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篝火 ―夏―  作者: 日笠彰
6/29

夏 -6-

前回のあらすじ

バス停ではちあわせた子供達が千歳の家に来るそう。彼なりのおもてなしが今始まる。


「芙蓉……久しぶり」

「花見、ぶり、ねっ」

 芙蓉は恐怖で声が裏返っている。今から恐怖を与える側だというのに、果たして大丈夫だろうか。

「……いろいろ、持ってきた」

「ありがたい。唯一頼れる物だからな」

「む」

 白露が誇らしそうに頷いた。

「これは何だ?」

 僕は床に投げ出されたおにぎり大のそれらを指差した。

「音が出る」

「これは?」

「光る」

「これは?」

「爆発する」

 右から音爆弾、閃光弾、手榴弾だった。

「戦争するんじゃないんだから」

 見ると、それぞれには鈴夜開発というロゴが入っていた。

「よくできておるの」

「会社……私の」

 白露も枯葉も、ミコと同様人間界で暮らす妖怪だ。ミコと違うのはちゃんと働いているということ。時折変な発明品を持っているなとは思っていたが、まさかそれが仕事だったとは。

「働いていて偉いな。働いていて」ちらとミコを盗み見る。

「それはうちへのあてつけかや?」ジト目で睨み返された。


「さて作戦を発表する」

 僕含めミコ、芙蓉、白露、枯葉の驚かしチームは庭先に集合していた。部屋の電気は消してある。時刻は九時少し前。奴らはいつ来てもおかしくない。今から子供達の大切な、一生忘れられない、素敵な青春の一ページを作るお手伝いができるかと思うとわくわくが止まらない。忘れていた童心が再び燃え上がって来たかのようだ。

「相手の嫌がることをする。これが基本だ」

「主が社会不適合者の理由がわかるの」

 ミコが悪態をつく。

「まず覚が奴らの心の内を読む。こうされたら嫌だなあとか、ここから出てきたら怖いなあと奴らが思っていることを逐一伝えてくれ」

 了解しました、というような表情を覚が浮かべる。

「その情報を元に白露とミコが驚かしに入る」

「私はー?」

「好きにしてくれ」

「いやったあ!」

 正直この変態は野放しにしているのが一番効果がありそうだ。まあ、やりすぎないようにだけ注意をしておこう。

「白露はともかく、うちはなにをしようかの」

「道具貸してもらったらどうだ?」

 使ってほしそうに、白露が秘密道具をチラ見せする。

「うちはこういうハイテクは苦手なんじゃが……仕方ない、あれを使うことにしよう」

「あれ?」

「これじゃ」

 そう言うとミコは手のひらを宙にかざした。

 じっとその手のひらを見つめる。

「見とれ」

 ミコが力を込めているのが分かった。その様子を、場にいる全員が固唾を飲んで見守る。瞬間、ミコの手のひらから青い火の手が上がった。

「うぉ!」

「わ!」

 僕と芙蓉が同時に仰け反る。

「狐火じゃ」

 青白い光に照らされて、ミコが妖艶に笑う。いつもと違う雰囲気のせいか、どこかミコが色っぽく見えた。

 一瞬、どきりとした。

 多分、驚きのせいだろう。きっと。

「ま、これを使えば一撃じゃの……」

「驚いた。誰しも一つは特技があるもんだ」

「ぶつけるぞ、主」

 かくして、準備は整った。

 計ったように、表の方から幼い声が聞こえてきた。

 待ってましたと言わんばかりに芙蓉が舌なめずりをする。

 行け。僕が目で合図すると、芙蓉は音もなく闇夜の空に飛び立った。

「各自、散開」

 それぞれが持ち場につく。僕と芙蓉は屋根の上の作戦本部だ。ここからなら侵入者の動きがよく見える。

 さあ、おもてなしの時間だ。

 

 夜の海は静かである。

 昼間の煌めくような姿とは打って変わり、夜は質量を伴って打ち寄せてくる。重厚な黒さは恐怖心を煽る。時折聞こえてくる船の汽笛は、まるでこちらを呼んでいるかのようだ。一度踏み出せば二度と帰ることの出来ない、漆黒の体内へ。

