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篝火 ―夏―  作者: 日笠彰
9/29

篝火 夏 -9-

前回のあらすじ

新たな刺客、塗壁の前に倒れていく仲間たち。そして現れるかつての強敵宮野の真の目的とは……


(あらすじと本編では一部異なるところがあります)

「うっ……ぐすっ」

 ちゃぶ台の向かい側で女子中学生がすすり泣いている。

 何事もなく無事に事態が終わる様切に願った。

「篝さんは石川君のこと、知ってますよね?」

「肝試しの時一緒にいたやつだろう。あの、気の弱そうな」

「彼氏なんです」

「そうか」

 そのくらいでは傷つかない。

 通勤途中に見かける、朝練習で汗を流す煌びやかな若者たち。帰宅途中に出くわす、制服で手を繋ぎながら一緒に帰るたどたどしい学生カップル。そのくらいでは全然傷つかないし心も痛まない。失ってしまった、そして二度と手に入らないと分かっているものを目の前で見せつけられても、もう心は痛まない。痛みはしないが虚しい空っ風が吹きすさぶ。

 いいなあ、そういうのしてみたかったなあ。

 あのころから対人恐怖症みたいなところはあったが、それでも人並みに青春に憧れたりはしていたのだ。

「篝さん?」

「っと、少しトリップしてた。で、その彼氏石川翔君がどうした」

「彼氏石川君、優しいんですけどあまり自分に自信が無いみたいで」

「彼女としては困ると」

「はい。……その、恥ずかしいんでやめてもらえませんか」

 宮野は照れくさそうに頭をかいた。

「で、そこで篝さんに助力を願おうと。その、美人局って知ってます?」

 中学生から出ていい言葉ではないだろう、と思いつつ僕は頷く。

「それの逆バージョンと言うか、なんというか。要するに、私が妖怪に襲われているところを演じて、そこを石川君が助けてくれる、みたいな?」

「ということは、僕らがその妖怪役をすればいいのか」

「そういうことです!」

「嫌だ」

 我が意を得たり! と勢いよく立ちあがった宮野を僕は一蹴した。高らかにあげられた腕が行き場を失って宙をふらふら彷徨っている。

「え、なんでですか」

「僕はそういう搦め手みたいなのが嫌いなんだ。そもそもお前ら彼氏彼女な関係なんだろ? だったら正面切ってがつんと言えばいいじゃないか。自信つけてください、でなきゃ別れます」

「そんなことできませんよー」

 おろおろと宮野が泣きついてくる。

 技巧、搦め手、根回し。嘘も方便八方美人。そういう汚い手を平気でやるから、人間関係が嫌になる。

 誰を信じていいか分からなくなるのだ。背後にあるぐちゃぐちゃに絡み合った思惑や繋がりは、時として残酷に襲い掛かってくる。ふとした拍子に裏切られる。こちらに向けて笑顔を向けていたとしても、裏では相手を踏み台にしか思っていないことだってある。むしろそっちの方が多い。その関係の一本一本を手繰り寄せて関係をはっきりさせない限り、その人を信じることなんてできやしない。そして、僕にはそれをやり遂げる気力が足りなかった。

「いいです、こちらにも考えがあります」

 宮野がこちらを睨み付ける。

「なんだ」

「あなたは昨日私達を悪戯で怖がらせました。警察に行ってやる」

「お前らは昨日我が家に不法侵入した。警察に引き渡してやる」

「わーわーごめんなさいー」

 所詮中学生の悪知恵。浅はかなり。

「お前、それを切り札にしてきたのか?」

「あと一〇八の奥義がありますよ。衣服を乱した状態で叫んでみたり」諦めがついたのか、半ばふてくされながらも宮野は定位置に戻った。「本当は自分だけでやるつもりだったんですよ。でも私もお姉ちゃんも式が使えないから」

「式?」

 見慣れない言葉に思わず聞き返してしまう。こいつも一応陰陽師(自称)とか言っていたな。

「使い魔みたいなものです。妖怪を、使役して。でも私達は使えないんです。それで昨日ここに来たら篝さんがいて」

「……そういうところが嫌いなんだ」

「はい? 篝さんを利用しようとしたことがですか?」

「両方だ」

 使役も、姑息さも。

 陰陽師と言うのは、多分本当なのだろう。

 妖怪を使役するなんてことは、彼らがいかにも考えそうなことだ。

「終了したっす、先輩」

 塗壁に部屋を宛がっていた犬神が戻ってきた。そして、訝しげに宮野を見やる。

「まだいたんすか、この子」

「いえ、もうお暇します。……おじゃましました」

 肩を落としながら、宮野は外に出て行った。

 あとに残されたのは、僕と犬神。

「なあ、犬神」

「なんすか?」

「お前も元々人に憑く式神みたいな妖怪だよな」

「使役とは少し違うっすけどね」

「聞いていたのか」

「聞こえてました。自分の場合は、人に仕えてその人を裕福にしたり敵対する人物を不幸にしたり」

「言い伝えによると、最後は飼い主を滅ぼすのだろう?」

「でも、自分は好きで先輩といるんで。わけが違うっすよ」

「そうか」

 その言葉を聞いて安心した自分がいた。


あらすじっていうか、次回予告と言うか


同時進行で探偵の方もかきたいと思っているけれど時間と体力がなかったりします。三月の末って確か新人賞の応募でしたね。無理だ

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