怪しい男達
遥は今悩んでいた。
「う〜ん、問題になるかな…これ」
自分の首を見ながらそう言う、そこにはこちらを見上げる狐…リンがいた。
「リンは街に入ったことはあるか?」
「キュイ」
首を横に振る。
「…まぁ、そうだろうとは思っていたさ。…ならば、当って砕けろだな」
腹を決めた遥は東門へと突貫していった。だが、遥は失念していた。今の遥の格好を…。
(おっ!マイトじゃないか、良かったぁ)
衛兵が知っている人で良かったと、安心して歩調を崩す遥。だが、こちらを向いたマイトは、
「おぉ、マイ「貴様!何者だ!」…へ?」
腰に差していた剣を抜き放ち、こちらへと向けてきた。待機の状態からの抜刀はかなりの速さでマイトはかなりの腕なのかもしれない。遥は突然のことに驚き両手を挙げた。
「何の用でここへ来た!言え!」
「ちょっ、まっ!マイトさん、俺ですよ俺!」
「お前など知らん!俺の知り合いにそんな怪しげな風貌の奴はいない!質問に答えろ!」
あれぇ?マイトってこんな性格だったかなぁ?
「だから俺ですって!ハルですよ!ハル!」
「ハル…さん?…ふ、ふふふ!俺は騙されんぞ!ハルさんの皮をかぶった魔物め!ハルさん、敵は打ちます!覚悟しろ!」
「だから話を聞け!」
マイトは剣を下段に構え遥に向かって走ってくる。慌てた遥はとっさに魔法を使い落とし穴を作り出した。
「む?うお!なんだ!?」
見事に落とし穴にはまってしまったマイトは、ちょうど頭が出るくらいの狭い穴に落ちた。
「くぅ…無念…こんな姑息な手にかかるとわ…」
「いや、だから落ち着いてくれない?俺だって言ってるでしょ?」
そう言うと遥は仮面を外した。
「…え!?ハルさん?」
「そうです。ハルさんです」
「あ!もしかして仮面ですか!」
「いや、気づくの遅いよ…」
マイトを穴から出すために下から土を持ち上げる。
「うお!っと」
少し勢いが強すぎて2~3mくらい浮かび上がったが、うまく着地した。
「いやぁ、すいませんでした。勘違いしてしまって」
「まぁ、それはいいんだが。ここでは仮面は珍しいのか?」
「いえ、そういう訳ではないのですが。顔全体が隠れる仮面はあまり…一回ぐらいしか見たことがないもので」
「じゃあ、普通は顔全体は隠れないのか?」
「そうですね。目元だけというのが主流ですね。…まぁ貴族の間だけですけど。それにハルさんの仮面は人の顔に似すぎていたので」
「あぁ、まぁ…なんとなくで」
「なんとなくで作ってその完成度ですか…売れば結構しますよ…」
「ははは、売る気はないよ」
などと、襲われたことなんて忘れたように会話し、マイトがふと気がついた。
「ところでハルさん。その首に巻いているのは?」
「ん?あぁ、新しい仲間だよ。ほら挨拶しなラン」
遥がそういうとランは遥の首から抜け、頭へと登っていって。マイトへとお辞儀をした。
「なぜそこでする?」
「キュイ?」
まるで「何言ってるのかわからない」と言ったふうに首を曲げた。
「…まぁいいや。なぁマイト。街の中に入れても大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。ただし責任はハルさんにあるのでご注意を…。それにしても見たことのない生き物ですね」
「そうなのか?」
(そう言えば【閲覧】してなかったな)
「えぇ、多分この大陸の生物じゃなくて。ほかの大陸の生物でしょうね」
「ふぅん、そっか。じゃあ、そろそろ行くな。ギルドに報告しなくちゃいけないし」
「はい、分かりました。お勤めご苦労さんです!」
遥に向かってマイトは敬礼をして、遥は苦笑いを浮かべながら手を挙げてギルドへと急いだ。
(さてさて、ギルドには着いたが…まずいかな?)
