初依頼はフラグの香り
街へ着いた遥たちは、門の前でマイトとはなしをしていた。
「昨日ぶりだねマイト」
「…おはよう」
「ハルさんにネリィさんおはようございます。おや、そちらの子は?」
「こいつはラン、新しい仲間だよ」
「初めましてランです」
「初めまして、俺相手にそんなに固くならなくていいよ。にしても、昨日の今日で何があったんですか?」
「まぁ、いろいろとな…とりあえず…はい、ランの手形だ」
苦笑いを浮かべながら通行手形を渡す。マイトが手形の内容を確認し始めた。
「はい、確認しました。そう言えば、ハルさんが出ていってからあの鳴き声がしなくなったんですよ。ハルさん何か知ってますか?」
「さぁね、残念ながらなんにも起こらなかったよ」
「そうですか…なんにしろハルさんたちが無事に戻ってきて良かったですよ」
「まぁ、そんな簡単には死なないから安心しなよ」
などとマイトとたわいの無い会話をして城門をくぐった。まずランの服を買おうとミーチェの店へと移動する。
「あんらぁ、いらっしゃい二人とも。そちらの子は?」
「昨日ぶりだねミーチェ、こっちはランと言ってこの子の服を見繕って欲しいんだ…ほらラン自分で挨拶して」
入店した時から固まってしまっているランの背中を押し前へ押し出した。
(頑張れラン。これを越えないと次からも来ずらくなるぞ)
などと、心の中で応援し行く末を見守る。
「は…初めまして、わ…私ランって言います。以後…お見知りおきを…」
「あんらぁ、そんなに固くならなくても大丈夫よぉ。女同士仲良くやりましょう…色々と相談にも乗るわよぉ」
「はっはい!よろしくおねがいします!ミーチェさん!」
「敬語もさんもいらないわ、ミーチェって呼んで」
「よろしく!ミーチェ!」
「うふふ」
やっぱり女の子同士(?)は仲良くなりやすいんだな。もう既に旧友のように接しているし。
「さてさて、ランちゃんの服だったわね」
「あぁ、よろしく頼む。お代はこの服でいいか?」
そう言って、遥が差し出しだのは緑色の浴衣だった。ちなみに、この世界には存在しない服である。
「あらあら、また珍しい服ねぇ…いいわ!ランちゃんのことは私に任せなさい!」
「頼んだよ」
「じゃあ、ネリィちゃんも借りたいのだけどいいかしら」
「私?」
「そう!女同士語り合いましょう!」
バチンと、音が出るのではないかと言うほど強めのウインクをミーチェがして、ネリィが頷き返す。
(今ので何がわかったんだよ?)
「ハル、今日はこっちに残る」
「そつか、別にネリィが決めたことならそれでいいと思うぞ。でも、俺の監視はどうするんだ?」
「それは大丈夫...【審判】のスキルで対象者の情報を直接教えてくれる」
「...そうだったんだ。なんか釈然としないけどまぁいい。ミーチェ、いつぐらいに終わる?」
「そうねぇ...お昼ぐらいに来てちょうだい」
「わかった」
昼までならあと3時間ぐらいだ、依頼を受ける時間はある。
「それじゃあ、行ってくるな」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、期待しててね~」
「あらあら」
三者三様にいろいろなことを言い見送ってくれる...ミーチェは別として。遥は店を出て行きすぐ近くのギルドへと向かった。
ギルドに入ると初めて入った時のように視線が向いた。だが、今回はこっちを認識したと思ったらすぐに目をそらされた。
「おい、あいつ昨日のやつだよな」
「あぁ、服装は変わってるけどあの髪に顔、間違いないな」
「あんなやつ、今まではいなかったよな?」
「あぁ、ほかの地域から来たのか、ほかの大陸から来たのか…どっちにしてもよそ者だろうな」
「俺さ昨日あの後つけてみたんだけどさ…あいつ、あの服屋に入ってったんだよ」
「マジか!あの豪腕のドラ…ミーチェの店にか!」
「あぁ、しかも出てきたのは夜だった。あの店にそんな長時間滞在できるなんていろんな意味で並の奴じゃねぇ」
「てか、お前どんだけ暇だったんだよ。働け」
(周りが騒がしいけど、酒場みたいなところだしな)
周りの喧騒は無視し遥は依頼が張り出されている場所まで移動する。
(さてさて、金には困ってないから魔法とかの練習かな…だとしたら討伐系か)
街道の安全 ランクE-
内容
ゴブリンを10体討伐…10体毎に銅貨3枚
依頼主 商業ギルド
質より数 ランクE
内容
キラーアントを20匹討伐…20匹毎に銅貨5枚
注意 パーティー推奨
依頼主 ギルド長
悪鬼の掃除 ランクD
内容
オークの2体討伐…2体毎に銅貨8枚
依頼主 ギルド長
(ふむ、まだランクはFだからな…ゴブリンの討伐でいいか)
遥は街道の安全の依頼書を取り、受付まで持っていく。受付には昨日の店員さんとは違い、犬耳をつけた茶髪の子がいた。
