無償労働は大変だ!・・・と思ったのに
前回のあらすじ:町長さんはきびしい。
俺は今、町長さんに用意してもらった宿にいる。
昨日、町の人達は俺が1か月間無償労働するということで納得してしまった。1か月間とは少し長すぎる気もするが、町の人達がそれで許してくれるならそれも仕方ない。
そんなことより今はこの世界のことについて考えよう。この世界は1年が360日で1日は24時間だ。多分。
なぜわかるかって?まず1年についてだが、この町に来る途中にサリーが、
『国王誕生祭は毎年ケテルの月、1回目のアレフの日に行われるわ。1年の最初の日だから次の年の大会までの10か月を大会の賞金で過ごそうとしてる人も多いのよ。でも王都とかだとケテルの月からコクマーの月に変わる前の36日間で使い切る人もいるそうよ。』
と言っていた。
話しぶりからするとケテルやコクマーというのが日本でいう1月や2月だろう。それが移り変わるまで36日あるようだ。次の年になるまで10か月あるらしいので、おそらく1年は360日だろうと思ったのだ。
というかサリーは何で会ったばかりの俺にそこまで教えてくれたんだ?旅人だから何も知らないと思ったのか?それはそれでありがたいが......
次に1日だがこれはだいたい体感だ。
町長さんが言うにはこの町では3時間ごとに鐘が鳴るらしい。サリー達と会った時に鐘が鳴ってから次になるまでだいたい地球の3時間と同じだった。
そしてもうすぐ太陽がサリー達と会った時と同じ位置に来るが、この世界に来てから俺は今まで7回鐘の音を聞いた。夜中の0時あたりには鳴らなかったからその時間は鳴らしてないんだろう。
このことから1日はだいたい24時間だとわかった。
今のところ分かっているのはこれくらいか。
12時になったら町長さんが迎えに来るらしいけど俺はいったい何をさせられるんだろう。大抵のことは何でもできるつもりだけど......
カーーン カーーン カーーン
12時になっちゃったよ。そろそろ来るかな?
そう思っているとコンコンっとノックの音が聞こえた。
「私だ。入ってもいいかね?」
え、町長さん!?時間ぴったりじゃん!鐘が鳴るまでそこで待ってたのか?んなわけないか。でもこのタイミングはそうとしか思えないな。
「どーぞ。」
「ふむ、失礼するよ。昨夜はゆっくり眠れたかな?」
「はい。おかげさまで。」
本当は鐘が鳴るか確かめるために一睡もしてないけどな。
「それは良かった。ではこれから仕事場へ行こうと思うんだが......。」
「なんです?」
「その学生みたいな服ではちょっとねぇ。」
実は、当初浮くと思っていたこの服装は普通に受け入れられた。というかこの国は服装が現代日本とほとんど同じなのだ。
まったく同じというわけではないが洋服を少しファンタジーっぽくした感じである。
「ほかの服はないのかな?」
「はい。何も持たずに旅をしていたので。」
「着替えもかい?」
「......はい。」
さすがに着替えも持たずに旅ってのは不自然すぎたか?
「ふむ、ということは無属性魔法の使い手かな?まあいい。私の服を貸してあげるからついてきなさい。」
あれ、なんか勝手に納得してくれたぞ。無属性魔法ってのはそんな便利な魔法なのか?
