その頃一方と本当の気持ち
いろいろと忙しくて投稿が遅れてしまいました。
side ネリィ=アルファン
「それじゃあ、いってくるな」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、期待しててねぇ」
「あらあら」
ハルが店を出て行き、私とラン、ミーチェが残った。私はハルとは離れることに寂しさを感じる…ハルの行動は【審判】によって分かるが、なぜだろうか。
「ねぇ…ミーチェ」
「なぁに」
「三時間も必要だったの?」
「…あらあら」
心でも読まれたのか、ミーチェが目尻を下げながら言ってくる。
「そうねぇ…確かにそんなに時間はかからないわ」
「それなら」
「でもねぇ、たまには距離を離したほうが分かることもあるのよぉ」
「…どういうこと?」
「うふふ、そのうちわかるわよ」
微妙にはぐらかされた気分になりながらも話を切る。
「あのぉ、お二人とも?私も話に混ぜてもらいたいのですけど…」
ランが遠慮がちに手を挙げて主張してくる。今の話に混ざっても仕方が無いと思うけど。
「そうね!まずはランちゃんの服を決めましょうか!」
「よっ…よろしくおねがいします!」
「さっきも言ったでしょ?そんなに固くならなくていいわ。大丈夫よ!あなたに一番似合う服を選んであげるわ!」
「はい!」
こうなってしまうと、私は蚊帳の外だ。
「それじゃあ、まずは採寸ね!」
「は「てりゃ!」…え?」
ランが返事をする前にミーチェはメジャーをいくつか投げて、ランをぐるぐる巻きにする。
「え?え!?なっなにこれ!」
「ふふふ、心配しなくて大丈夫よ、私に全て委ねなさい…」
「え!?あの、ミーチェ…さん?なんかさっきと違いません?」
「さぁさぁ!パパッと採寸して服を決めましょう!」
どうやら聞く耳はないようだ。すっかり空気になってしまったネリィは近場にあった椅子に座り終わるまで待とうとした。
「あらぁ、ネリィちゃん?あなたもよ!」
「!?」
ミーチェはネリィにもメジャーを投げてきて動きを封じる。
「私は「だめよ、女の子なのに服が一着だなんて」…」
有無を言わさずネリィに近づき採寸をしていく。目が最初に来た時のようにランランと光り採寸していく。
(もう、話は聞こえなさそう)
ネリィは諦め大人しく採寸されていくのだった。
それから、1時間半経った頃ようやく二人の服が決まった。
「うん、良く似合うわよ二人とも」
「ありがとう、ミーチェ!」
「ありがとう」
ランが今着ているのは 白の長めのシャツに赤のベスト、黒のショートパンツとブーツを履いている。尻尾はショートパンツの後ろに穴があきそこから伸びている。私から見ても可愛いと思う。
「うん、これなら動きやすいし軽いよ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでいる。ネリィはまだもらった服を着ていない、ランももう一着貰っているが、紙袋に入れたままだ。
「ネリィは着ないの?」
「うん、帰ってから」
「あぁ、その方がインパクトあるかもねぇ。意外と策士だね!」
「?」
「ふふ、まだわからないかしらねぇ」
ミーチェが後ろでそんなことを言っているが分からない。なんにせよ、服選びは終わったのだ、ハルのもとへ行こう。と、外へと出ようとすると。
「さぁて、服は選び終わったわね。それじゃあ、ハルちゃんが来るまでお話でもしましょうか」
「え?」
「二人のことをもっと知りたいんだけど…ダメかしら?」
「う〜ん、遥のところに行きたいけど、私もお話したいしいいよ!」
「…うん」
「よかったわぁ!そのために1時間くらい長くハルちゃんに言ったのよ!ささっ、中に入って」
ミーチェが精算をする所の後ろにある扉へ招いてくる。中へ入ると生活感の漂う部屋に入った。
「ミーチェの部屋?」
「そうよぉ、ごめんなさいね散らかっちゃってて」
確かにテーブルには裁縫道具が散らばり床にはいくつかの布地が置いてある。椅子の上には服がたたまれている。どれもが商売に関わる物だと一目見てわかるほどのできだ。それを片付け、スペースを空ける。
「さぁ、座って座って」
「失礼します」
「よいしょ」
ネリィとランが隣に座り、その対面にミーチェが座っている。ミーチェは両手を組み手に顎を乗せながら言う。
「それじゃあ、お話しましょう」
「何を話すの?」
「なんでもいいわ、気になることがあれば聞いてくれても構わまいわよ」
「はいはーい。それじゃあ、質問ミーチェはなんで服屋を始めたの?」
「あらあら、最初は私かしら」
ミーチェは少し考えたあとに話し始めた。
「私はね昔は冒険者だったのよ」