遥が考えているのは仮面と討伐数だった。
(仮面はまぁ大丈夫だろ…たぶん。世界は広いんだきっと同じ人もいるだろう。討伐数は…まぁでも一時間程度であれだしな、きっと魔物も弱かったのだろう…そういうことにしよう)
結果、遥は考えることをやめ、仮面をつけギルドへと入った…余談だが遥は【魔糸】を多数、しかも適当に飛ばしたため。オークやゴブリンの住処やキラービーやキラーアントの巣を通過していた事によってあの討伐数だったのだ。
ギルドへと入ると待っていたのは多数の視線、いつもよりも数が多い。
「おい、あいつ誰だ?」
「分かんねぇ…あんな仮面野郎知らねぇな…いや、あの長い黒髪…まさか」
「知り合いか?」
「お前知らねぇのか?昨日のギルドでの悪逆を…」
「いや、俺は昨日依頼で外に出てたし」
「そう言えばそうだったな。あいつはな昨日冒険者になったらしいんだが。運悪くディッシュに絡まれてな」
「うわぁ、あいつに絡まれたのか…可哀想な奴だな」
「そうだな、ディッシュが可哀想だったな」
「は?なんでだ?」
「ディッシュはな傷もつけられずに殺されたんだよ」
「…訳わからん」
「俺も分からんよ。なんだったんだあれは」
「説明しておいてそれかよ…まったく」
「まぁ、触らぬ神になんとやらだ」
などなど、周囲から囁きが聞こえたが案外正体がばれているようだ。遥は気にすることもなく受付へ歩いた。受付にいたのは朝に会った犬耳の子だった。
「あの、すいません」
「ひゃい!にゃんでしょう!?」
「いや、そんなに固くならないでくださいよ俺ですよ俺…ハルですよ」
「…ハルさん?」
「そうです」
遥は仮面を少しずらして犬耳の子に顔を見せた。犬耳の子は安堵の息を吐き少しムッとした顔で言う。
「なんでそんな仮面をつけているんですか?」
「え?…趣味?」
「どんな趣味ですか!?そんな趣味があるわ…いえ、やっぱりいいです」
犬耳の子は途中まで言いかけると途中で止めた。
「どうかしたんですか?少しは落ち着いた方がいいですよえっと、犬耳のひと」
「ハルさんが大体の元凶ですけどね!あと、私の名前はシーンです!」
「あっ、そうですか。よろしくおねがいしますシーンさん」
「いえいえ、こちらこそ…ではなくて!何ですか!からかいに来たんですか!」
顔を真っ赤にして怒り始めるシーン。…理不尽だ。
「あぁ、そうではなくて依頼の報告に…」
そういいながら、メモリープレートを渡す。
「えっ!?もうですか?まだ1時間ぐらいしか経ってないの…に?」
プレートを見たままシーンは固まってしまった。
「シーンさん?もしもーし…シーンさん」
手を振っても反応がない…ただの屍のようだ。
「はっ!なんですかこれは!」
シーンがカウンターを飛び越え詰め寄ってくる。
「うおっ!びっくりしますね。いきなり蘇らないでください」
「勝手に殺さないでください!そんなことよりこれは何ですか!」
「何って…討伐数ですが?」
「どうやったら一時間程度でこんな数討伐数できるんですか!」
「それはまぁ、こう…平原でぼぉっとしてたら…ね」
「何もしてないじゃないですか!あぁもう!ちょっと来てください!」
いきなり手を引かれカウンターの奥へと連れていかれる。
「なになに?なんですかいきなり」
「今からギルマスに判断を仰ぐので一緒に来てください!」
「えぇ、下で待ってるのはダメですか?」
「ハルさんは逃げそうのなでダメです」
(うわ〜、信用ないな)
シーンに手を引かれながら三階まで階段を上っていく。階段を上りきった先には扉が一つだけあった。
「ギルマスはこの先ですので、入ってください」
「シーンさんが先に入っては?」
「いえ、まぁ…いいから早く入ってください!」
「分りましたよ…」
やけに先に入りたがらないシーンに背中を押され仕方なく扉を開ける。そこにはまるで屋敷の書斎のような所で、中央にはソファがありそこに一人…人が座っていた。その人はこちらを見ると立ち上がり両手を広げて勢い良く上を向き言った。
「同士よ!」
…その男はガスマスクのような仮面をつけた…変態だった。
はい、ギルマスの登場です。やっぱり偉い人は変人キャラですよね。最近、テストがあったので時間が取れませんでしたが。やっと終わりました。かと言って、更新ペースは変わらないと思いますけど…orz