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篝火 ―夏―  作者: 日笠彰
8/29

篝火 夏 -8-

前回のあらすじ

来たる警察、忍び寄る法の魔手。朝ご飯はいつもより豪勢で、珍客の多い朝。篝千歳には悩む暇もないのだった

「私、宮野ミキっていいます」

「ええと、篝千歳、会社員です」

「社会人だったんですね!」

 わぁっ、と大仰に宮野が驚いてみせる。僕は一応お茶を出しながら、はあとかへえとか言うしかなかった。なぜこいつがここに? という疑問が頭の中を埋め尽くしていたからである。ただ、そのおかげというべきか、先ほどまでの悶々とした思いは頭の隅に追いやられていた。

「それなのにあんな悪戯ができちゃうんですね」

「はい?」

 語尾が裏返る。なんだこいつ。何を知っている。何を知ったうえでどんな目的で来た。

 妖怪とは勝手が違う。人との駆け引きは、常に相手の裏を読まなくてはいけない。本当の善意なんて存在しないことは、自分の短い人生でもよくわかっている。姑息に、かつ周到に。表には決して自分の本質や本懐を見せず、回り道をしながらいやらしく相手に自分の目的を達成させる。それが人だ。

 僕の大っ嫌いな人だ。

「昨日は、留守にしていたもので」

「嘘ですね。篝さんは屋根の上に、変なのと一緒にいた」

「ここに住んでいるのは僕一人だけだ」

「それも嘘。変な気配がします。例えば、こっちから」

 宮野はミコの寝ている方角を指差す。

「それに、あっちからも」

 今度は鬼門の引き戸を示した。

「中学生の妄想に付き合っている暇はないんだ。お茶を飲んだらさっさと帰れ」

「篝さん、態度変わりましたね」

 宮野はすっと立ち上がり、迷わず鬼門の方へ向かっていく。僕はそれを、止めもせずに眺めている。

 頭に来ていた。

 宮野が彼らを変なのと形容したことに。

「そっちには何もないぞ。ただの物置だ」

「物置なら、開けてもいいですよね?」

「宮野さんのお宅では勝手に人の物置をあさるよう教えられているのか?」

「私の家族は普通ですけど」

 宮野がむっとする。

「僕の家も普通だ」

 いちいち勘に触る子供だ。

「ここから禍々しい気配がします」宮野は引き戸に手をついた。「信じないと思いますけれど、私、陰陽師の家系なんですよ」

「実は僕もスーパーマンなんだ。昨日留守にしていたのは世界を守っていたせいだ」

「信じてませんね」

「妄言だ」

 陰陽師なんてそんなほいほいいてたまるか。千葉みたいなのだけで十分だ。

 その時の僕は、事をあまり真剣に捉えていなかった。開かれたら開かれたでその時。ばれたらばれたでその時。ただ、慣れない状況と喧嘩腰の宮野の態度とミコ達に対する思いとで頭が混乱し、血が昇っていた。最悪鬼門が開かれても、隙をついてその中に閉じ込めてしまえばいいくらいにしか考えていなかった。通ると痛いらしいじゃないか、鬼門は。痛い目を見ればこいつも大人しくするだろう。そういう魂胆だった。

 だから、引き戸がひとりでに開いたのは計算外だった。

 突然開かれた鬼門に宮野が目を見開き、ついで中から飛び出してきた妖怪に後方へ突き飛ばされる。きゃ、という可愛らしい悲鳴が僕の元に届く前に犬神のハイテンションな声がそれをかき消した。

「せんぱーい! 鬼の親父さんのおつかいできましたー!」

 犬耳に灰色の尻尾。忠犬犬神の登場。しかもあとから言い訳のしようがない妖怪もでてくる。

「ここが噂の妖怪長屋だっぺか。思ったより汚ねえんだなあ」

「滅すぞ」

 額を押さえながら、僕は深く息を吐く。なんだか怒りも飛んで行った。見れば、宮野が口を開けたままぽかんと犬神達を見ている。もはや弁解の余地なし。でもどうでもいい。呆れてものも言えないが、返ってそっちの方がいいものだ。

「まあ、こういうことだ」

 僕は笑いながら宮野に投げかけた。


 よりにもよって犬神が連れてきたのは犬っぽい奴だった。特徴的なのは両目に加えて額にも瞳がある三つ目なことと、福耳を超越したありがたい大きな耳たぶだろうか。その気になれば空も飛べそう。