「これを受けたいのですが」
「はいちょっとお待ちを…はい大丈夫です。それではメモリープレートは必要ですか?」
そう言うと、犬耳の人はステータスプレートのようなものを取り出した
「…あの、それは?」
「メモリープレートですよ?」
「メモリーですか?すいません、初めてなものでできれば教えていただけませんか?」
「はい、このプレートは討伐した魔物を記録できるのです」
「記録、ですか」
「そうです、魔法などで焼いてしまうと討伐部位が取れなかったなどの声がありギルドの上層部が作ったものです。一般でも市販されていますが、高価なのでギルドでも貸し出しているのです」
確かに討伐したことが記録に残れば横取りなんかの不正も防げる。だが
「盗まれたりしないのですか?」
「貸し出した相手の登録はしますし、もし盗んだ場合は冒険者としての称号剥奪、罰金が科せられます。逃げるにしてもこの大陸は広いですからね」
「そうですね。では、お借りします」
「はい、銅貨5枚となります」
遥は小袋から銅貨を取り出した。ある程度の硬貨は袋に入れているのだ。
「はい、ありがとうごさいました。依頼、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。それでは」
(さてさて、時間も3時間もないし、急いで討伐に向かいましょうか)
遥はギルドを出て森へと向かった。城壁の門番はマイトではなかったが、問題なく通過できた。北の森へはよく行っていたので東の方へ走っていく。距離的には4~5kmあるが遥の馬鹿高いAGIを生かして疾駆していく。結果、2分で東の森へと着いた。
(途中で人がいなくてよかったな)
最初は踏み込み加減をミスって小さなクレーターを作っていたが今では足音を消せる程には上達した。
(さてと、ゴブリンはどこかね)
森の中へと入っていくき、適当に散策することにした。
数分後、遥は森の中にある平原にいた。街道沿いに散策していたがゴブリンが少なかったので、街道を逸れてあても無くさまよっていた。その時に見つけたのがこの平原である。
「ほえ〜綺麗なところだな」
平原は中心に大木がそびえ立ち周りは芝生のような柔らかい草が敷き詰められている。そんな絵画の一枚のような風景に似つかわしくない光景が、
(なんだ?あれは…龍?狐?)
大木の下には小さいが胴体の細長い狐がいた。足のない龍やうなぎのような体だ。だが、まだ幼生なのだろう、体の長さは遥の腕ほどで太さはまるで枝のようだ。
(にしてもなんでこんな所に…親とはぐれたか、捨てられたか、どちらにしても気になるな)
遥は狐の元へと近づいた。狐は遥に気がついたのかこちらを見てくる。だが、力なくまた横たわってしまった。何かおかしいと思った遥は狐の元まで移動し体を見る。狐の体には致命傷とはいかないまでにもひどい傷があった。
(ひどいな、早く治療しないと)
治癒の魔法をかけようと狐に触るが、狐が身を翻して指に噛み付いてきた。いくら力がなくても、遥のDEFと牙の鋭さのせいで血が流れてしまう。
「大丈夫だよ。俺は危害を加えるつもりはない。だから、危なくなる前に治療させて欲しいんだけど」
遥が優しい目で狐を見て、笑いながら言った。
「キュ?」
狐もこちらを見ると口を離し傷口を舐めてくる。
「ありがとう」
狐の頭を指の腹で撫でる。すると、安心したのかその場に倒れた。
「早く治してやらないとな」
手早く傷口を確認し治癒をかける、無残に裂かれていた裂傷は跡形もなく消え打撲痕も消えていった。
「これでいいな…さて、起きるまで待つか」
ここで置いていくという選択は遥には無かった。見ず知らずの人なら置いていくこともあったかもしれないが、相手が獣だったのなら話は別だ。小さい頃から獣には心の傷を癒してもらっていた遥は獣に並々ならない愛情があるのだ。それが見たことがない生き物だとしても。
狐の隣で気持ちの良い風を浴びながら遥かはこんなことを考えていた。
(そう言えば、マイトもミーチェも注意してこなかったけど、このままだとギルドの時みたいに絡まれるかもしれないな)
遥が気にしているのは自分が人と目を合わせられないことについてだ、確かに最近ではネリィとランとは目を合わせられるが、ネリィは自分と似ているという共通点がある。ランはもはや恩人(?)だ。でもやっぱりほかの人とはまだ無理だ。なら、どうすればいいのか。
(…あ!仮面をつけるか!仮面にで目元を隠し、目線は認識阻害の付与をすればいい。問題は材料だな)
【生成魔法】は生きているモノは作れない、草なども生物として認定されるのだ。
(そうなると、鉄?いやいや、そんなデスマスクみたいなのは嫌だな。どこかにないかな?)