「ほら、早く。」
「あ、はい。」
この宿屋は2階建てで1階は食堂になっている。
なんとこの宿、食事代と宿泊代が別になっているのだ。早く稼ぎ口を考えないと飢えてしまう。
食堂には昼食を食べている人がちらほらいて、その中には剣を携えていかにも冒険者ですという格好をした男もいた。
この世界にテンプレ通りの冒険者やギルドがあるならそれで金を稼ぐのも悪くないな。
町長さんの家は宿から100メートルほど離れている。外見はほかの民家とそんなに変わらない。町長なのだからもっと大きな家に住めばいいのにと思うが、これも気の優しい人柄故なのかもしれない。
「さあ、入って。」
「おじゃまします。」
「君に合いそうな服を探してくるから椅子に座って待っていてくれ。」
そう言って村長さんはどこかへ行ってしまった。言われた通り椅子に座って待つとしますか。
椅子に座ってから数分もしないうちに村長さんが戻ってきた。
「私のお古だがこれを使ってくれ。」
「ありがとうございます。」
うん。普通の服だ。Tシャツのようなものと普通のズボン。
「着替えました。」
「よし。着ていた服は後で宿に届けておくからそこに置いておいて。では行こうか。」
「はい。」
あ、そんなに動きずらくない。見た感じ堅そうだったけどそうでもないな。なんてことを考えながら歩いていると、町長さんが話しかけてきた。
「ところで、君は何か得意なことはあるかい?」
「得意なことですか、説明してくれるなら大体何でもできますが特に力仕事が得意です。」
「それは良かった。これからしてもらう仕事は力を使うからね。旅人だから力も強いだろうと思ってそこにしたんだ。」
そういうことは先に聞いとけよ。
そういえばこの町に来てから1回も鑑定使ってないな。仕事先に着くまでちょっと暇だし使ってみるか。
(鑑定。)
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Name:ダイモン
Job:町長
Fovor:
Skill:裁縫LV3、料理LV2、体術LV2
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この人裁縫と料理が得意なのかよ。見た目からじゃ全然想像できねぇ。だって町長さんアスリートみたいな体型してんだぜ。
Fovorがないってことはやっぱ神様の恩恵は特別なものなのか。というか町長さん苗字ないんだな。
そういえばこ鑑定って人にしか使えないんかな。試してみるか。
(鑑定。)
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普通の服
ダイモンが自分で作ったごく普通の服
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できた。この服って町長さんが自分で作ったのか。さすがLV3なだけあるな。
俺も裁縫スキル覚えたら自分で服を作れるようになんのかな。
「さあ、着いたよ。ここが今日の仕事場だ。」
その後も色々なものを鑑定しているといつのまにか仕事場に着いていた。目の前には相当大きな建物がある。
「ここは?」
「冒険者ギルドだよ。」
冒険者ギルド!やっぱりあったんだ。いいねぇ、冒険者ギルド。やっぱテンプレ的にはこれがないとね。
「君にはここで魔物の解体を手伝ってもらう。」
「魔物の解体、ですか?」
「そう。魔物は皮や牙、肉などが使えるからね。」
魔物の解体ときたか。てっきりギルド登録して魔物退治でもさせられるのかと思ったのだが。まあ、ギルドでのテンプレはまた今度にしよう。
ギルドの中に入ると俺たちはそのまま受付の様なところに向かった。
「あ、町長。その人が今日から1週間手伝ってくれる人ですか?」
「ああ、そうだよ。紹介しよう、テツ君だ。」
「テツです。よろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします。それでは早速ですが、仕事に移りましょう。」
「はい。」
「こちらです。ついてきてください。」
そう言うとカウンターの横の跳ね上げを開けて奥に歩いていった 。俺もその後についていくとそのまま裏口から出てしまった。
「ここです。」
そこには倉庫があり、その前には馬車が止まっていた。どうやら馬車の中身を倉庫に移しているようだ。
「今馬車から倉庫に移している魔物を解体するのがあなたの仕事です。倉庫の中にもギルド員がいるので、詳しいことはその人から聞いてください。それでは私は私の仕事がありますので。」
そう言って受付にいた人は戻っていった。とにかく倉庫の中に入ってみよう。
中では10人ほどの人が作業をしていた。
「すみませーん。今日からここで働くテツですが。」
「おう、やっと来たな。とりあえずこっちきな。」
そこにいたのは最初に俺が気絶させてしまった人の1人だった。
「俺はここの責任者をやっているティグレだ。よろしくな、テツ。」
「はい。よろしくお願いします。」
「お前には俺が受けとるはずだった賞金の分働いてもらわなにゃいかんからな。しっかり働いてもらうぜ。まずは説明しながら一匹解体するからよく見とけ。」
そう言ってティグレさんは近くにあったオオカミを解体し始めた。
普通の日本人なら動物の解体なんて見たことないんだろうけど俺は武術の修行をする過程でさせられたからな。なんでも生き物の体の構造を知らないと使える技術も使えないかららしい。
「どうだ。わかったか?」
「はい。わかりました。」
「そうだろう。こんな複雑なもん素人が1度見ただけで――なんだって?」
「ですから、わかりました。」
「おいおいまじかよ。それじゃあ見ててやるからそこの1匹やってみろや。」
「はい。」
俺はおもむろに指差された1匹を手繰り寄せ解体し始めた。
えっと確かこうだったな。んで次にこう、そしてこうか。最後はこうだったか?
