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勇者アリスの異世界奮闘記  作者: 壱宮 なごみ
第2章:Mechanical Heart
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(情なき)赤い革靴

 みるみる遠くなっていくカーレンの姿を呆然と眺めていたアリスは、ハッと気付く。


「もしかしてこの車、パーツごとに創造されてるんですか?」

「おう! その方が、こういう時に対応しやすいんじゃねぇかと思ってな。ついでに、もし俺があんな風にこの車から離れても、動かすことはできるぜ。自動運転にしたのはそのためだ。嬢ちゃんが行きたい場所をイメージすれば、そっちに進んでくからな」

「そんな、縁起でもないこと言わないでください。分断されるのなんて、」


 不安げに返すアリスは、ふと袖を引っ張られているのに気付いて振り向く。あと少しでセーターを編み終わりそうだった彼女が、後ろを向きながらアリスの袖を引いていたのだ。


「どうしたの? 一体……」


 荒い運転の中で編み物を続けていたせいで気分が悪くなったのか、そんな予想をしつつ後ろを確認したアリスは、目を見開いた。


「ジャックさん……アレって、」

「何だ……あの数」


 いつかテレビで見たことのある、イナゴの大群に近いと思った。森の中をぴょんぴょんと飛びながら迫ってくる、無数の何か(・・)。決して車のスピードは遅くない。アリスの世界に置き換えると、高速道路じゃなきゃスピード違反になる程度の時速は出ている。それなのに、徐々に距離が縮められているのは何故なのか。そして、迫るそれらは何なのか。


「……赤い革靴(レッドブーツ)

「え?」

「そういうことか……あの乱暴なお嬢ちゃんは、生粋(きっすい)の殺し屋だ」

「カーレンが!? えっ、てゆーかアレ、カーレンなんですか!? さっき確かに荷台ごと、」

「本物の人間は一人だけ。あとは全部、同じ姿をした殺戮(さつりく)ロボットだ」

「ロボット!?」

「大方、あのお嬢ちゃんをモデルにしてオズが大量生産したんだろーぜ。つまりアレは、相当ハイスペックな奇襲部隊ってことだ」


 ハンドルに手をかざし、車のスピードを上げるジャック。だが、追手(ロボットの大群)は引き離されることなく付いてくる。信じられない、と零すアリスに対し、ジャックは予想が出来ていたようだった。


「あの無表情なお嬢ちゃん、赤い革靴(レッドブーツ)履いてたろ」

「えっ、と……そう、ですね……綺麗なショートブーツでした」

「アレが脚力を上げるアイテムだ。つーか、足首から下が丸ごと機械(メカ)なんだろーぜ。つまり……完全に追っ払うには、誰かが引き受けなくちゃいけねぇ」


 最後の一言からジャックの意向を察し、アリスは咄嗟に彼の腕を掴む。


「ダメです、ジャックさん。私、その案には賛成できません」

「小屋の前にフランケンが残ったのと同じ理由だろ? あの最先端ロボット軍が狙ってんのは、魔力保持者()だ」

「でも、」

「大丈夫だって、信じてくんねーか?」


 ぽんっと頭に乗せられたジャックの掌。全然系統の違う顔のはずなのに、その微笑みはマーリンの穏やかさを思い出させるもので、アリスは言葉を返せなくなってしまう。


「嬢ちゃん、俺はアンタを守りたい。無事に元の世界に帰してやりたいし、俺が叶えられることなら何だって手伝いたい」

「ジャックさん……」

「そんぐらい大事なんだ」

「どうして、ですか? 私には、そこまでしてもらう理由なんて、」

「まぁその辺は、全部落ち着いたら話すからよ。とりあえず赤い革靴(レッドブーツ)の相手は、この大魔法使いジャック・ビーンズに任せといてくれ」


 今度はニカッと明るい笑みを見せ、ジャックは自分の腕を掴むアリスの手を優しくほどいた。


「いざ転移させん、この身を置いて」

「待っ……」


 アリスの言葉は途切れ、車が走っていた道にはジャックが一人、残される形となった。


「潔いね」


 初めに追い付いたカーレン――もとい、彼女を模したロボット――が、斧を振り下ろしながら言う。その斧はかわされるが、後から後からやって来るカーレンが、同じようにジャックへの攻撃を絶やさない。


「避けるのは悪あがき?」

「時間稼ぎ?」

「無駄だよ」

「残りの私が追いかける」

「一人じゃ手に負えないよ」

「向こうまでカバー出来ない」

「貴方はオズ様のものになる」

「アリスは処刑される」

「意味ないよ」

「全部意味ない」

「抵抗しても怪我するだけだよ」


 数十体のロボットを相手に、降りかかってくる斧の攻撃を全てかわしながら、ジャックは考える。確かに、圧倒的劣勢であることは間違いない。が、相手はロボット。壊したところで誰も傷つかないし、血を流すことだってない。たった一人の本物を見破ることさえできれば……


「っと、その前に、だ」


 ジャックは斧を避けたついでに、地面に手をついた。だがそれは決してよろめいたのではなく、ある魔法を発動するため。


「ノザンで生きる強い木々よ、俺達を囲う要塞(ようさい)とならん!」


 次の瞬間、森の至る所で枝が生きているようにうねり、しなり、森の外へ出ようとする一部のロボットを容赦なく弾き返した。


「何コレ」

「木のクセに」

「変なの」

「出れない」

「通さねぇよ。アンタの目的は俺の捕獲なんだろ?」


 ジャックは不敵な笑みを見せ、自分を取り囲むカーレンを挑発した。


「競争しようぜ、赤い革靴(レッドブーツ)。アンタとアンタのコピーロボットが俺を捕まえんのが先か、俺がアンタの本体を見つけてぶっ飛ばすのが先か」


 無表情の棒立ちでジャックを囲むロボット達が、一体ずつその口元に孤を描いていき、同じ順に両手の斧を構え直していく。


「……いいよ」

「……ちょっと面白そう」

「……無意味な勝負だと思う」

「……魔力には限りがあるもの」

「……それをいたぶる理由ができた」


 4体のカーレンが地を蹴り、ジャックに迫ってきた。


「まずはどこから落とされたい?」


 前から迫る斧は首、右から迫る斧は胸、左から迫る斧は腰、後ろから迫る斧は膝を切り落とす軌道をそれぞれ描く。


「縛り上げん、四方の斧」


 ジャックの手の中で豆粒が光り、4人のカーレンの動きが止まる。


「どこも落とされたくねぇに決まってんだろ」

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