か2人ほど手伝ってください。」
このサイズの物を引きずらないようにするには3人以上必要だ。
「ちゃんとやってるか、テツ。」
「あ、ティグレさん。」
この人運ぶの手伝わないで何やってたんだ?
「今日はお前にフォレストベアの解体をしてもらう。でけぇ皮はそれだけ高く売れるからあんま傷つけないようにやってくれよ。それ運び終わったら解体に移ってくれ。」
「はい。」
今日はクマか。昨日のオオカミよりは少ないけどその分大きいからなぁ。
解体の手順はオオカミと同じでいいんだろうか。まあ間違っていたら注意されるか。
あと5時間でどれくらいできるかな。どれだけ頑張ってもここじゃあテンプレが起きないことは昨日でわかったしあんまり気張らずに普通にやるか。
カーン カーン
「終わったー。」
全部で20匹捌いたぞ。クマもオオカミと基本的なことは変わらなかったな。同じ哺乳類だからそれも当然か。
「おーいテツ。こっち来てみてくれ。」
「なんです?」
「ちょいとこれを見てくれや。」
ティグレさんから見せられたのは直径1センチほどの透明な玉だった。
「なんですかこれ?」
「これは魔玉いってな。魔力が固まったものだ。」
魔玉?異世界物のラノベでいう魔石みたいなものか?
「魔玉は中に魔力をためておけるんだが魔物の体の中に極稀にしか精製されなくて貴重なんだ。」
「何に使うんですか?」
「軍隊とかが使ってるって聞いたことがあるな。冒険者にも使ってるやつがいるらしい。なんでも魔法そのものを封じ込めたり、魔玉から魔力を引き出して使えるらしい。」
「へぇ、そうなんですか。」
聞いた感じだと俺の思ってる魔石と変わりなさそうだな。
「お前ももし仕事中にこれを見つけたらちょろまかさないで俺に渡せよ。」
「え?ティグレさんのものになるんですか?」
「んなわきゃねーだろ。出た数きっちり把握してからギルドの倉庫に入れておくんだよ。」
「倉庫ってここですか?そんな貴重なものを保管するにはちょっと不安がありません?」
「ここじゃねぇよ。ここは解体用の倉庫だ。他にも倉庫はあるんだよ。」
まあそうだよな。こんな警備員1人いないところに貴重品置いとくわけないか。
「まあ、ギルドに一旦保管した後は俺の実家に売るから俺のものになるってのもあながち間違いじゃないがな。」
「ティグレさんの実家ってどこですか?」
「ニクライ商店だよ。」
ニクライ商店。どっかで聞いた名だな。・・・ああ、今度鎧を買いに行くとこか。そういえばティグレさんを鑑定したことなかったな。
(鑑定。)
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Name:ティグレ ニクライ
Job:戦士
Favor:
Skill:剣術LV3、体術LV2、水魔法LV2
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ティグレさんは苗字あるのか。苗字の有無って何で区別されてるんだろう?ニクライ商店って店があるぐらいだからやっぱいいとこの坊ちゃんなのかな。
しかしJob戦士か。俺は旅人や冒険者だからてっきりJobは今やってる仕事のことだと思ってた。俺も剣とかで魔物倒したら戦士になるんだろうか。
「ティグレさんってここで仕事する前は何してたんですか?」
「俺か?ここで働く前は冒険者やってたな。だが俺には冒険者の才能は無かったみたいでランクは3止まりでな。世話になったここで働くことにしたんだ。」
「へぇ、冒険者やってたんですか。」
「ああ。おふくろには反対されてたけどな。そんな危ない仕事より店を継げって。っと話し込んじまったな。明日も同じ時間だ。遅れずにしろよ。」
「はい。」
この後はギルドで依頼でも受けて金稼ぐか。
確か掲示板で受けたい依頼を探すんだっけ。どれがいいか。できるだけ稼ぎが多いのがいいな。
あ、そういえばサリーが稼ぎ易いし仕事回してくれるって言ってたっけ。聞いてみるか。
「サリー。何かいい仕事ないか?」
「あ、テツ。そうねぇ、今ある依頼の中で稼ぎがいいのはこれかしらね。町に住んでるおじいさんからの依頼で話相手になってほしいというものよ。」
おじいさんの話し相手か。これもある程度テンプレだな。実はおじいさんが凄腕の剣士とか裏の世界では超有名人とかっていうあれ。今度こそテンプレ起こるだろう。
「わかった。その依頼受けるよ。」
「それじゃあギルドカード出して。」
「この依頼の報酬はどれくらいなんだ?」
「金貨1枚よ。」
「金貨1枚!?話聞くだけでそんなにもらえるのか。ひょっとしてその人の話すごく長いのか?」
「1時間ぐらいだと思うわ。まぁあの人からしたら孫におこずかい上げる感覚に近いんじゃないかしら?孫が王都に行っちゃってから毎週同じ依頼出すのよ。きっと寂しいんでしょうね。」
「そういうことならその人の親身になってっ話を聞いてくるよ。」
「ええ。よろしく頼むわ。」
というわけで、おじいさんの話を聞きに行こう。おじいさんの家はギルドから6キロほど離れているらしい。往復で2時間ほどか。夕食の時間に間に合うかな。
宿の夕食は夜の10時までしか食べられない。今大体6時ぐらいだから話が2時間以上あるとまずいな。そこは運任せだ。
しっかし相変わらず腕が気持ち悪いな。これもうちょっと範囲狭められないのか?
