5:明の決意
(明視点です)
『この放送終了後より、あなた方にブザーをお渡しします。
そのブザーは、あなた方がトイレに行きたい時等に鳴らしてください。
こちらの者が直ちにそちらへ伺いますので。
朝食、昼食、夕食はこちらから一定の時間で配膳致します。
その時に飲み水もお配り致します。
また、その時に結論―・・・ああ、どちらがここから脱出するか、決まりましたらお申し付け下さい。
その時点でこのゲームは終了致します。
ただし、このゲームでの結論は脱出する側が「私が脱出する」と言うのではなく、取り残される側の人間が「私が死ぬ」とおっしゃって下さい。
そうでないと・・・裏切りが、生まれてしまうかもしれませんしねぇ。
あなた方も、人の子・・・ここから生きて出たいという気持ちはおありでしょうから。
ああ、それと・・・ずっとここに居つかれても困りますので、ゲームの期限を、今日を1日目として7日間とします。
ですので、7日目の夕食配膳時までに結論をお出し下さい。
それと、この放送は朝10時と夜10時に行ないますので・・・くれぐれも、聞き逃すことのないように。
それでは、健闘を祈ります。』
奴のふざけた放送はこう続いた。
それから、また掠れたクラシック音楽が部屋中に響いて、やがて消えた。
その放送内容はまるで、不気味なホラー映画。
俺は、映画の哀れな主人公になったような気がして少しおかしく思った。
それでも、笑みをもらすような余裕は無かった。
未来は何も言わずに、俺の手を震えながら握っていた。
長い時間、未来と話すうちに夢ではないと、ひしと感じた空気が、また非現実的なもののように感じた。
こんなことが、あるか、何の冗談だ。
これは、長い長い夢、なぁ、そうだと言ってくれ。
すがるような気持ちで見上げたスピーカーも、今は無責任にも黙り込んでいた。
ちくしょう、ちくしょう。
ギリ・・・と歯軋りをする。
「…ねぇ、明、約束…したよね、絶対、ふたりでここから出よう、って」
ふいに、穴から未来の声がした。
小さく、か細い声だった。
“約束”
その言葉を聞いた瞬間、俺の恐怖心は冷たい壁に吸い込まれるように消えていった。
何を躊躇することがある?
俺は、彼女に約束したじゃないか。
俺は、ある決心をした。
揺るぎない決心を。
(俺は、どんな手を使ってでも…未来をここから出す!)
そう、どんな手を使っても。
俺は、約束した。
“俺が絶対、お前を守ってやるから”
俺はそう、彼女に約束したんだ。