冒険者の準備は大変だ!・・・と思ったのに
前回のあらすじ:町長さん実はやさしいかも。
「それじゃ、登録しましょうか。ついてきて。」
「ああ。」
どうやら登録は先ほどの受付でやるようだ。
「まずはこの紙に必要事項を書いてください。」
そう言って渡された紙には、名前、年齢、性別の欄があった。
「こんだけ?」
「はい。それだけです。」
じゃあ、書くか。・・・やばい。俺この世界の文字書けない。そもそも何で話したり読んだりできたんだ?何故この可能性を考えなかった。
仕方ない、ここは恥を忍んで代筆を頼むか。
「あー、すまないけど代筆を頼めるか?旅人故に字が書けなくて。」
「そうですか。それでは、まずお名前を。」
「テツだ。」
「次に年齢を。」
「18だ。」
「えっ、年下だったの?てっきり同い年くらいだと思ってたわ。」
「いや、俺の方こそ同い年だと思ってたんだけど。」
「あら、うれしいわね。私これでも23よ。」
そんなに変わらんじゃないか。まあでもその少しが女性にとっては大事なんだろうな。
「性別は......女ってことはないわよね?」
「当然男だ。」
「では、ギルドカードを作るので少々お待ちください。」
サリーは横に置いてある長方形の箱のようなものに何かを打ち込み始めた。
機械か?でもこの町に来てから1度も機械なんて見てないしな。ちょっと鑑定してみよう。
(鑑定。)
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ギルドカード作製機
ギルドカードを作る専用の魔道具
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魔道具か。やっぱあるんだな。魔道具制作系のスキルとかあるのか?あるんだったらとってみたいな。
「できました。ご確認下さい。」
渡されたのは縦5センチ横10センチぐらいのプラスチックのようなカードだった。
いや、プラスチックじゃないな。見たことない材質だ。この世界特有のものかな?そこには、
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Name:テツ
Rank:1
Request:
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と書いてあり、その右側は空白になっていた。
「これがギルドカード。」
「左上にはあなたのお名前が。その下には今のあなたのギルドランクが。左下にはあなたが今受けている依頼が書かれています。」
「この右側の空欄は?」
「そこには所属しているクランのエンブレムが入ります。クランとは冒険者どうしで作ったチームのことです。」
「クランに所属するメリットは?」
「クランに所属するメリットはそんなにございません。もともとは一時的に一緒に依頼をうけた人が意気投合して作ったものですから。強いて言うなら、有名なクランに入るとその威光にあやかれるということでしょうか。」
「ギルドランクというのはなんだ?」
「ギルドランクとはあなたの今の力量を示すものです。そのランクに応じた依頼をを受けることかが可能です。」
「依頼はどうやって受けたらいい?」
「ランク6までの依頼はあちらの掲示板に依頼書が張ってあります。そこから受けたいものをカウンターに持ってきて下さい。」
どうやらよく異世界物のラノベで見るギルドと変わらないらしい。
ついでにこのギルドの構造を説明してみよう。
まず入り口から入って正面にカウンターがあって、3箇所に別れている。その左側の壁一面に依頼書らしきものがところ狭しと貼られている。
一方右側は酒場になっている。そこでは筋肉マッチョや軽装備の女冒険者が酒を飲んでいて、まだ明るいうちから酒を飲んでいる姿はいかにも冒険者っぽい。俺の勝手なイメージだが。
「他に質問はありませんか?」
「ああ、今は特にはないな。」
「じゃ、これで登録は終わりね。は~、知り合い相手に敬語って疲れるわ。」
敬語が疲れるほど親密ではないと思うんだが。
「早速依頼を受けてく?」
「そうだな。金もそんなにないし。」
「そう言うと思って用意しておいたわ。」
サリーはそう言ってカウンターのしたから一枚の紙を取り出した。そこには町長からの依頼だと書いてあり、内容は......配達?
