食事と知識は大事
俺は...
「...ル!」
父を...
「ハル!」
「っ!」
腹に急に何かがのしかかられ急速に覚醒した。目を開けると...
「ネリィ?何してんの?」
そこには、無表情を崩し、今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「...ハル、泣いてる」
「...え?」
ほほのあたりを触ってみると左の頬が濡れていた。
「...右目」
「ん?」
「...涙...でてない」
そう、涙が出ているのは左だけで、右からは流れていない。
「あぁ、気にするな」
ネリィの頭を撫でて誤魔化そうとするも...
「ハルの...右目...光ってない」
「目は普通光らないよ?」
「そう...じゃなくて」
ネリィの言いたい事はわかる。右目が光を反射していないのだ。どう誤魔化したものかと考えていると、ネリィがのしかかったまま倒れてきた。
「...ダメ?」
「...はぁ」
なんとも、ネリィには隠し事ができなさそうだ。
「分かったよ、言うからどいてくれ」
「むぅ、分かった」
微妙に不満そうな顔をしながら、降りてくれた。俺は起き上がると窓きわにある椅子に座り、その対面にネリィが腰掛けた。左頬はもう乾いていた。
「俺の右目は義眼なんだよ」
「義眼?」
「ん?知らないか?」
「知ってる」
俺の右目は義眼だ、さっきの夢...猫を助けようとした時に父に掴まれ、目を強引に開いたあの後、必死にもがいた時に右目が潰れたのだ。それに気づいたのはその数時間後だった。
「昔な...まぁ嫌なことがあってな...その時に潰れたんだ」
「...そう」
ネリィは深くまで聞いてこなかった。俺の感情を読んだのか?ポーカーフェイスには自信があったんだがな...
「...ごめんなさい」
「...なんで謝る?」
「ハルの気持ちを...考えてなかった...。だから...ごめんなさい」
ネリィの言葉に思わずクスリと笑ってしまった。
「気にするなって...もう何回言っただろうな?」
それでもまだネリィは俯いている。...はぁ、しょうがないな。俺は、ネリィの頭に手を乗せ言った。
「...ネリィ、これからは一緒に生きていくんだ。すれ違うことだって、気に入らないことだって色々あると思うし、隠し事だっていっぱいある。そんなことでいちいち相手の気持ちを考えていたら疲れるだろう?」
「...でも...それでも」
「相手の気持ちを害したくないと?...それなら、俺には気を使わなくていい。もしそれも嫌だというなら、少しづつ話していけばいいさ。時間は沢山あるんだ、俺なんてまだ、目すら合わせてないんだからな」
「...分かった...やっぱりハルは優しい」
「何を言う。俺ほど自分本位な考えをする人はいないぞ?」
「ううん...ハルは優しい」
「強情な奴だな...まぁいいや、それも今後知っていけばいいからな」
「うん...そうだね」
このとき、ほんの興味本位でネリィの目を見てしまった。暗い夜に月明かりだけが射す窓辺で光を宿す赤い目、あどけなく笑う彼女は素直に綺麗な光景だと思った。目を合わせたというのに恐怖心が沸き起こらない、人と目を合わせたのは何年ぶりだったか。
「!?...ハル、今...目を「さぁ〜て、そろそろ食事にするか?とりあえず、食料庫見てくるか」...うん」
素直に頷いたネリィだったが、頬は僅かに赤らんでいた。...まだ疲れているのだろうか?
部屋を出て廊下に出ると明かりがついた。...どうやら明かりはつけようと思えばにつくようだ。一階に降りて、中央の扉を開き廊下に出た、そこから右の通路の右の壁の扉、そこが食料庫だ。食料庫にはありとあらゆる食材が詰め込まれていた。野菜は、見たことがないものばかりだ。肉はもう既に解体されているが、どこの部位か、なんの生物の肉なのか分からない肉が所狭しと置かれていた。
「さて、何を作るかだな...何が食べたい?」
ネリィに一応聞いてみたが...
