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勇者アリスの異世界奮闘記  作者: 壱宮 なごみ
第1章:Road of the Drop
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エピローグ2 ―国王の休息―

「うわぁ、結構やんちゃしましたね」


 終戦後、ハートキングダムから駆け付けたマーリンの転移魔法によって、ヴァンが来た。俺の怪我の具合を見て最初の一言がそれだ。


「無茶し過ぎですよ。姉君も相当怒ってたんでしょうけど、それを全部受け止めようとなさったんでしょう」

「御身は一人のものではなく国家を背負っておられるのですぞ。もっと(つつし)んで行動なされませ」

「二人がかりで小言をぶつけてくるな、今の俺は怪我人だぞ」

「関係ありません。むしろ私は、ここぞとばかりに言わせてもらうつもりです」

「同じく。陛下に(わたくし)どもの考えをお伝えする良い機会でございますからな」

「勘弁しろ……まったく」


 目を閉じ顔を背けたところで、二人の小言は湯水のように溢れてくる。

 エクスカリバーがあっても魔力保持者とのタイマン勝負は危険だ、アリスがクラウ・ソラスを使えなければ危なかった、そもそも単独でアヴァロンに向かったのが早計だった、日頃から単独で王都の様子見に行くのはよせ、交易の書類をトリスタンに任せるのはやめろ、外出時の麻のマントはみすぼらしい、スフレばかり食べては栄養が偏る……


「おい、今回のこととずれてないか」

「いいえ陛下、日頃の行いから正さなければ、有事の際に思わぬ形でツケが回ってくるものです」

「ヘルシング卿のおっしゃる通りですぞ」


 2対1の現状では、どうにも()が悪い。仕方なく、大人しく聞き入れる素振りをしながら聞き流すことにする。

 と、不意に扉がノックされ、ガヴェインが入ってきた。


「失礼するぜ、アーサー様。身体はどーなんだ?」

「横になっていれば問題ない。それより何かあったのか、ガヴェイン」

「ああ、ちぃっとデカい建物がグラついてたんだが、ついさっきとうとう崩れちまって……何人か閉じ込められてるらしいんだが、俺一人じゃ足りねぇんだ。マーリン、一緒に来てくんねぇか?」


 いつになく真面目に頼むガヴェイン。


「大丈夫ですよ、マーリン。重傷・重体の面々は私とルーカンで引き受けます。街の方を頼めますか?」

「そうですな、お任せを」


 一礼したマーリンは杖をふるい、ガヴェインと共にリスティス城下の街へ転移する。


「さてと、これを機に義手と義足にしてみます? 実は新しいタイプを作ってみたんですが」

「遠慮する」

「それは残念」


 局所麻酔を打ち、傷口を縫合(ほうごう)していくヴァン。意識が多少ぼやける中、俺は尋ねた。


「アリスは」

「ご自分の国に帰ったそうですよ」

「……そうか」

「あんなに勇敢で一生懸命な女性、世界中を探してもいないでしょうね」

「……そうだな」

「ガヴェインやルーカン、それにランスロットも懐いたらしいじゃないですか」

「……ああ」

「猫さんもせめて、別れの挨拶くらいはさせるべきだったと思うんです」

「……そうだな」

「もったいなかったですね」

「……ああ」

「だから、入国した際にお妃にしちゃえば良かったんですよ」

「…………何でそうなる」

「あれ? 残念。流れで『そうだな』っておっしゃると思ったのに」

「ヴァン、」

「怒らないでくださいって、冗談です」


 俺が睨んだところで、ヴァンはいつもの微笑を向けるだけ。

 と、そこで再び部屋の扉がノックされる。


「入室可能?」

「どうぞ」

「陛下、お加減」

「大事ない。ありがとな、ルーカン」

「ホント、陛下はルーカンに甘いですよね。縫合してるの私なんですが」

「感謝している。が、お前は余計なことを口走り過ぎなんだ」

「余計でしたか?」

「ああ、非常にな」

「だって、アリスさんのこと気に入ってたんでしょう?」


 ヴァンとの付き合いは長いが、未だにこの「何でもお見通しですよ」という自信に満ちた表情は気に食わない。また、俺が気に食わないと知っててその顔を向けるのだから、厄介な専属医だ。敵対する立場でなかったことは、俺にとって救いなのだろうが。


「勇者、また来る?」

「さぁ……ただ、アリスさんが来るということは、この世界が勇者を必要としているってことになります。私個人としては、アリスさんにはお会いしたいですが、できればもう戦争などは御免ですね」


 ヴァンがほんの少し眉を下げ、ルーカンに微笑む。


「ルーカン()寂しいですか?」

「多少」

「ですって、陛下」

「俺は何も言っていない」

「そうでした。そういうことにしておきましょう」

「ヴァン、」

「怒らないでくださいってば。治りが遅くなりますよ」

「関係ない」

「陛下、安静」

「……分かっている」


 ヴァンが縫合を終え、俺はルーカンの入れてくれた紅茶を飲んだ。カモミールの香りを感じながら、一息つく。


「では、私は他を()てきます」

「ああ、頼んだ」

「ルーカンはココに居てください」

「承知」


 再び横たわる俺を見張るように、ルーカンは傍の椅子に腰かける。


「俺は随分、信用されてないんだな」

「陛下、ランス同様。無茶する」

「しないさ。当分は、な」



―「貴方は生きるべき人なの!」

―「帰るべき場所がある! それにっ、貴方はその場所を、自分で守るんでしょうっ!!」


 思い出されるのは、彼女の言葉。

 俺は、これからもキャメロットを守らなければならない。俺を国王と認めてくれた、全ての民のために。姉上への罪悪感を理由に、逃げてはいけない。それを教えてくれたのは、無鉄砲と思わせるほど勇敢な彼女だ。


「ルーカン、俺は少し眠る。アグロヴァルが落ち着いたら、ここに呼んでくれ」

「承知」


 目を閉じた刹那、再び彼女の声が脳裏によみがえった。

 


―「私は、アーサー様こそキャメロット国王に相応しいと思います」


 温かくキリリと澄んだ、愛おしい声だった。

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