と、周りを見渡すとちょうど真後ろ…そう、平原の中心に立っている大木に目がいった。
(…これならいけるな。飽和魔力量も申し分無い)
飽和魔力量というのはその物体に保有できる魔力料を表し、これが多いことで付与の質や、魔力が通りやすくなるのだ。
(そうと決まれば、ちょっと貰いますよ)
【空間魔法】を使い木の一部を抉る。抉った木を取り出し考える。
(さてさて、どんなデザインにするかな)
ミーチェに考えてもらうというのもあるのだが、みんなを驚かしたいという一心で必死に考えていく。
数分後、結果的に仮面は2つできた。ひとつはどこかあどけなく愛嬌のある道化のお面、ふたつめは半分ずつで色が違い黒と白でわかれている。目と口は三日月のように歪み真っ赤だ。二つの対照的な仮面を見て遥は満足していた。そして付与も施し、もはやランクで言えばA+相当の代物だ。
仮面をつけながら平原に寝転がり、そよ風を浴びること数分、やっと狐が起きた。
「キュウ?」
「おぉ、起きたか。痛いところはないか?」
「キュ!」
狐は遥を確認した途端にこちらへ飛び上がってきて、顔を舐め始めた。
「おい、やめろ…ぷは。まてまて…分かったから。ストーップ!」
「キュイ?」
「ゼェ…ゼェ…はぁ、とりあえず、元気そうで何よりだ。それじゃあ俺は行くから、気をつけて帰れよ」
元気なら大丈夫だろうと、その場を去ろうとすると。
「キュウ…」
「?どうした?」
狐は遥の服を加え離さない。
「行って欲しくないのか?」
「キュ!」
「う〜ん、でもなぁ…おまえ、親は?」
野暮なことだとも思ったが聞いた。
「キュウ…」
狐は目を伏せ首を振る。
「そうか…すまないな。…なら一緒に来るか?」
「キュウ!キュウ!」
狐は飛び上がり遥の首に巻き付きまた舐めてくる。
「分ったから、とりあえず名前がいるな…お前名前はあるか?」
「キュウ?」
何のことだかわからないのか、首をひねる。
「ふむ、…じゃあお前はこれから、リンだ」
「キュウ!」
喜んでくれたのか、また顔を舐めてくる。
(もう諦めよう)
遥はそう決心した。
「さてと、街に帰るかぁ」
ちなみに、依頼の方はもう終わっている。リンが起きるのを待っている間、かなり広い範囲に【魔糸】を張り巡らせておいたのだ。数は総数にして約800本、一本一本に炎の付与をしており、触れた対象を骨も残さず燃やし、対象以外は燃えないという優れものだ。
「何匹ぐらい燃えたかな?」
メモリープレートを覗くと
ゴブリン…248
キラーアント…82
キラービー…159
オーク…53
「…どうしよう…これ」
遥は仮面の下で泣いていた。
はい、微妙にサブタイトル詐欺のような内容でしたが後悔はしてません。今回登場した、リンですが容姿は管狐と言えばわかる人はわかると思います。リンがヒロインになるかは未定ですので期待はしておいてください。