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勇者アリスの異世界奮闘記  作者: 壱宮 なごみ
第1章:Road of the Drop
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すれ違う両王 ―姉弟―

 反射的に目を閉じたアリスが恐る恐る目を開けた時、そこには先ほどと同じ光景があった。オーロラのような虹の光沢を持つ、半透明のドーム。それが今度は、アリスだけでなく、アーサー王をも包むように形成されていた。


「さっきのドーム……また……?」

「見事だアリス。お前には才があるな」

「えっ?」

「王宮にて渡しただろう。これは、クラウ・ソラスだ」

「クラウ・ソラス!? でもアレって確か、剣の形をしてて……」


 槍のような枝を全て弾き返すドームの中、アリスは自らの手で確かめる。言われてみれば、クラウ・ソラスがあったはずのネックレスの先端がない。


「そうだな。だがこれは祈りを具現化する魔法具。アリス、盾を欲するお前の願いによって、このようなドーム型へと変化したんだ」

「私の願いで、ドームの形に……」


 大変なお宝を頂いてしまったのだと今更ながら実感するアリス。

 一方、クラウ・ソラスによって全方向からの攻撃を防がれることとなったモルガンは、冷静だった。


「小娘ごときの祈りなど、たかが知れている。先と同様、破壊するまで!」


 間髪入れずに降ってくる木で生成された槍の雨。だがクラウ・ソラスのドームは、ガツン、ガツンと音を立てながらもその全てを防ぎ切っている。可能ならばこのまま維持し続けたいが、アリスがそう祈ったところでクラウ・ソラスが応えてくれるかは未知の領域だった。

 と、剣を構えるアーサー王が不意に「昔話」を切り出した。


膠着(こうちゃく)状態のついでだ、聞いて欲しい。父上亡き今こそ、全て話せる。14年前、キャメロットの重鎮たちはこぞって『魔女狩り』の計画を実行に移そうとしていた。その皮切りに、父上は実の娘を選んだ」

「『魔女狩り』だと……?」

「当時の俺には止める力がなかった。しかし今は違う。俺は、キャメロット国王として誓える。魔力の有無に関わらず、誰もが等しく安寧(あんねい)を得られる……キャメロットはそのような国家に変わってきたと」


 アーサー王の背中越しに、アリスはモルガンの表情をとらえる。分かりやすい変化はなかったが、ほんの少しだけ、「木の槍」の勢いが弱まったような気がした。


「まだ一部には魔力保持者否定派の存在がある、それは否めない。だが俺は、俺の世代で成し遂げたい。アヴァロンの女王モルガンよ、魔力保持者に対する偏見を解消すべく、力を貸してはくれないか」


 僅かだが、これまで聞いてきた声に比べて震えが混ざっているように感じた。

 血を分けた姉を追放した日、幼かった彼はどんな気持ちで眠ったのだろう。国王の座を譲り受ける(というより父王と死別する)まで、誰にも真実を言えなかったのだ。一緒に国を背負っている円卓の騎士たちにすらも、きっと。

 これまでアーサー王の中で積み重なってきた苦悩や後悔が、モルガンにもちゃんと伝わればいいのに……アリスがそう思ったのとほぼ同時に、モルガンがゆっくりと口を開いた。


「アーサー……あまり自惚(うぬぼ)れるな。笑えぬ冗談の数々、もはや聞き飽きたわ」

「両国の民のため、これ以上の対立は避けたい! 俺はそのために、」

「黙れ! 私に追放を告げたその口で、平和や友好を語るな!!」


 彼女の頬に一筋の粒が流れ、宙に舞った。


「私はお前のようにはならない……私は、私の国家を、アヴァロンを、キャメロットに(まさ)る国家にする!! お前の首と魔法石は、平和の(いしずえ)にしてくれるわ!!」


 むしろ激しさを増し始めた木々の攻撃を前にしながら、アリスの思考に混乱が生じる。それは、リスティスの宝物庫にて、ロビン・フッドと遭遇した時と同じ感覚だった。すなわち、「モルガンは物語に出てくるような悪役とは違うのではないか」という疑問。