「できました。」
「すげぇ。どの手順も完璧だぜ。お前本当に旅人か?どっかから逃げてきた酪農家とかじゃないのか?」
「ただの旅人ですよ。」
なんだよどっかから逃げてきた酪農家って。
「まあそこまでできるなら1人でも大丈夫か。じゃ、このフォレストウルフ全部頼むぜ。」
「え、これを全部ですか!?50匹近くいますよ!?」
「おう。頼んだぜ。」
本気かよ。獣を解体すんのって結構体力使うんだぞ。いくらなんでも多すぎだろ。
......いつまでも愚痴ってないでできるだけ早く終わらせよ。
カーン カーン
「おーい。調子はどうだ。」
ふう。やっと終わった。あのまま本当に6時間オオカミの解体やってたよ。
絶対途中で力尽きると思ってたんだが意外と疲れなかったな。さすが世界トップクラスの身体能力。
だがこれでテンプレが起こるだろう。終わるはずがない作業を終わらせてしまったこいつはいったい何者だ?というテンプレが。
「お、よしよし。きちんと終わってるな。じゃあもう6時だから上がっていいぜ。」
「えっ。あっはい。」
あれ?驚かないぞ?どういうことだ?ちょっと聞いてみるか。
「あのちょっといいですか?」
「ん、なんだ?」
「6時間で50匹解体するというのは少ないのでしょうか?」
「いや、普通だな。むしろ素人としては十分に多い。熟練の料理人なんかは1時間で100匹捌くというがというがな。ああ、安心しろ。明日から増やすなんてことはしないから。」
「そ、そうですか。」
1時間で100匹とかどんな化け物だよそれ。そんなのがいるんだったら6時間で50匹ぐらい普通だよな。
くそう。ここでもテンプレが起きなかった。どうなってんだこの世界は。
「それじゃあ、今日は帰らせていただきます。」
「おう。明日も忘れんじゃねぇぞ。」
はあ。とりあえず宿に戻って金稼ぎの方法を考えないと。そう気持ちを切り替えギルドを後にしようすると、誰かに呼び止められた。
「あら、テツじゃない。仕事は終わったの?」
「サリー?なんでここに?」
「お父さんから聞いてないの?私、ここの職員よ。」
「そうなのか。知らなかったよ。」
「その様子じゃなにも聞いてないようね。お父さんが最初の仕事場にここを選んだのには理由があるのよ。」
「理由?」
そんなの一言も聞いてないぞ。
「あなた今お金を稼ぐ方法がないでしょう?それでギルドに登録してもらってお金を稼いでもらおうというわけよ。なにもお父さん本気でお金を稼ぐ方法は自分で探せと言ったわけじゃないのよ。ギルドなら私がいるから稼ぎの大きい仕事を回してあげられるしね。」
「そうだったのか。知らずに帰るとこだったよ。ありがとう。」
「どういたしまして。お父さんも困っている人を突き放すほど厳しくないわよ。というかどうして説明しなかったのかしら。」
むむむ、町長さん実はやっぱり優しい人なんじゃないか。あ、でも最初に無償で働けって言ったのも町長さんなんだよな。やっぱりよくわからん。