「食べられるもの?」
「なぜに疑問系?てか、食べられるものって...適当だな」
さて、あまり時間もないし手軽に食べられるものにしておこう。
「おっ!米もあるんだな」
「コメ?」
アルクルの知識では米はなかったから、あまり期待はしていなかったが、こっちにはあるんだな。
「コメって...コクのこと?」
「コク?」
「...それのこと」
ネリィが米を指さして言う。なるほど、こっちでは呼び名が違うのか。まぁ当たり前か、世界が違うんだしな。
「ネリィ...コクってどうやって食べるんだ?」
「食べる?...家畜の餌にするのが...ふつう」
う〜ん、そう来たか。こっちでは調理方法が伝わってないのか。残念だな。
「これを食べるのに抵抗はあるか?」
「...大丈夫」
「そっか、じゃあ肉もあるしハンバーグとご飯にしましょうか」
「はんばーぐ?」
「そっ、まぁ楽しみに待っとけ」
必要なものを食料庫から取り出し、キッチンへと運ぶ。キッチンは食料庫の向かいなので移動が楽だ。キッチンの中はそこまで広くなく、一般家庭のキッチンと変わらないくらいだ。調理器具は揃っているが...ふむ、どうやって火をつけるんだ?てか、これは竈か?薪がないし、スペースもそこまでないな。
「ネリィ、これどうやって使うんだ?」
「...わからないの?」
「あぁ、アルクルじゃあ薪を使っていたし、元の世界じゃあもっとコンパクトだしな...」
ここにあるのは、IHヒーターと竈を足して2で割ったような形状だ。
「これを...使う」
そう言って赤い石を渡してきた。
「なんだ?これ」
「火の魔石...これを下に...入れる」
竈でいう薪を入れるところに小さな窪みがある。そこにネリィが魔石を入れた。すると、上の円状の場所が赤くなっていった。手を近づけると...熱い。
「本当は...魔石の大きさで...温度を調節する。でも...の炎魔法を使えるなら...微調整できる」
といいながら、温度を変えていた。なるほど、結構便利そうだな。
「このくらいの...魔石なら...2時間はもつ」
「わかった、ありがとうネリィ。後は任せてソファに座って待ってて」
「...そうする」
やっぱりまだ疲れているようだ。さて、じゃあ、料理開始といきましょう!なんか、炊飯器みたいな物もあるし...あっ!横に窪みがある。魔石様様だな。ネリィに水の魔石も貰わないとな。
そして、数時間後。見事料理は完成した。匂いなどは芳ばしく、リビングとキッチンは繋がっているので匂いに反応したか、途中からネリィがこっちまで来たほどだ。だが、遥は調理していて気づいた。
(この世界、調理器具は揃っているのに...ドレッシングやソースの類がないっ!)
そう、この世界での料理といえば切る、焼く、食べるの工程だったり、盛り合わせにひと工夫した程度のものしかないのだ。良くてパスタ...ただしトッピングは野菜炒め...のようなものしかないのだ。
(いや、まぁ無ければ作ればいいんだけどさ)
意外と遥は多趣味である。昔から指先が器用だった遥は一人暮らしになってからは色々なことに挑戦していった。料理はその一つだ。
(まぁ、いいや。とりあえずご飯だ)
ネリィがお預けをくらった犬みたいになっている。このまま待たすのも悪いだろう。
「待たせたなネリィ」
「うん...待った」
「それじゃあ食べるとするか。箸は使えるか?」
「箸?...その棒?」
「そう。まぁのちのち使ってみればいいさ」
「...使ってみる」
「ん?そうかじゃあほれ」
「...どうやって持つの?」
「指に挟んで..そうそう、それで箸で摘んで食べるんだよ」
ネリィは初めてとは思えないほど器用に箸を使っていた。...どんだけ器用なんだよ。
「これ...使いやすい」
「だろ?まぁでも今回はハンバーグだからフォークとナイフでもいいと思うけどな」
「...箸でいい」
「...そうか。そろそろ食べるか」
「...うん」
「いただきます」
「いただきます?」
「そっ、食事の前の祈り?みたいなやつ」
「...いただだきます」
ネリィが俺の真似をして手を合わせて「いただきます」と言う。まず、ハンバーグを食べてみる。とりあえず【閲覧】を使って牛肉に近いものを探したし、マイルという果物を使ってソースも作ったけどどうだろうか...。ハンバーグを口に運んで咀嚼する。分厚に作ったハンバーグの中から肉汁があふれて口を蹂躙する。上に乗っているソースが肉の旨味を引き立て、芳ばしい香りが鼻から抜ける。
(うん、これは成功だな。肉もかなりいいものだったみたいだし、元の世界で作ったハンバーグよりもうまかったな)
ハンバーグを食べながら、ご飯も食べていく。野菜もあるがみじん切りにしたレタス...のようなマイスという野菜だ。味はレタスなんだが...
(やっぱりドレッシングが欲しいな。)
そんなことを考えていながらネリィの方を見ると...皿が空になっていた。ネリィがこっち...ハンバーグを凝視している。なんかこう、いじめたくなるよな。
「美味しかったか?」
「...うん」
「そうかそうか、まだ食べ始めてから3分もだってないのにもう全部食べるほどだもんな」
「うぅ...」
「いや〜ネリィがそこまで大食いだとは思ってなかったよ」
「うぅ...」
「それじゃあ、俺も食べちゃいますかね〜」
そうして、ハンバーグを口に運ぼうとする。そして...