「そうだったの?」
これはなんとなく予想はついていた。あの採寸の時の身のこなしは、尋常ではないものだった。
「そうよ、結構強かったんだから。でもね、ある日にね友だちの誕生日にプレゼントとして服を作って贈ってあげたのよ。その時の友達の喜びようったらなかったわね。それでね、今まで命を壊すことしかしてなかったのに人が喜ぶモノが作れたのが嬉しかったのかしらね。それからよ、私が服屋を始めたのは」
「いい話だね。やっぱり服屋は天職だったんじゃないの?」
「ふふ、だったらいいわね。さぁ、次は私からの質問よ。ランちゃん」
「ん?私?」
「そうよ、ランちゃんは昨日ハルちゃんと出会ったの?」
この話は私も気になっていたことだ。朝の時点ではハルとランの間に何かの強いつながりがあることしかわからなかった。
「ううん、遥とはかなり前...いや、少し前かも...」
「どういうこと?」
ネリィが聞く。
「えっとね、私にとってはかなり前...百年・千年くらいに感じるほど長い間。でも、遥は十年くらいだと思う」
「なんでそんなに差が?」
「私はね一回死んでるんだ」
「死ん...だ?」
つまり、ランは生命の概念を超えてまで遥とは再会したということなる。
「そう、転生っていうのかな」
「転生...ね、にわかには信じ難いけどランちゃんは嘘をつかなそうだしね。それにしても、よくハルちゃんのことを覚えてたわね」
ミーチェがいたずらげな笑みを浮かべながらそう言うと、ランは顔が爆発したようにいっきに赤くなった。
「それは...その...あの」
「ふふ、冗談よ。わかってるわよ。幸せ者ねハルちゃんは」
ネリィは二人の会話を聞いていると胸のあたりがチクリと傷んだ。なんだろうか。
「それはそうと!私はネリィのことを聞きたいな!」
「...私?」
「そう!ネリィは遥とどうやって知り合ったの?」
「私は...」
どう説明したものか。さすがに監視者のことを話すことはできないし、でも、神様のことを話さないと説明できないし。
「神様の...巡り合わせ?」
結果的に酷く曖昧な表現になってしまった。
「いや、そうじゃなくて。う〜んと...じゃあ、会ったときはどんな印象だった?」
「...とても...悲しい人だと思った」
「あぁ」
「?」
ランは納得しているようだが、ミーチェは頭にハテナを浮かべている。
「なんだか、強いのに触れば壊れるような...そんな印象だった」
「だった?」
「うん、いま...ランと再会してからは強くなった」
「そう?」
ランは嬉しそうに頭をかく。
「それに比べて、私は...」
ランに比べてネリィは会ってまだ二日三日と言ったところだ。ランよりも絆は浅い。確かにハルとはなにかつながりを感じるが。目に見える形では分からない。ただ偶然、監視者に選ばれ。偶然、生き方が似ていて。偶然、一緒に生きていくことになっただけだ。ハルとの繋がりなんてそんなものだ...それしかないのだ。
ネリィは気づけば胸のあたりの痛みが強くなり両手で押さえる。
(そうか...私はここまでハルの手ことを)
ランとミーチェは心配そうに声をかけてくる。
「ネリィ?大丈夫?」
「どうしたのネリィちゃん?」
そんな優しい言葉が心の傷を撫でる。堪え切れずに涙が溢れる。
「うっ...ひぐっ...」
「え!?ど、どうしたの!?」
泣き始めたネリィを見てランは慌てて、ミーチェは黙って立ち上がりネリィの隣まで来た。
「ネリィちゃん...気づいた?」
「うぅ...うん...ぐっ」
「そう...なら今したいことをしなさい」
「あり...がとう」
ミーチェにお礼を言い泣きはらした顔のまま部屋を飛び出す。ネリィの足は決して速くない、しかも、涙で視界が悪いがハルのところ...ギルドまで走っていく。
side ドラン
「え!?ネリィ!?」
勢い良く飛び出していったネリィを見送り言う。
「うふふ、青春ねぇ」
私にもあんな頃があったらねぇ。
「ミーチェ、どういうこと?」
「あなたと同じ感情を抱いてたってことよ」
「え!?それって...」
「そう、まぁ本人は気づいて無かったようだけどね」
ネリィは自分の気持ちに気づいていなかった。ハルへの恋心を...。ネリィは恋をしたことがなかったのか、それ以外の要因があったのか。
「ランちゃんは行かなくてもいいの?」
「あ!?そっそうだね!じゃあ行ってくるよ!」
「うふふ、頑張ってね」
ネリィ以上の速度で出ていくランを見送り静かになった部屋で一息ついた。
「さぁて、あの子達が戻ってくるまで仕事を進めましょうかね」
作りかけの服に手を伸ばし止まっていた裁縫を始める。
(若いっていいわね)
最近腰痛がひどくて、大変です。