ふっ、と。うん何とか指先だけに集められたな。
Skill魔力感知を取得しました。Fovor生産を発動しますか。Yes/No
Skill魔力操作を取得しました。Fovor生産を発動しますか。Yes/No
うわっ、なんか頭の中にに浮かんできた。スキル取得だと?名前からして魔力を動かしてたから覚えたみたいだけど。とりあえず両方Yesで。
Fovor生産を発動しました。
Fovor生産を発動しました。
よくわからんがとりあえず鑑定してみるか。
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Name:剣山 鉄
Job:冒険者
Fovor:変身、分身、生産、隠蔽、鑑定
Skill:武術LV6、芸術LV4、魔力操作LV10、魔力感知LV10、詳細鑑定LV10
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ふむ、Skillの欄に魔力操作と魔力感知が増えてるな。しかも両方ともLV10で。さっきの変な文字によれば、これが生産の恩恵の力らしい。魔力操作はまあわからなくもないけど魔力感知も生産系のスキルなのか。
生産系のスキルかどうかの判定基準はよくわからんけどこれはありがたいな。魔力感知の使い道はまだ思いつかないけどレベルが高くて困ることはないだろう。
魔力操作は魔法を使う上で大きなアドバンテージになりそうだ。ティグレさんもイタルトさんも魔法使えるのに魔力操作持ってなかったからな。こんな簡単に覚えられるのに何で持ってないんだろう。
まあいい。魔力操作も覚えたしこの違和感も少しは......ん?そういえばスキル覚えてからあの変な感じがなくなってるな。
魔力の操作が上手くなったからか、それとも魔力をきちんと感じられるようになったからか。どっちにしろあの違和感がなくなって助かった。あのままだと上手く体を動かせなかっただろうから。
考え事をしてる間に半分ぐらいは歩いたかな?この道をまっすぐ行ったところの青い屋根のレンガの家らしいけど。
この辺りは出店や屋台はないんだな。周りは民家ばっかり。ギルドのあった通りとは随分雰囲気が違うみたいだ。あっちはひっきりなしに客寄せの声や喧嘩の怒鳴り声が聞こえていかにもファンタジーの町って感じだったのにここら辺は人が少なくて現代日本の田舎っぽい。
周りには小さい子を連れた親子か、学校帰りだと思われる制服らしきものを着た俺より少し年下の人たちがちらほらいるだけだ。
昨日も思ったがこの世界にも学校があるんだな。いったいどんなことを学んでるんだ?やっぱり魔法か?それとも日本と同じで数学や理科か?でも物理法則なんて魔法があれば簡単に曲げれそうだしやっぱり魔法かな。
何歳ぐらいまで学校に通ってるんだろう。学生服を着てる人で俺と同い年の人見たことないし14歳ぐらいまでか?とすると俺が読んだ本の著者みたいな博識な人を育てるところは他にあるのか?あれだけの歴史や国同士の関係を独学で調べられるとは思わない。......そうでもないか。現に俺は独学っていうか本読んで勉強したし。でも学者とかを育てる施設はあると思うんだよな。
まあそれも調べればわかるか。
そんなこんなでもう6キロ近く歩いたと思うんだけどそろそろかな。青い屋根はどこかなーっと。あったたぶんあれだ。青い屋根にレンガの壁、間違いない。
「すいませーん。ギルドで依頼を受けてきた者でーす。」
さあ、鬼が出るか蛇が出るか。凄腕の剣士とかだとしたら師事したいところだな。
「お、やっときよったか。今日は遅かったのう。いつもなら12時には誰か来とるのに。」
出てきたのは背筋の伸びた80代ぐらいのおじいさんだ。足運びからして凄腕の剣士ではないことは確かだ。いかにも普通のおじいさんっぽい。ちょっと残念。だがまだ裏社会の有名人の可能性もある。慎重にいかなくては。
「すみません。つい先ほどまで他の仕事をしていたもので。」
「そうかそうか。冒険者は忙しいらしいからのう。ほれ、そんなとこで突っ立てないで中に入りなさい。」
あれ?背後に対する警戒が甘すぎるぞ。裏社会に住んでいたならそういうことも自然と身につきそうだけどな。もしかして本当に普通のおじいさんとか?・・・ないない。ここまで1回もテンプレらしきものがなかったんだ。そろそろ起こってもいいだろう。
たぶんこれは試されてるんだ。俺がこの人の正体に気付けるかどうか。いいだろう。その試練受けて立ちます。
「それではお邪魔させていただきます。」
「ほっほっほ。邪魔だったら呼ばんよ。もっと気楽にしてくれてええ。」
「わかりました。」
絶対に正体暴いてやる。
はい。正体わかりました。どう考えても普通のおじいさんでした。
あの後1時間ほど話をしておじいさんが普通の民間人だということがわかった。たまに勘ぐるような質問もしてみたけど当たり前のように普通だった。いや、ようにじゃなくて当たり前に普通だった。
大事なことなのでもう1度いうが普通のおじいさんだった。くっそ。ここでもテンプレは起きないのか。
ほんとどうなってんんだこの世界は。