 五人組は律儀に玄関からやってきた。先頭は坊主頭が飾り、続いて短髪、律、しんがりを宮野と翔が務めている。

 ちょんちょん、と肩を叩かれる。首を捻ると、何やら枯葉が物言いたげな顔をしている。

「何か分かったか?」

 坊主の子が人一倍怖がっています、というような表情を浮かべる。

 なるほど、なるほど。

 白露が用意した通信機で彼女たちと連絡を取る。

「あーあー、こちら作戦本部、聞こえていますか? どうぞ」

『……』

 通じているのか不通なのか判別のつかない沈黙。おそらく持っているのは白露だろう。配置ミスだったろうか。

『感度良好。どうぞ』

「お、聞こえていたか。斥候からの情報だ。一番ビビりなのは坊主頭。奴にターゲットを絞れ。それで、ふむふむ、骸骨とか、動く人体模型とか、目の光る肖像画が怖いなぁ、と」枯葉からの情報を逐一伝達する。というか、あいつら学校の七不思議か何かと勘違いをしていないだろうか。「庭の生け垣の向こう側、屋根の上から……。いいか、視界の外からの攻撃が基本だ。奴らが注目している範囲外から効果的に脅かすのだ」

 我ながらいい作戦だなと思う。自分の軍師っぷりに光悦ものだ。

 子供達は表の門から侵入し、家の周りを迂回しながら庭に回っている。さすがに堂々と玄関から侵入したりはしないか。

「ほらみろよ、誰も住んでないじゃん」

 坊主頭が声を張る。その元気は、恐れの裏返しだ。虚栄を張っているに過ぎない。さて、どんな顔を見せてくれるのか。

 ふっ、と僕の目の前を何かが音もなく通り過ぎて行った。それは闇にまぎれながら、ふんわりと子供たちの後ろで浮遊する。その羽先が、一番後ろの翔の頭を叩いた。

「わっ!」

 その声に、一緒にいた宮野が、続いて一番前の坊主頭が飛び上がる。

「なな、何だよ!」

「ご、ごめん」

「ったく、おど、脅かすなっつうの」

 後ろの四人が後ろを振り向く中、戦々恐々しながら一人前を行く坊主頭。その眼前を青白い炎が揺蕩う。

「~~っ!」

 声にならない悲鳴。

 向き直った短髪が坊主頭の肩に触れると、さらに彼は体を強張らせた。

「どうした?」

「ななな、なんでもねえよ」

 いい調子だ。

 庭に子供達が辿りつく。途端、周囲を白い煙が覆い尽くす。

「なななな、何これ……」

 白露の焚いたスモークだ。

 そこで僕が、ちょっと離れたところに瓦を落とすと

「きゃあ!」

「ななななな」

 簡単に阿鼻叫喚。

「もう帰ろうよ!」

 律が懇願する。

「だ、だめだだめだ。まだお化けの一匹も見つけてねえんだ。庭の確認が終わったら、次は家の中!」

 させない。

 海の方から、スモークが少し晴れる。

 五人の注意が庭の外に向いた瞬間、潜んでいたミコと白露が閉めておいた雨戸を激しく揺らす。

「なななななな」

 締めだ。

 猛烈な突風が白煙を全て吹き飛ばした。

 代わりに、はらはらと極彩色の羽毛が舞いちる。

 ぽっと浮かび上がる青白い狐火。踊り狂うそれらの中心に、変態が降り立った。

「た、べ、ちゃ、う、ぞ?」

「いやぁぁぁぁぁぁああ!」

「でたあああああ!」

「ななななななななななななああああああ」

「あははははははは!」

 脱兎のごとく、子供達が散る。芙蓉は高笑いしながらその頭上を飛び回った。あれで素なのだから末恐ろしい。

 ミコに火の玉で軽い誘導をかけてもらいながら、羊飼いのように子供達を出口へ案内する。

 ごめんなさいと泣き叫ぶ坊主頭。あいつが一番怖がっている。

 我が家を脱出し、先の角を曲がり切ったところを確認してから、最後のお土産をプレゼントだ。

 喰らえ、音爆弾。

 轟音と共に、道路の向こうから悲鳴が響いた。

「はっはっは、愉快愉快!」

 篝千歳、大勝利である。


前回のあらすじがほぼ次回予告でした。反省します

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