乙女(?)との出会い。そして再会
ギルドを出た遥とネリィは、街の中をブラブラと探索していた。だが、今は困った状況になっている。
「なぁネリィ…もうそろそろいいんじゃないか?」
「…まだ無理」
「さいですか…はぁ」
今、ネリィをおんぶした状態で街を歩き回っている。もちろん街の往来でだ。事の始まりはギルドを出た時だった。ネリィが足が震えて歩けないというので仕方なくおんぶをしたのだが…それが間違いだった。ギルドを出てから1時間重くはないのだが、周囲からの目が痛い。大体が生暖かい目で見てくるのだ。おかげで店にも入れない。
「ネリィはどこか寄りたくないのか?」
「…服を…見たい」
「へぇ、意外だな」
「…やっぱりやめる」
「冗談!冗談だよ!よ〜し行くか!」
急ぎ足で近場の服屋へと向かい扉を開けた。
「あ〜んらぁいらっしゃ(バタンッ!)」
「さぁて、服屋に行くかネリィ!」
「?」
見てはいけないものを見た気がした。体長2m超のムッキムキの化物を…早くここから離れなくては!
キィィ〜
「あんらぁ?店に入って挨拶もないのかなぁ〜?」
さっきの化物が扉を開け俺の肩に手を置いてくる。おぶっていたネリィは驚いたのか、心音が凄まじいことになっている。
「すいません…店を間違えました。なのでその手を離してください」
「あらあら、気にしなくてもいいのよぉ。でもぉ、うちの店もかなりすごいのよぉ?見ていかなぁい?」
すごいって何が!?サイズの上限!?それとも店員の威圧がか!?
「いえいえ、連れが少し怪我をしてしまっているので…」
「あらまぁ!それは大変じゃない!早く入って!」
言うが早いかオレをネリィごと店へとお持ち帰りした。なんちゅう馬鹿力…。
店へと入店…もとい誘拐された俺達は店の奥に消えていった怪物さんを待つためにいま椅子に座っている。別に逃げてもいいのだが、後々面倒になるのはゴメンだ。…
「で?その子は大丈夫なの?」
「大丈夫です。こう見えて俺達は治癒の魔法が使えるので」
「そうだったの?あんらぁごめんなさいねぇ、早とちりしちゃって。でも、治癒魔法なんて珍しいわねぇ」
「そうなんですか?」
ネリィが(早く帰ろう)と服の袖を引っ張り目で訴えてくるが、こちらの情報も気になったので聞くことにした。
「あら?知らなかったの?」
「なにぶん田舎から来たもので」
「この大陸で田舎って…随分なところね…」
「あははは、そうですね」
怪物さんはこっちを凝視したまま笑っている。ちなみにギルドを出てからはとの眉間を見て話すようにしている。…それでも失礼な気がするが。
(怪しまれたか?)
「そっかぁ。まぁ深くは聞かないわぁ。それで、治癒魔法だったわね。治癒魔法はねぇ、イメージしずらいからって言われてるわぁ」
「イメージ…ですか?」
「そう、たとえば、足に深い切り傷を受けたとするわよ?そうして治そうとすると傷口だけを治そうとイメージしてしまうの」
そう、傷口を塞いだだけだと中の断絶した筋肉や神経、血管などはつながらない。そんなことをしたら中身がぐちゃぐちゃのままになってしまう。だからこそ、治癒魔法には精密なイメージが必要になる。
「なるほど...そうでしたか。それは難しいですね」
「おかげでこの世で治癒魔法を完璧に使えるのは3人だと聞いてるわ」
「三人だけですか」
「そうよ。でもあなたたちも使えるなら5人になるわね」
「いえいえ、僕たちは軽い切り傷を治す程度ですので」
「それでも凄いわよ。あぁ、私としたことが名前を言ってなかったわね。私はミーチェよ。よろしくね」
怪物...ミーチェが厚い顔で薄く笑ってくる。これから宜しくするかどうかは別として、名乗ってをいたほがいいだろう。
「よろしくお願いします。僕はハルカです」
「...ネリィ」
ネリィはまだ慣れていないようだ。
「二人は兄妹なの?」
「いいえ、違います...女の人だと間違えられなかったのは初めてですよ」
「そりゃ、服屋だからねぇ。体型を見ればわかるわよそのくらい」
俺の中でミーチェの好感度が上がった...気がした。
「で、早とちりをしたお詫びに服を見繕ってあげたいのだけど...いいかしら?」
ミーチェがランランとした目でこっちを見ている。
(ふむ...まぁこの人ならいいかな)
同意を求めるようにネリィに視線を送ってみると。...怯えた目でまだミーチェを見ていた。少しして俺の視線にきずいたのか、こちらを見てちぎれるのではないのかという程首を横に振り始めた。それを見て意図をくんだ俺は、ネリィにほほ笑みかけて
「分かりましたミーチェさん。よろしくお願いします」
「あらぁ、ミーチェでいいわよ」
「...」
ネリィが諦めたように天井に視線を向けた。ずっとおぶらせていた罰だ。
「良かったわ。断られていたら夜も眠れなくなるところだったわよ」
子供のようなランランとした目から打って変わって血走った目に変わっていた。...選択を誤ったか?
