ギルドでのテンプレといえば
ギルドへ入った瞬間視線がこちらへ一斉に向かった。視線を受けた俺はわずかに顔を歪めながら、ネリィは手を強く握って後ろへ隠れた。とりあえず、このままでは気分が悪いので視線を向けている奴らに【威圧】を飛ばした。
ガタガタッ!
3/1くらいの奴らは顔を青くして視線を外し、そのほかはレベルが低いのか変わらずこっちを見ていた。
(まぁ、こんなもんか)
【威圧】の強さを変えればレベルが低くても効果があるのだが、そこまでいくと殺してしまう可能性があるので自重した。残った視線は無視してカウンターへと向かった。
「ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう」
カウンターにいたのはベテランっぽい金髪の女性だった。
「冒険者の登録をしたいのですが」
「登録ですね、承りました。ステータスプレートはお持ちですか?」
「はい、持ってます」
「お二人でよろしいですか?」
「はい、宜しくお願いします」
「では、奥の方に来てください」
店員さんがカウンターの奥の扉へと入っていきそれを追う。扉の先には階段と廊下、そして扉が二箇所あった。
「こちらです」
店員さんは手前の扉を開ける。中には水晶玉と魔方陣みたいなのが机の上に置いてあるだけの部屋だった。
「そちらへお座りください。それと通行手形をお見せください」
ネリィと共に店員さんの対面、水晶玉を挟んで座る。座りながらコートの内ポケットに手を入れ手形を取り出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます。それでは…ネリィさんから、水晶玉に触れてください」
「…」
ネリィは無言で頷くき手を置いた。
「これから質問をしますので嘘偽りなく答えてください。その水晶は嘘をつくと赤く変わるようになっています」
「…わかった」
「ではまず、お名前はネリィさんですね?」
「…はい」
「目的は観光で?」
「…はい」
街を見ることも目的なので嘘は言っていない。
「なぜ冒険者に?」
「ハルがなるから一緒に」
まぁ、ネリィの目的はそうだろうな。
「では次に、この手形は本物ですか?」
「…本物」
水晶玉の色は変わらない。ネリィはあれが偽物だと知らないから嘘はついていない。…正直肝が冷えたけどな。
「最後に、犯罪を犯したことは?」
「ありません」
最後ははっきりと否定する。
「以上となります。次にハルカさん」
「はい」
返事を返してから水晶玉に触れる。
「では、お名前はハルカさんですね」
「はい、ハルでいいですよ」
「…目的は観光で?」
「はい、田舎から来たものでいろいろ見たくて」
「なぜ冒険者に?」
「農民のままではこれから食べていける気がしないので」
「この手形は本物ですか?」
「そりゃあもう本物ですよ」
「犯罪を犯したことは?」
「…ありませんねぇ」
「…以上です。お疲れ様でした。お二人のステータスプレートをお預かりします」
「どうぞ」
「…どうぞ」
「では、ステータスプレートの上書きが完了するまで10分ぐらいお待ちください」
そう言って奥の部屋に入っていった。俺達は部屋から出てギルドの中の椅子に座っていることにした。
「ハル…あれは?」
「水晶の話か?」
「そう」
「そうだなぁ。まず、どうやって嘘をついているかを判断してると思う?」
「…?」
「分かんないか?あれはな嘘をついた時に変わる魔力の波を読み取って動いてるんだ」
あの水晶玉は多分、下の魔法陣と連携して嘘発見機として稼働しているとアタリをつけた。
「生き物はだれしも無意識に魔力を外に放出しているからな。だから、魔力を外に出さないように操作していたからあの水晶の色は変わらなかったってこと」
「…【審「待った待った!今回ばかりは見逃してくれ!だってほら考えてみなよ!」…?」
「今回のあれで、もしも衛兵とかに捕まったとしたらこれからこの街に居ずらくなるだろ?な?な?」
「…むぅ」
よし!後ひと押しだ!
「それにだぞ、今ここで捕まって最悪死刑になったとしたら更正どころじゃなくなるだろ?」
「…はぁ、今回は見逃す。でも、次はない」
「分かってるさ」
そう言いながらネリィの頭を撫でる。こうしていると大人しくなるのだ。その代わりに周りから好奇の視線が多くこちらへ向かってくる。そして、ひときわ強い視線がこちらへ来る。
「おいおい、ここは女子供の来るようなところじゃないぞ」
筋肉質なハゲの男がこちらへ来てそう言った。こういうのは無視に限る。
「おい!聞いてんのか!?…このアマっ!」
筋肉ダルマが俺の胸ぐらを掴んで持ち上げる。ネリィはまだ後ろに隠れている。…てか、アマ?
「おい待て筋肉ダルマ」
「誰が筋肉ダルマだ!」
「そんなことはいいんだよ。…誰がアマだって?」
「あぁん?そんなのお前かその子のガキしかいねぇじゃねぇか」
「…はぁ」
またか、またなのかこのパターン…
「一応言っておくが、俺は男だ」
「「「はぁ!?」」」
周囲のセリフが重なるとともに好奇の視線がすべて嫉妬へと変わった。
「てめぇ、…そんなにひょろいのに男だったのか」
「ははは、馬鹿にすんなよきんにくん」
「誰だそれ!俺の名はディッシュだ!」
「はいはい、分かったから降ろしてくれ。いい加減疲れた」
「いや、この俺を馬鹿にした責任はとってもらうぞ」
「馬鹿にした?なんのことだ?」
「お前のその態度だよ!こっち見て話せや!」
「失礼な!俺は誰に対してもこうだ!」
「余計たち悪いわ!」
全く持って、なんでこの筋肉は怒ってんのかね?