―「君は恐らく君の歩むであろう道を何らかのフィクション・ファンタジーと同調させてしまってるんじゃないかなぁ」


 脳裏(のうり)を駆け巡る、チェシャ猫の言葉。そうだ、この冒険譚は、自分の知っている勧善懲悪ストーリーに沿ってない。敵の総大将・モルガンが魔力を使う様子は、まるで、そうでもしないと泣き叫んでしまいそうだ、とでも言うようで。


「……どうして、」


 疑問に思ったら問わずにいられないアリスの性質が、迷いを産んだ。その瞬間、クラウ・ソラスのドームが先程と同じように亀裂(きれつ)を作り、光の粒となって(はじ)け消える。

 思考に気を取られていたアリスは、すっかり失念していた。モルガンによる怒涛(どとう)の「木の槍」連撃が、際限なく自分とアーサー王の命を(おびや)かしていることを。


「伏せろアリス!」

「仕留めろ」


 防御壁がなくなった二人に向け、四方から迫る「木の槍」。ハッと我に返ったアリスの身体は、アーサー王に強く抱き寄せられ、聴覚情報が状況把握の全てになった。


 スパンスパンッ、ザシュッ、


「ぐっ……!」


 何本か斬って防いだのは分かった。が、それ以上に絶望的な音も聞こえてしまった。


「詰み、だ」


 モルガンの宣告に、アリスは恐る恐る顔を上げる。


「あ……アーサー様っ!!」


 彼の手に、もはやエクスカリバーは握られていなかった。右肩と左(もも)に刺さる「木の槍」は太く、弓矢やボウガンで射られる比ではない痛みも想像できる。

 モルガンが指を動かすと、木々は元の状態に戻り、同時にアーサー王は膝を折った。貫かれた傷口から溢れる血に怯えながら、アリスも同じく腰を落とす。


「ごめんなさっ……私、」

「大、丈夫だ……」

「でも、」

「これぐらいのこと、別にいい……」


 こんな怪我を見るのは初めてで、どう止血するのか、何をすればいいのか、一切わからない。置かれている状況が恐ろしくて、涙も出ない。

 呼吸を整えるので精一杯のアリスに対し、アーサー王は苦しそうに微笑む。その姿に、モルガンは一つの問いを投げかけた。


「何故その小娘を庇う……一国を背負うお前が、荷物同然の似非(えせ)勇者などを」

「俺の考える、王としての存在意義だからだ……」


 庇われたアリス自身、モルガンの疑問に同意してしまった。

 この世界に限ったことではない。元の世界でも総じて、権力者は庶民の傷など気にかけないイメージがあったからだ。しかしアーサー王は、痛みに言葉を途切れさせながら、即答する。


「我がキャメロットは……誰一人、取りこぼすことなく、守る国にする……来賓(らいひん)も、同様に……」


 洗脳されたランスロットに殺されかけた時も、国王直々(じきじき)に助けに来てくれた。というより、あの時は、国王直々にランスロットの洗脳を解きに来たのだ。

 つまり、彼の言動の全ては、彼の理想とする「国王像」に基づいているのだろう。


「アリスは、俺の大切な客だ……。絶対に、俺がいる所で、傷つけさせない……」

「アーサー様っ……」


 なおも左腕でアリスを庇うように抱きしめながら、彼は言う。自分の在るべき姿を、自分にも言い聞かせるかのように。


「王は、民を守るために、いるんだ……。だから俺は、民にとって最大の盾になる……。そして、その盾を支えたいと、言ってくれた……」


 何も言わず、ただ高圧的な瞳をアーサーに向け続けるモルガン。そんな彼女に向けられたのは、懐かしむような眼差(まなざ)しだった。


「嬉しかった……ともに目指そうという、幼き日の言葉……実現したいと、思ったんだ……」



 父王は教育熱心な人だった。国を継ぐアーサーと同等の教育を、姉のモルガンにも受けさせていた。国政について学ぶ時は、常に3人で。僻地(へきち)の視察も、民の暮らしを見学させる時も。


「遠い昔、語り合ったこと……お忘れになりましたか……姉上」


 体力が落ちてきているのか、アーサー王の声は次第に細く、(かす)れ始める。不安を隠せないアリスの耳に、それまでより小さく呟くような、モルガンの返答。



「……覚えているから、建国したのだ」


 赤い瞳から、透明な涙が滑るようにこぼれ落ちた。

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