2 食人事件
本体が学生です故更新に波が多いです
受験も近いですし
PM1:05 北校舎五階 半沢吉明
「……やっぱり、ツいてないなぁ……」
放課後の廊下を一人歩きながら、そんな言葉を吐き出してみる
昔から続く不運な体質は、本日もその効力を遺憾無く発揮しているようだ
今日までで通算百回
さっきの一回で計百一回、僕はあの四角い『ヤツ』に敗北したことになる
「本当に当たることがあるのかな……いやいや、もうここまで来ると詐欺だよ詐欺」
そんな詐欺まがいの商法に、こうして一人挑み続けている時点で既に負けのような気がするが
文句をぶつぶつと垂れながら清涼飲料を口に含み、一気に半分程飲み下す
乾いた喉が満たされる感触
春も明けきらないというのに、外は真夏のような暑さだった
窓の外を覗くと、まだ高い太陽の下、部活に取り組む生徒達
今日は午後から臨時の職員会議があるらしく、授業は午前中で終了
会議と並行して昨日から続く校内の設備点検も行われるらしく、文化部及び帰宅部の生徒は全員帰宅するよう指示されている
その為いつも賑やかな校内は嘘のように静まりかえり、さながら世界に僕一人取り残されたような―――
「……開かない、よなぁ、ここも……」
まぁ、取り残されてるんだけどね、実際
ピクリともしない非常口のドアノブから手を離す
これで確認していない脱出経路は、西側の非常階段のみとなった
「それにしても……まさかトイレに行ってる間に施錠完了してるなんて……」
下校途中、突如猛烈な腹部の痛みに襲われた僕は、校舎を出てすぐだったこともあり、咄嗟に建物内へ引き返してしまった
日直と掃除当番が重なってただでさえ遅い帰りなのに、その上十数分個室で粘っていたために教職員にも発見されず
落ち着いた頃には施錠完了
で、今に至る
会議室は別の棟
携帯電話は、充電が上手くいっていなかったのか、バッテリー切れ
内線での連絡は、何故か機材が全て故障しており出来なかった
別棟への連絡路は施錠されており通れず、徒歩で助けを求めることも出来ない
以前までなら学生証を使えば内側から鍵を開けることができたが、先日の設備点検で校内全ての鍵の付け替えを行ったらしく
今朝から深刻な回線エラーが出ている僕の学生証の開錠用データは、どうやらまだ更新されていないようで
会議が終わるのは夕方遅く
つまり
「……ツいてない」
溜息をついて、その場に腰を下ろした
蒸し暑い中、広い校舎内を歩き回ったおかげで、若干の疲労がたまっていた
この様子では、恐らく西側の非常階段も施錠済みだろう
会議が終了し、校内の電子ロックが解除されるか、あるいは巡回の警備員が通りかかるか
それまではこうして校舎内に一人、閉じ込められっぱなしというわけだ
少し冷えた壁に背を預け、目を閉じる
本来生徒を守るためのセキュリティが、皮肉にも生徒を閉じ込める檻になるとは
黒よりも柔らかな闇に包まれる視界
微かに響く空調の音が、何とも言えない奇妙な心地よさを醸し出す
平和だ
ここでしばらくこうしているのも、まぁ悪くはないかな
どうせ時間は有り余る程あるんだ、ほんの少しの非日常を、堪能してみるのもいいだろう
最悪窓から出るなりすれば、帰ることはできるわけだし
すぐにやってきた陥るような感覚の眠りに、抗うことなく沈んでゆく
昼下がりの、穏やかな世界
もう一口だけ飲料を口に含むと、ボトルを脇に置いて、僕は眠りについた