これが俺の日常だ!・・・と思ったのに
「おーい。待って、待ってよー。」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。
「早く来いよー!」
と言いつつも走る速度は落とさない。だってそんなことしたら目当ての物が売り切れるじゃないか。あれが買えないと俺は死んでしまう。
「そんなに急がなくても売り切れないよ。」
「何を言う!世界で初めて店で売られるんだぞ!客が殺到してるに決まってる。」
「いや確かに世界初だけど発売と同時に買うなんてこの辺の人じゃけんちゃんぐらいだと思うよ。」
何をバカなことを。あれの発売を待ってない人などいないだろう。
「そんなことはない。現にお前も走って向かっているだろう。」
「僕は別にゆっくりでもいいんだってば。けんちゃん一人だと危なっかしいから一緒に走ってるんだよ。」
俺は子供か。もう高3だぞ。
「だいたい僕は今日買えなくてもいいんだから。」
はっはっは、笑わせてくれるぜ。今日買えなくてもいい?どんな冗談だそれは。
「そんな貧弱な男に育てた覚えはないぞ!」
「僕もけんちゃんに育てられた覚えはないよ。だいたい貧弱ってなにさ。たかだか本一冊でしょ。」
そう、今日は待ちに待ったライトノベルの発売日なのだ。とある著名な作家が書いているシリーズ物の最終巻が発売される。それを買わずしてなにがラノベ好きか。
おっと、自己紹介がおくれたな。俺の名前は剣山鉄。強そうな名前だろう。身長183センチ体重67キロで細マッチョだ。高校3年生で陸上部に所属している。
小さい頃から漫画やラノベが好きで本の主人公のようになるために色々なことをしてきた。
ここからは多少自慢になるが、俺は所謂天才だったらしい。
強くなりたくて始めた空手、剣道、柔道は中学1年の頃には段を持っていた。
精神力を鍛えようと始めた書道、花道、茶道は何度もコンクールで優勝した。
勉強も常に学年1位で成績も優秀だった。
中学2年の頃には自分が天才だと分かっていた。
中学3年のときはわざわざ他県にまで行って武術を習った。
そんなわけで高校から陸上部に入った俺は当然エースになり何度もチームをインターハイまで連れていった。
「ふう、やっと追い付いた。やっぱ速いねけんちゃん。」
俺のことをけんちゃんと呼ぶこいつは鈴木洋一。小学校の頃からの幼馴染みだ。
こいつもかなりのラノベ好きで俺と一緒に小さいときから特訓している。
こいつは多分秀才かとんでもない努力家なんだと思う。最初は運動会音痴というのも烏滸がましいほどだったのに今じゃ息を切らさずに俺の走りについてこれる。
柔道では2段を持っている。勉強だってそうだ。最近は学年2位になっている。
ちなみに部活には入っていない。
「どうしたの、立ち止まって?」
「いや、なんでもない。」
俺についてこれるんだからどの部活でも活躍できたはずだ。何故部活に入らないのかは聞いても教えてくれなかった。
まあ、いい。そんなことより今は本屋だ。いつまでも突っ立ってないで早く入ろう。
「さーて、どこにあるかなー?」
・・・あれ?おかしいな。ラノベのコーナーに無いぞ。ってことは新刊のコーナーか?
「......ん?」
新刊のコーナーにもないぞ?一体どういうことだ。まさか本当に売り切れてしまったのか?
いやいやそれはない。だってここは通称本屋街と言われるほど本屋の数が多いんだぞ?
しかもその中から一番でかい店を選んだんだ。無いはずがない。
「あ、見てけんちゃん。店員さんが新刊並べ替えてるよ。」
なんだ、来るのが早かっただけか。それもそうか、何せ今は朝の5時だからな。
さて改めて探しますか。
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あの後やっぱり無かったなんてことはなくきっちり二人とも買って、今は家に向かっている途中だ。
「あー家まで待ちきれねぇ。今すぐ読みたい。」
「だめだよけんちゃん。歩きながら読んだら危ないよ。」
「わーってるよ。」
となると家に帰るまで暇だな。よし、俺がどれくらいラノベが好きか話しておこう。
あれは確か小学1年の夏休みだったかな。洋一の家に行く途中で「けんちゃん危ない!」
ゴシャァ!!
......何だ、何が起こった?腹が、痛ぇ。と言うか、熱い。
何だこれ、どうして世界が横になってる?目の前に落ちている足みたいなものは何だ?このズボンは、俺の学校の......
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!???」
?......誰の声だ?俺のか?痛いのか?感覚が無くなってきた。
......ああ、俺、死ぬのか。まだラノベ読んでないのに。ラノベといえば、さっき買わないと死ぬとか言ったけど買っても死ぬのか。
洋一が来るのが見える。最後の景色は洋一か。どうせなら美少女が良かったな。
皆さん初めまして。神裂忍です。初投稿ですが、どうか温かく見守ってください。