「...どういうことです?」
「どうもこうもないわ!あなたたちの服は自分の魅力を殺してることに気がつかないの!?」
「...はぁ」
なぜ俺に矛先が向くんだ?
「だいたいハルカ!」
「ハルでいいですよ」
「じゃあ、ハル!ハルせっかくの綺麗な黒髪を適当に後ろに流して!」
「いえ、それは服とは関係ないのでは...それに僕は男ですから」
「口答えをしない!男の子だろうと男の娘だろうと関係ないわ!髪は服を引き立てるその逆もまたしかりよ!」
男の子って二回言ったぞ...テンション上がりすぎだろ...
「そしてその服!上等なものだとは見ればわかるわ。でもねなんで黒一色なの!」
「そんなの何着ていいか分からないからですけど」
「もったいない...もったいないわ!確かに黒はあなたに似合う...けれども黒一色にすることでむしろダメになっているわ!」
「...そうですか」
んなことを言われてもこちとら昔っから服に気を使ったことなどない。
「...そうですか。じゃないわよ!あたしが見るからには絶対に似合う服を着て帰ってもらうわよ!そして髪も綺麗にさせてもらうわ!」
ふむ...非常にめんどくさい。
「次にネリィ!」
「!?」
今まで傍観していたネリィに矛先ば向いたことで跳ね上がるほど驚いていた。
「あなたはどうしてローブを着ているの」
「これは友人にもらったもの...だから大切にしたい」
「そう...確かにそれは大切よ。でも、今はそれじゃあダメよ!ローブのせいであなたの魅力が半分以上減っているわ!」
「...そう」
ネリィは別段気にしていないようだが、ミーチェに気押されているようだ。
「だいたい、そのローブをくれた人だってあなたが綺麗になることを望んでいるはずよ!」
「...それはない」
ネリィが逡巡したあとに、言い切った。
「それなら綺麗になって見返してやりなさい!」
「別にいい」
「あぁもう!まどろっこしいわね!こっちに来なさい!」
そう言うとミーチェはネリーィを引っ張り耳元で何かを言った。
「綺麗にな...好き..わよ」
「!?」
ネリィが硬直し、数秒後にこっちを見た、少し頬が赤くなっている気がする...
「やるわ」
「よく言ったわネリィ!それでこそ乙女よ!」
その乙女とガチムチのおっさ...お姉さんが手を組んで信頼を育んでいる。...どうしてこうなった?
「そうと決まれば、まずは採寸よ!」
そう言うと、ミーチェが懐に両手を入れ、一気に伸ばした。と思ったら俺たちの体がメジャーのようなものでぐるぐる巻きにされていた。
(!?速っ!)
「ふふふ…さてと、おとなしくしなさいね。子猫ちゃんたち」
まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように純粋で...そして狂気に満ちた目でこちらを見た...
(短かったな...俺の人生)
こちらに近づいてくる怪物になすすべもなく蹂躙(採寸など)されていくのだった...
悪魔の蹂躙劇から数時間後、外が真っ暗になった頃にようやく俺たちは解放された。俺は疲れきった顔で、ネリィは期待に満ちた顔で、ミーチェはやりきった顔で。
「…ふぅ、お似合いよ。お二人さん」
俺達は最初に町に来た時とは全く別の服装になっている。俺はなぜか執事服になっている。長い髪は櫛で解かれ元の世界の時のように一本に結んでいる。執事服は燕尾服である。なぜ執事服なのかと聞くと。
「私の趣味兼あなたに似合うからよ!」
と、ものすごくいい笑顔で言われてしまった。…オカマの趣味に合わせてもなぁ。
そして、ネリィは白のフリルの付いたシャツに青のベスト、黒のタイで襟元を締めている。下は青のミニスカートで白のチェック模様が入ったやつと黒のニーソックスを履いている。靴はブーツのままだ。
「まぁ、疲れたけどありがとうミーチェ」
「ありがとう」
「いいえ、気にしないでいいのよ。…次からもうちの店を利用してもらえれば」
「チャッカリしてるな。まぁいいさ、次来るときは違う服を持ってきてやるよ」
「それは助かるわね」
今日着てきた服はミーチェにあげた、個人的にも技術の向上に役立てて欲しいし、屋敷にもまだまだ残ってるからな。
「じゃあそろそろ行くな」
「ええ、またいらっしゃい。他の店に浮気しちゃダメよ?」
「ははは、しませんよ」
てか、できねぇよ。
「またねネリィ。相談事があったらいつでもいらっしゃい」
「うん!」
ネリィはミーチェとかなり仲良くなったようだ。やっぱり女同士通じるものがあったのかね?別れの挨拶もほどほどに、俺達は店を出て行った。ついでに【閲覧】でミーチェのステータスを覗いてみたら。
ドラン (28) Lv.13
種族 人族
職業 服屋
HP 340/340
SP 570/450
MP 30/30
ATK 550
DEF 720
MAT 20
DEX 10
AGI 330
スキル
【裁縫師10/6】【コーディネーター10/7】【観察眼10/6】【格闘術10/8】
称号
新しい扉を開いた者 好かれる者 なぜそうなった
…化物か?いや、人のことは言えないが一般人とは思えないぞこれ。これなら、C~Bくらいの魔物なら倒せるんじゃないのか?そして何よりあいつが二十代!?