「とにかくだ。それなりの謝罪はしてもらうぞ」
「謝罪?」
「そうだなぁ」
そう言うと、俺の方を見たあとに、後ろに隠れているネリィの方に粘つくような視線を浴びせ言った。…これはダメだな。
「おい!そこのガキ、こいつを無事に返して欲しけりゃ服をぜ「うるさい」ん…は?」
ディッシュの頭に1本何かが生えていた…鉄串だ。【電光石火】も使って刺したから動きは見えないし、痛みもないはずだ。
「な…なんだ…こりゃ」
「なにって、銅貨2枚で買ったレッドバードの串焼きの串だが?」
パニクって慌てているディッシュは俺から手を離して頭に生えた鉄串を触っている。
「大丈夫かネリィ」
「…うう」
ネリィはこちらへ来て抱きついてきた。よっぽど怖かったのだろう…体が震えていた。
「これはきつい仕置きが必要だな」
口を三日月状に歪めそうつぶやいた。
「おいてめぇ!これやったのはてめぇか!」
「違うって言ったら信じるの?」
「信じるわきゃねぇだろ!」
「なら何言っても無駄じゃん」
いまディッシュの頭に生えているのは鉄串だ。普通なら刺さった時点で死んでいる。だが、この鉄串は普通じゃない。…さてさて、これからが面白いところだ。
「さぁさぁディッシュくん、今なんで君が生きているかわかるかい?」
「んなことわかるわけ無いだろ!てかこれ、ホントに刺さってんのかよ?」
「疑うなら抜いてみれば?抜けるものならね」
ディッシュは言うが早いか鉄串に手を伸ばし力を込める。…が
「っっっ!?がぁぁぁあぁぁあああ!「うるさい」へぶっ!」
喚きながら転がるディッシュの腹に蹴りを入れた。…ちゃんと手加減をして。
「どうだい?本来生きてる間じゃあ味わえ無いほどの痛みのはずだけど?」
「うぐっ…ふぅふぅ」
「ありゃ?喋れないのかい?」
ディッシュは腹を押さえたまま動かない。
「ディッシュくん、頭の悪い君に特別説明してあげよう。その鉄串はね永続治癒と痛覚倍加の付与がしてあるんだ」
「ふ…よ…だと?」
「そうそう、ちなみに今の君の体は腕の一本を切り落としても新しいのがすぐに生えてくるよ。死ぬほど痛いけどね」
「…そんなばかな」
「あれあれぇ?信じてない顔だねぇ。そうだね、百聞は一見にしかずとも言うし、やってみようか?」
俺はディッシュにゆっくり近づきながら【生成魔法】でノコギリを手に作り出す。
「さてさて、右と左どっちがいい?選ばせてあげるよ?」
「い…や、やめ…て」
「どうせ生えてくるんだからいいじゃん。決められないようなら指から落としてあげるよ」
「やだ、やめてくれ!」
「きみねぇ、謝れば許されると思ってるのかい?そんなんで許されるならこの世に罰はないんだよ。君がやろうとしたことは俺にとって大事な物を壊されることと同じくらい腹立たしいんだ」
ノコギリで今まさに指の細胞をズタズタにしようとした時
「ハル…もうだめ」
「…ネリィ?」
「これ以上やったら使わないといけなくなる」
「…わかったよ。でもいいのかい?」
「…いい」
「…そっか」
カラン
ノコギリが音を立てて床に落ちた。
「じゃあ、ディッシュさんそれ抜いてあげるよ」
「え?」
右手を鉄串に、左手をディッシュの頭に置き一気に引き抜いた。
「うぁぁぁあああぁぁぁ!」
「うるさいなぁ。痛みはないだろう?」
「えっ?」
ディッシュは立ち上がり数秒沈黙したあと頭をおそるおそる触った。
「…ない。穴もない。痛みも。は…ははは…」
バタン
ディッシュは倒れた、そう、燃え尽きたのさ真っ白な灰のように。
「ハルさん、ネリィさん。上書きが終了いたしまし…なんですかこれは?」
「さぁ?飲みすぎでは?ねぇ、皆さん?」
店員さんに見えないようにギャラリーの方々に鉄串を持って笑ってあげた。
「「「はい!」」」
「…はぁ、そうですか。とりあえず、ステータスプレートはお返しいたします。続いてクエスト受注、ランクについてお聞きしますか?」
「いえ、大丈夫です」
「かしこまりました。それでは受注の際はお申し付けください」
「はいはーい、それじゃあねぇ」
「…さようなら」
後ろ手に手を振りながらギルドを出て行った。…あ、ディッシュ忘れてきた。…まぁいいか。
というわけでディッシュは生贄になったのさ。今回ギルドでのテンプレといえば新人いびりですよね?