「おらにはこんくらい汚れた屋敷がお似合いなんだべさ」

 だから滅すぞこの野郎。

「誰だこいつ」

「知ってます! 塗壁ですよね!」

「そうっす。お嬢さん詳しいっすね」

「自称陰陽師だからな」

「本当!」

 宮野が目を尖らせる。

 なんだかんだいって、彼女の一緒にちゃぶ台を囲んでいた。

「先輩先輩」犬神が耳打ちする「いつ連れこんで来たんすか?」

「勝手に上り込んでいるだけだ」

「姐さんはなんと」

「ミコなら奥で寝込んでいるよ。昨日ちょっとな」

「正妻の寝ている間に幼女を連れこんで……先輩、尊敬してるっすけどやばくないっすか」

「何かがいろいろと間違っている」

 とりあえず、正妻って誰のことだ?

「お兄さんも、妖怪なんですよね」

 宮野が興味津々という風に尋ねた。

「そうっすよ。本当の姿は凛々しい大犬っす!」

「タクシーとも呼ぶ」

「ということは、あの引き戸は鬼門なんだ……」

 陰陽師としては気になるところか。

「他言するなよ。したら犬神がぱくりといく」

「うぐっ。こんな幼気な少女を……しかし先輩の命令ならいたしかたないっすね」

「いえいえ、私別に話すつもりはないですよ」

「お前の目的は何なんだ?」

「私のことはお気になさらず、そちらの用事を続けてください」

 気にするなと言われても部外者がいては色々困ることがある。

「おらは別にかまわねえさあ。どうせおらみたいな矮小な壁、さっと乗り越えられて気付かれもしねえんだ……」

「何でこいつこんな卑屈なの?」

「人生の壁にぶつかったそうです」

「セルフじゃん」

 壁の癖して壁にぶつかるとか。ただの合体じゃないのか、それ。

「おらのことは風よけくらいにつかってくだせえ。こんな襤褸屋敷だと、隙間風も酷いでしょう。んだけども、おらみたいなちっぽけな壁、コロッポクルにも跨がれるから風防げねえかもしんねけど……」

「というわけで、先輩はこの塗壁に自信をつけていただきたく」

「篝さんって私達みたいなお仕事なんですか?」

 宮野が目を爛々と光らして聞いてくる。

「いや、そういうわけでは……あれ、でもそうか」

 以前千葉が言っていたことを思い出す。

 自分たちの仕事は妖怪を滅したり、鬼門を封じたり、妖怪を説得して帰ってもらったり、要するに人間界に妖怪がいないようにすることだ。そういう点では、僕のやっている相談というのも近しいものがあるのかもしれない。

「お前らのやり方は嫌いだけどな」

「私は陰陽師の家系ってだけで、ただの中学生ですよ?」

 宮野が笑う。

 どうも目的が掴めない。血か。陰陽師の家系は皆千葉やこいつみたいにやたらふわふわふらふらしているのか。

「まあ、塗壁の件は置いておくとして」

「ほんら、おらは置いとかれるくらいの扱いが妥当だべさ……」

「面倒くさいなこいつ」

「ほんら、おらは」

「いいから」

 塗壁をさすって窘める。さすが壁を自称するもの。なんか触り心地いい。

「それで宮野。お前の目的を聞いてなかったな。正直に言え。回りくどいのは嫌いだ」

「目的なんて」

「犬神」

「すみませんお嬢さん!」

 涙をのんで口を大きく開ける犬神に、宮野が慌ただしく距離を取る。

「分かりました分かりましたー! お願いだから食べないでください!」

 傍から見たら捕まってしまいそうな雰囲気。今こそ塗壁の出番じゃないだろうか。行け! 行って外から見えない様に塞いで!

「実はお願いがあって、石川君に自信をつけさせてあげたいんです!」

 涙ながらにそういう彼女。どうします、と犬神が首を傾げる。

 石川君とは多分石川翔のことだろう。

「なるほどな。詳しく聞かせろ」

「すみません食べないでお願いしま……え?」宮野はきょとんとしていた。「いいんですか?」

「協力するとはまだ言っていない。話だけなら聞いてやる」

 いつからこう社交的になったのだろうと自問する。すぐには答えられなかった。

 何の飾り気もない頼みなら聞く気にはなる。

 相談役を続けていたノリなのか、それとも気まぐれか。現実逃避にいいかもしれぬと心のどこかで思っているのかもしれない。

 宮野は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔のまま、ありがとうございますと礼を告げた。

 


あらすじで遊ぶのがマイブーム

うーん、文章が散らかっている気がする

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