などなど、戦慄を覚えながらも帰路へとつきた。帰り道の途中、もう真っ暗になり青と赤の月の光に照らされながら街中を歩いているとネリィが口を開いた。
「…ねぇ…ハル」
「どうした?…言っておくが、もうおぶらんぞ?」
「それは…わかってる」
少し残念そうにもそう言った。
「…ミーチェの店…楽しかったね」
ネリィは止まり、新しく買った服を翻しながらそう言う。その姿は年相応なあどけないものでいつもよりも可愛く見えた。
「…そうだな」
苦笑いを浮かべながらも頷いた。
「それで…ね」
「?」
さっきから歯切れが悪い。ここまでどもっているのを見るのは初めてだ。
「この服…にあってる?」
こちらを俯きながらも見上げ、祈るように見てくる。
(…てか、そんなことでもじもじしてたのか。やっぱり女の子なんだな…。周りの目は気にしなくてもいいのに)
そんなことを考えながらも、心配げに見上げてくるネリィの全体を見たあとに頭に手を笑って言った。
「大丈夫よく似合ってるよ」
そう言った瞬間、ネリィの顔が夜でも分かるほどに真っ赤に染まった。
「…」
真っ赤な顔のままで俯きながら俺に抱きついてくる。そんなネリィを抱きしめ返し言ってやった。
「だからそんなに周りの目を気にしないでいいと思うぞ。」
「…」
今度は冷めた目でこちらを見上げてくる。表情の変化が豊かな奴だな。
「周りの…目?」
「おう!ネリィは可愛いんだから自信を持て!」
「はぁ…」
呆れたようにため息をつきながらも嬉しそうに顔を綻ばせている。
「今は…それでいい」
「…?そっか」
「ノリで返事をしない」
「ありゃ?バレた?」
「分からないならいい…いつか分かる…から」
「…ああ」
頭を一撫でするとネリィは離れていった。
「そろそろ帰ろ?」
手をこちらへ伸ばしてくる。
「そうだな」
出された手を掴み、また歩き出した。間もなくして、北門へと着いた。そこにはまだ朝の衛兵が立っていた。
「どうも、交代していないのですか?」
「えぇ、交代する奴が急病でね。あぁ、それと、俺のことはマイトと呼んでくれ。敬語もなしだ。」
「わかった。災難だったなマイト。ところで外に出てもいいかい?」
「いいけど、気をつけなよ。さっきから、聞いたことのない鳴き声が聞こえるんだ」
「鳴き声?」
「あぁ、ニャーという鳴き声がね」
「獣人族がいるんじゃないのか?」
「いや、獣人族にしては声が高すぎる」
「高すぎるねぇ?まぁ、気にはしておくよ」
「そうしてくれ、知った顔が減ると悲しいからな」
「あいよ、じゃあな」
「またな」
そして、城壁をくぐり抜けて森の中へと入っていく。行きでは何も現れずにたどり着いたが夜はどうかな?
「ハル、気を抜いたらダメ」
「ん?あぁ」
注意させれた通り周囲への感覚を鋭くしていると。何かが聞こえた。
ギェ…バンッ…ニャッ
…聞こえた。
「ハル!」
鳴き声が聞こえた瞬間、ネリィの制止を聞かずに走り出した。
(あの鳴き声は…)
距離は遠くない、走れば10秒とかからない。ネリィには悪いが先に行くことにした。
(間に合えよ)
たどり着いたところには、見たことのない緑の小人と赤い毛玉がいた。
(小人はこの世界のゴブリンとかいうやつだろう。それよりもあの毛玉だ)
こちらに気がついたのかゴブリンと毛玉がこっちを向く。見たことのない赤の毛並み、だが、あの顔つきそしてあの耳の傷。間違いない…間違いようがない。
「猫っ!」
「にゃーー!」
あの時の…猫だ…
オカマといえば服屋だよね?