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PrototypeForce  作者:
3/17

3

どのくらい、時間が経ったのだろうか

ほんの僅かな時間、目を閉じていたようにも、長い間ずっと眠っていたようにも感じる

最初に聞こえたのは、足音

ああ、ひょっとして、警備員が巡回してるのかな

目を開けると、太陽はもう沈んだのだろうか、薄暗い空だけが広がっていた

会議はもう終わった頃だろう

教員にせよ、警備員にせよ、とにかくどうやら人がいるみたいだし、長かった軟禁生活もこれで終了、というわけだ

寝起きで重たい体を動かし、立ち上がる

早く足音を追いかけよう

やや早めの間隔で廊下に響くそれは、徐々に遠ざかっているように思える

日差しが弱くなったためか、校内は日中より少し寒くなっていた

空調は止められてしまっているらしく、轟々という静かな音はもう聞こえない

半袖の制服にこの気温は少し堪えた

「上着か何か、持って来ればよかったなぁ……」

腕を摩りながら、一歩


「……ん?」


踏み出したところで、別の音に気づく

先程足音が聞こえたのとは逆の方向

誰か他にも人が居るのか?

ズルリ、と

何か濡れた物を引きずるような、そんな音

証明の消えた廊下の先

突き当たりの教室の扉がほんの少しだけ開いていた

ドアには少し隙間があるのか、中から光が漏れており

そこから先程と同様の音が連続して、不揃いなタイミングで響く

「……?何だ?誰か……居るの?」

やや大きめの声で呼びかけてみると、ピタリと止む音

気付けば遠ざかっていた足音も聞こえなくなっていた

不気味な静寂

しばらくして、再び鳴り出すズルズルという音

時折混じる何かが潰れるような雑音が、やけに生々しい

……そういえば、最近ここの学生が行方不明になる事件が多発しているとか

学校側は校内での事件性を否定していたけど、誰が言いだしたのか、校内に住む『怪物』の仕業だと、生徒の間では有名な話だ

「……っ」

ゴクリ、と

唾の塊が喉元をこじ開けてゆく

その音は変に大きくて、嫌な汗を出させた

「学校の怪物……?はは、そんな馬鹿な……」

妙な時間に妙な話を思い出したせいで、心臓の動悸が速くなる

これってひょっとして、怪談話でよくあるような、シュチュエーション?

放課後、一人で、薄暗い廊下、一つだけ空いた教室

音の正体を確認すべく向かった少年は、そこでこの世のものとは思えない不気味な光景を目にする

なんて、あまりにベタで、典型的な……

「……何で、扉の前にいるんだよ、僕……」

気付いた頃には扉の目の前

教室から漏れる光に、吸い込まれるようにして立っている僕が居る

『化学室』と表示された電子掲示板が、ぼうっと青白い光を揺らす

嘘だろ

何で来た?

怖いもの見たさって奴なのか?

この状況で?

じっとりとした湿度を肌に感じながら、ゆっくりと隙間に顔を近づけてゆく

眩しい光に適応した目が、教室内を映し―――


パァン


乾いた音


「……え?」


同時に急激に襲い掛かる脱力感

思わず地面に膝をつく

背中のやや左上が、熱を持ったかのように痺れていた



非日常というものは、誰にでも唐突にやってくるもので

それは万人に対して平等に、無差別に、こちらの意図なんてまるで無視して降りかかる

どうやらそれは、普通の代名詞たる僕にも例外なくやってくるらしく

こんなに普通に非日常に巻き込まれるなんて、なんとも皮肉な話だ



ふらり、と


不意にバランスを保てなくなった半身が、地面に向かって落ちてゆく

扉にぶつかり、そのまま勢いで地面に倒れ伏したが、不思議と痛みは感じなかった

倒れて体勢が変化したおかげで、この奇妙な現象の原因が顕になる


「人……女……の子……?」


廊下の突き当たり

目に映ったのは、長い黒髪

どこかの学校の制服だろうか、きっちりと着込んだブレザーに青色のネクタイ

頭にかぶった庇の長い帽子は……学帽、という奴だろうか

庇に隠れて瞳はよく見えない

まだその口から煙を上げている鉄塊は、少女の手元から、真っ直ぐにこちらに向いていた

あれは―――


パァン


「……っ」


二回目の銃声

腹部に軽い衝撃のようなものを感じた

声が、出ない

指の先端まで、体中の神経が全て死滅してしまったような、そんな感覚

ゆっくりと、瞼が降りてゆく

撃たれたのか?

僕は今

どうして

僕は死ぬのか?

僕は今、殺されたのか?

理解が追いつかない脳が、バラバラな思考を散らしてゆく


歪む視界の中、少女がこちらに歩んでくるのが見えた

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