「ふふ、冗談だよ。ほら食べていいよ」
ネリィが目を開いて驚いている。
「でも...ハルの分」
「ん?もう一つ食べたしお腹いっぱいだから、大丈夫」
「でも...」
「う〜ん、じゃあ、食べるか捨てるかどっちがいい?」
「...食べる!」
「どうぞ」
やっぱり食べてくれる人がいると嬉しいものだな。
「にしても、ネリィはいつもそんなに食べるのか?」
「...ハルが食べなさすぎなだけ」
「まぁ、俺は小食だからな」
「それに...とても美味しい」
「そんなにか?」
「うん...今まで食べたことないくらい」
「...そっか」
そこまで言われると照れくさいな...とりあえず、ネリィが食べるのを待つことにした。頬いっぱいにハンバーグを詰め込んで食べている姿はリスみたいで可愛かった。
少ししてネリィが食べ終わった。
「ご馳走様でした」
「...ご馳走様でした」
「じゃあ、片付けてからこの世界のことを教えて」
「...わかった」
俺は、ネリィの分もキッチンへと運ぼうとすると
「私が持っていく」
「いや、まだ休んでなよ」
「ダメ」
「んー、じゃあ、次...明日の朝には手伝ってもらうからさ...ね?」
最後まで粘っていたが無言で頷いてソファに戻っていった。
キッチンで皿と鍋などを洗う。洗剤はなかったので水の魔石を取り付けたシャワーのような物で水を流すだけだ
。
(中途半端に便利だよな)
この世界は、元の世界よりは不便でアルクルの世界よりは便利と言う中途半端なところだった。食器を洗い、乾かすために立てかけておき、ネリィの座っているソファまで戻った。
「お待たせ」
「...待ってない」
今は10時くらいだろうか?時計がないからわからない。テレビも無いから静かだし、外には街灯もないので外は真っ暗だ。
「じゃあこの世界のことを教えて」
「...うん」
ネリィの話を聞くにこの世界はクレシオンという世界で、7つの大陸があるらしい。
北に魔族が住むアクラス
北東に幽魔族が住むハンクル
南東に妖魔族が住むリース
南西に人族が住むメリア
北西に獣人族が住むヤシャ
中央に中立の国マース。
そして、この6つの大陸を包むように広がっている大陸、魔物が住むダント。
ダントの大陸についてはまだ全て把握していないらしいが、ダント以外の大陸はユーラシア大陸くらいの大きさだそうだ。
俺たちが今いるのは中央のマースで、大陸間での争いはここ100年近く起きていないようだ。大陸は隣接する大陸と橋でつながり、長くて100km以上する橋もあるそうだ。アルクルの世界のように魔王もいるが、こっちは魔族の王という意味ではなく、魔物の王という肩書きになる。
種族ごとの言語は共通しているが、昔ながらの自分の種族の言葉を使う者もいるそうだ。
お金に関しては全大陸で共通で、
銅貨<銀貨<金貨<白銀貨<黒金貨
となっていて、銅貨10枚で銀貨、銀貨10枚で金貨といった感じになっている。
この世界では紙が銅貨3枚、ガラスが銀貨2枚(1㎡)となっていて。昔魔王に攻められた時に召喚した勇者が広めたそうだ。
この世界には、奴隷や貴族、王族といった物があり、奴隷は借金奴隷と犯罪奴隷、そして志願奴隷がいる。借金奴隷は冒険者が多く、契約の不履行で借金がかさみ奴隷に落ちることが多いそうだ。犯罪奴隷の多くは貴族に逆らった者が多い。志願奴隷は貧しい村などの口減らしのために自らがなる...もしくは、村で半ば強制的に奴隷にされることが多いらしい。奴隷には暴行や犯罪をするように命令はできず。そういったことを強制させると、奴隷から解放されるようだ。
さっき話した通り、冒険者がいてギルドがある。ギルドは街や個人、国から要請された仕事を冒険者に斡旋するところで、それを冒険者が受けるらしい。冒険者にはランクがあり
F<E<D<C<B<A<S<UNKNOWN
となっており、これは魔物にも適応されるらしい。
「...これで一通り、終わり」
ネリィが疲れたように言った。もうかなり話し込んでしまった。1時間半ぐらいか?
「そうだな、後はおいおい分からないところはその時聞くさ」
「...ふぁ」
ネリィが小さくあくびをした。俺は笑いながら。
「そろそろ風呂に入って寝るか」
「...お風呂?」
「おう、入ったことあるか?」
「うん」
「そっか、じゃあ先に入ってれ」
俺は至極まともなことを言ったはずだ、なのにネリィは
「ダメ」
「...は?」
はい、また中途半端なところで終わりましたね。大丈夫です。次回は紳士の皆様のご希望道理の回にしますので、次回も宜しくお願いします。