平安貴族とオレ
夜が来る。お日様ともお別れだ。
嫌な時間だ。ふっと、伸びをして、頭をかきむしる。まったく。
コンビニ袋片手に、大学へと戻る。中身は、いつもの冷し中華。いい加減飽きた味だが、大きな失敗もない、無難な味だ。
「よっ、と。」
いつものように、一段飛ばしで非常階段を駆け上がり、研究室に戻る。運動不足が気になる身には少し辛いが、この階段を使うと近い。
「今日も、変わらんよなあ。いつもより、少し涼しいくらいか。なんか良いことでもないかな」
一人呟く。
開いた窓からは、風が吹込んでいて、蒸し暑かった昨日よりは、涼しい。
「平安時代の貴族」といったタイトルのプリントが、バタバタと音をたてるが、気にしない。
昔々、平安時代くらいの貴族って、羨ましい。なんか、楽で暇そうだから。歌さえ読んでりゃよさそう。
今の俺みたいに、なんとなく、努力もしないクセに、「いいことないかな」って言ってた貴族はいただろうな。
―ええ、いましたよ。もっとも、そんな人は誰にも相手されませんでしたけどね。私は、弓だって、結構上手いんですよ?―
…ん?声が聞こえる。
いや、声として
「聞こえる」のではなく、
「感じる」とでもいうのか。
こないだ授業でもらったプリントにあった、貴族の姿が、ふと気になった。
相変わらずバタバタ音を立てるプリントを取り上げて、絵巻のページを覗き込む。
そこには、見るからに弱そうな、文官の姿が描かれている。文官の癖に、いっちょ前に弓なんか持ってやがる。
前にみた時は、
「絶対使えないだろ」とニヤニヤしながら思っていたが、今は心なしか、以前よりも、
「お飾り」では無いように思えた。
―そんなに、私、弱くないんですよ?―
また聞えたよ。俺も疲れてんなあ。手早く冷し中華をたべたあと、天井を見やった時、そんな声が聞えた。
気分転換に、手の親指と人差し指の間のツボと、頭のマッサージをする。効果はまあ、ボチボチだ。
さーて、再開、再開、と。
いつの間にか、涼しい風はやんでいて、少し汗ばみそうな空気になっている。
団扇片手に仰ぎつつ、レポートに取組む。
「俺だって、少しは頑張ってるっつーの。平安時代の"これから"については、お前よりは、物知りだと思うぜ。」
意味もなく、絵巻の中の文官に、語りかける。
その時だけは、いつもは温和な顔つきの文官が、不機嫌な顔をしていたような気がした。
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