「これはお父さんからの依頼でね、武器屋に配達物を届けて欲しいそうよ。はいこれ配達先の地図と配達物ね。」
「わかった。これを届ければいいんだな。行ってくる。」
「ああ、待って待って。依頼を受けるにはギルドカードに登録しないと。ギルドカードだして。」
サリーはギルドカードを受けとるとさっきとは違う魔道具にギルドカードと依頼書を差し込んだ。
それから少しすると、ギルドカードが出てきて、先ほどまで空欄だったRequestの横に私物配達と書かれていた。
「はい。これでオーケー。依頼が終わった後もギルドカードをだしてちょうだい。それと、依頼先から依頼完了の書類を持ってきてね。それではお気をつけて。」
さあ、これが俺の初依頼だ。街中だから失敗しないとは思うけど、気を引き締めていこう。
あ、そういえば依頼失敗したときどうなるか聞いてなかったな。戻ってきたら聞いてみるか。
届け先の武器屋はギルドから1キロほど離れている。
それにしても武器屋か。金がたまったら武器買って魔物退治とかしてみたいな。そんで今度こそテンプレを起こすんだ。魔物討伐のテンプレと言ったらやっぱあれかな。途中でいるはずのない強力な魔物と出会ってそれを倒してみんなに驚かれるってやつ。
でもその金をためるのが大変なんだよな。まず武器や防具にすごい金がかかるだろうし、そのあとも冒険の必需品である水や食料がいるだろうし。テントは・・・まあ野宿できるからいらないだろう。
他にも色々あるだろうし冒険に出れるのはしばらく先だな。
まあ、それは金がたまってから考えよう。そうこうしてるうちに武器屋に着いたからな。入り口の横に盾と剣が描いてある看板がかかっていて、一目で武器屋とわかる。
「ギルドの依頼でお届け物を届けにきました。誰かいませんか?」
店の中は至るところに武器や鎧が飾ってあった。
すげぇ。こんなに沢山の武器初めて見た。剣や槍の他に鞭や鉄の杖のようなものもあった。
だが店員がいない。カウンターはあるがそこにも誰もいない。これじゃ武器とか盗まれるんじゃないか?
「おう!すまんが奥に来てくれ!今手が離せなくてな!」
奥の方から声が聞こえた。しかもかなりでかい声だ。
言われた通りにカウンターの奥に歩いていく。すると、カンッカンッとなにやら鉄を打ち付ける音が聞こえてきた。
その音の方へ進んでいくと、ムキムキのおっさんがハンマーのようなものを振り上げていた。このおっさん身長1メートルくらいしかない。
「あのー。」
「今終わるからちょっと待っててくれ!」
そのままカンッカンッと持っているものを何かに叩きつけていく。あれは多分鍛冶だ。この人自分で武器を打ってるんだ。
それから5分くらいで音が止んだ。
「よし。こんなもんだろう。」
「それで完成ですか?」
「これか?これはまだ完成してないぜ。この後魔道具店に持って行って魔法を付与した後もう一回打たないとな。」
魔法剣か。ロマンだな。
「それより、届け物に来たって?」
「はい。町長からです。」
「ダイモンからだと?一体何だってんだ。」
包みを渡すと武器屋の人は中身を見始めた。武器屋の人って呼び辛いな。
「あの、お名前を伺っても?」
「あ?ああ、俺はイタルトだ。」
「俺はテツです。」
イタルトさんね。ちょっと鑑定してみるか。
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Name:イタルト
Job:鍛冶師
Favor:鍛冶
Skill:鍛冶LV7、火魔法LV1、土魔法LV3
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鍛冶のレベルが7だ。鍛冶スキルを持っているんだろうとは思っていたがまさかレベル7とは。恩恵の効果は素晴らしいな。
しかも魔法が使えるのか。だが確かに火魔法と土魔法は鍛冶には最適だな。
「これは......そうか。しかし大丈夫か?鍛冶ができるようには見えんが。」
「見終わりましたか?それでは依頼完了の書類をお願いします。」
「ああ。だがちょっと待て。その前に話がある。」
「?なんでしょう。」
「これの中にあいつからの手紙が入っていてな。お前さん今日冒険者になったばかりで武器を持ってないそうじゃないか。」
