4:第一回放送
それから少しの間、お互いに手を繋いだまま恐怖心をかき消すように会話をし続けた。
この空間の話じゃなくて、日常にするような他愛も無い話。
去年のクリスマスの話だとか、あの映画を見に行きたいだとか、そんな話。
「それでねー、明・・・来年は、ね・・・」
そこまで言って、なんだか奇妙な気持ちになった。
『来年』
こんな何が起こるかわからない部屋の中で、『来年』を迎えるのだろうか。
そもそも、今の状況の私たちに未来なんてあるの?
忘れよう、忘れようとしていた不安が再び浮き上がる。
自然と明の手を握る強さが増したようで、心配そうな明の目が穴の隙間から見えた。
「・・・大丈夫か?」
「・・・うん、大丈夫。来年は、ね・・・明、もっともっと幸せな年になると思うの」
涙が滲んだ。
明に気づかれないように声を抑える。
抑えてるのに、どうしてだろう。
「・・・泣くな、未来」
明は静かに言った。
どうも、彼には隠し事はできないな・・・と思って、小さく笑った。
少しだけ、幸せだった。
「もう、泣かないよ・・・私、今決めたから」
空いた右手で涙を拭う。
もう、泣かない。
真っ直ぐに目線を上げた。
そこにかち合ったのは、学校なんかにあるような放送のスピーカー。
全く気づかなかった。
小さく息を呑んで、明に問いかける。
「ねぇ、明の方にも、放送のス・・・」
言いかけた瞬間、急にそのスピーカーから小さくクラシックのような音楽が流れた。
次第に音は大きくなる。
私は、嫌な汗が滲んだ。
明の手をキュッと一度握ると、キュッと明から返ってくる。
クラシック音楽が途切れると、ヘリウムガスを吸ったような声が部屋中に響いた。
『只今より、第一回放送を開始致します。
初めまして、新井山 明さん、田辺 未来さん。
私は、このゲームの管理人を致しております、ピエロと申します。
急な出来事に、疑問は多々おありでしょうが・・・貴方達は今から私が言うルールにだけ従って下さればそれでいいのです。
貴方達に拒否権がないことは、おわかりですね?
さあ、ルールは実に簡単、かつシンプル。
どちらかひとりの死と引き換えに、どちらかひとりがここから脱出できる。
ただ、それだけのことなのです。』
私は急な話を理解できるわけもなく、ただ、ぼんやりとスピーカーを見つめていた。
繋いだお互いの手が一気に汗ばんで、熱くなるのを感じた。