「ええ、まあ。」
「そこでだ俺が鍛えた武器を1つくれていやろう。」
「ほんとですか!」
「ああ。だが条件がある。今の仕事が終わってから1週間俺の店を手伝ってくれ。ちょうど今雇ってるやつが里帰りしていて人手不足でな。」
「この店をですか。」
店員がいないと思ったがそういう理由だったのか。しかし武器屋の手伝いか。いきなり鍛冶をやれってことはないだろうから店番かな。
「わかりました。その話受けさせてもらいます。」
「ありがとな。助かるぜ。そんじゃ、これが依頼完了書だ。」
「確かに受け取りました。」
「よし。次にお前にやる武器だが、どれを使いたい?」
そう言われると悩むな。王道の剣や槍もいいし奇をてらって鞭や鎖鎌なんかもいい。どれも使えるしな。
でもまあここはやっぱり剣でしょ。苗字に剣って入ってるしなんてったってここはテンプレがたくさんの異世界なんだ。やっぱ王道の剣を使わないと。
「それじゃあ剣をください。」
「剣だな分かった。店の中にあるもので好きなのを選んでくれ。」
だったらもう決まってる。店に入った時からこれいいなと思ってるのが1本あるんだ。
刀身から鍔まで合わせて1メートルで刃渡り70センチほどの長剣だ。日本にいたころ習っていた武術の中には2メートル近くある刀を使うものもあったから十分使える。
うん。持った感じも悪くない。重量や重心もいいい感じだ。あとは切れ味だがそれはここで試せないな。
ちなみに鑑定結果はこうだ。
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アイアンソード
鍛冶師イタルトが打った名剣
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「これがいいです。」
「ほう、それを選んだか。見る目があるな。ついでだ。鎧もやる。どんな鎧がほしい?」
鎧か。魔物との戦闘を考えるとできるだけ頑丈なものを使った方がいいんだろうけどあまり重いものを着ても動きが鈍りそうだしな。
そう考えるとできるだけ軽いものがいいんだが。
「できるだけ軽い革製の鎧がいいです。」
「皮鎧か。残念だがここには置いてないな。うちは鉄製専門だからな。皮鎧が欲しいならこの町にあるニクライ商店に行きな。皮鎧1つくらいの金なら出してやるから。」
おお、太っ腹だ。剣だけじゃなく鎧もくれるどころか買ってくれるなんんて。
だが、この町の人たちはちょっと優しすぎないか?普通会ったばかりの人間にここまでするか?いくら何でもやりすぎだろう。
「あの、なんで会ったばかりの俺にそこまでしてくれるんですか?もともと俺はこの町で1週間無償労働するはずだったんですよ。それがどうして。」
「なに、別にお前を特別扱いしてるわけじゃねえぞ。この店は俺のかみさんの方針で冒険者になって最初にこの店に来てくれ客には武器を1本くれてやってんだ。鎧はまあ、あれだ。今後活躍しそうなお前さんへの選別ってことで。だからそれは労働の対価じゃねぇわかったな?」
「はあ、わかりました。というか奥さんいたんですね。」
「俺が1人店をここまででかくできると思うか?全部かみさんの商才のおかげよ。なんたってかみさんには商売の神様のご加護が付いてるからな。」
イタルトさんが特別親切ってわけでもなさそうなんだよな。
サリーなんか父親殴って気絶させちゃったのに親しくしてくれるし、気絶させちゃった人たちも最初は怒ってたけど俺がみんなのために働くってなったら許してくれたしな。普通1年間暮らせるだけの大金逃したら許せないって。
町長さんだって突き放すようにして実は金稼ぎの方法も用意してくれたしこんな親切な武器屋も紹介してくれた。
この町の気質なんだろうか。
「それでは、これで失礼します。剣と鎧ありがとうございます。」
「いいってことよ。鎧は暇なときにうちに来てくれ。案内してやるから。ついでに冒険者セットを安く買えるようにしてやるよ。」
「冒険者セット?」
「冒険者の必需品がまるまる入ってるセットだ。それがあればおまえも冒険者の仲間入りだ。」
そんなのがあるのか。しかもそれを安くしてくれると。これは思ったより早く冒険できるかもな。
さて、日も暮れてきてし急いでギルドに戻ろう。