驚愕!きもだめしについて(まだ途中 一時間目)
久しぶりの新章です。更新頻度が落ちてきていますが、なるべくすばやくしていきたいと思っています。
その日の放課後、俺は真っ直ぐアパートには帰らず、土曜日にも訪れた夜嵐の家にまた上がり込むことになった。理由は久留熊に呼ばれたからである。何か俺と夜嵐に相談事があるらしく、学校が終わったら夜嵐の家に集合ということになったのだ。
そんなこんなで、俺は今黒と白のクラスメイトと共に机を囲みながら熱いお茶を啜っているのだった。
「えっと…本題に入る前に、先にお礼を言わないとね。」
久留熊は俺の方を見ながら言った。
「池岸くん、昨日は庇ってくれてどうもありがとう。お礼言うの遅くなってごめんね。あの時池岸くんが庇ってくれてなかったら、私今頃どうなってたかわかんなかった。本当に本当に感謝してる。」
「いや、止めてくれよ。俺はこの前偶然久留熊の話を聞いていたから、久留熊が無実だってすぐにわかったけど、そうじゃなかったら鶴見みたいにお前を疑ってたと思うぜ。」
俺はあの時罪悪感から久留熊を庇ったにすぎない。余り感謝されるとバツが悪い。
「ふふふ、無実を知っていても、あの大勢の中でそれを叫ぶことは中々出来ることではないわ。」
「夜嵐まで…止めてくれって…」
隣にいた夜嵐まで口を揃えて俺を褒めはじめた。非常にいたたまれない。
「俺のことはいいから、話を進めようぜ。久留熊、相談ってのは何なんだ?」
俺はたまらなくなって言ってしまった。
「うん。私今日の六時間目に職員室に行ったでしょ?そこで先生に金曜日の携帯事件について色々訊かれたの。でね、先生相手に隠し事する訳にもいかないし、本当の事を全部話したの。机に笑われたことも含めて全部。」
事前にテケテケから職員室での会話内容を聞いていたので、それについては知っている。
「でね、その時聞いたんだけど、実は昨日鶴見も私と同じ目にあってたらしいの。」
「同じ目…?鶴見くんも机に笑われたということかしら?」
「違う違う、そうじゃなくて、いつの間にか盗まれた携帯を持ってたってこと。」
「そう…」
夜嵐はなんかすごく落胆したようである。どうやら心霊現象を期待していたようだ。
「おきぬ、そんなに分かり易く気を落とさないでよ。鶴見は机に笑われたりはしてないけど、その代り他に不思議な事が起こってるんだから。」
「聞きましょう。」
夜嵐は早くも復活した。単純だなぁ…
「私が雪乃ちゃんの携帯電話を雪乃ちゃんの机に返しに行ったのは知ってるでしょ?でも、鶴見はそんなことせずに携帯を捨てたんだって。」
「最低ね。」
「確かに感心できることではないけど…鶴見も扱いに困ったんだと思うよ。ほら、昨日は私達の前で推理を披露したばかりだったし…」
鶴見をバッサリと切り捨てた夜嵐に対して久留熊がフォローを入れている。当事者同士分かり合えるところもあるのだろう。
「でね、ここからが不思議なところなんだけど、携帯は何回捨てても戻って来たんだって。捨てても捨てても、いつの間にか机とかランドセルの中に戻って来るらしいの。ね?不思議でしょ?」
久留熊はこれでどうだ!とばかりに、夜嵐の反応を待っている。
「弱いわね…」
夜嵐は一呼吸置いてから静かに言った。
「弱い?弱いって何が?」
「カジカはその『捨てられない携帯』を超常現象だと言いたいのでしょう?」
「そうだよ。だって怖くない?捨てても捨てても戻って来るんだよ?」
「カジカ、怖ければ何でも超常現象というわけではないのよ。」
熱く力説する久留熊に夜嵐は冷たく言った。
「鶴見くんのことは私もある程度は聞いてるわ。昨日今日で盗まれた三つの携帯電話を隠し持っていたらしいわね。それらの携帯がカジカの言ったように鶴見くんの手元からどうやっても離れなかったのだとしたら、確かに不思議ではあるわね。」
「でしょ?」
「でも超常現象と言うには弱すぎるわ。」
「だから弱いって何がよ?」
「インパクトよ。」
「インパクト?」
「そう、オカルトではインパクトが一番大切なのよ。」
そういえば先週テケテケの話をしてもらった時も夜嵐は同じようなことを言っていた。
「普通オカルトで『捨てられない』と言えば呪われたアイテムであることが多いわ。でも今回『捨てられない』のはただの携帯電話でしょう?あまりにもショボいわ。私を驚かせたいならもっとすごい話を持ってきて欲しいものね。これならまだ笑う机の方がマシだったわ。」
「うぅ…ね、池岸くんはどう思う?やっぱり怖いよね?」
夜嵐に賛同してもらえなかった久留熊は今度は俺に訊いてきた。
「え…えっと…実際に体験してないからわからないけど…怖いんじゃないか…多分…」
事実鶴見はかなり怖がっていた。個人差はあるだろうが、普通の人間は怖いと感じるだろう。
「やっぱりそう思う?じゃあさ、やっぱりこれもお化けの仕業だと思わない?」
「え?お化け?」
「そう!お化けが携帯を盗んで、私とか鶴見の鞄に入れたんだよ、きっと。」
うわぁ…どストライクだ…
しかし、俺はこれを肯定するべきだろうか…
「カジカ…それを言い切るのは難しいと思うわよ。」
俺が返答する前に夜嵐が久留熊に言った。
「前にも言った気がするけど、お化けっていうのはいるかいないか解らないからお化けなのよ。私も今回のことがお化けの仕業かどうかは興味もあるし、そうであって欲しいけれど、それを証明することはできないわ。」
「う~ん、おきぬが言いたいこともわかるんだけど、私今回のことには何か不思議な事が関係してるような気がするの。おきぬの言う超常現象ってやつ?」
夜嵐の持論に対して久留熊も強く主張する。
「…で?カジカは私や池岸くんに何を頼みたいのかしら?さっきから話の核心が見えないのだけれど。まさか、お化けの研究をしたいわけではないでしょう?」
確かに夜嵐の言う通りだ。久留熊は俺達二人に相談があると言っていたが、その内容はまだ聞けていない。
「うん…それなんだけど…」
夜嵐の催促を受けて久留熊はおずおずと話し始めた。
「今言ったみたいに、私は今回のことはお化けが犯人だと思ってるんだけど、そんな風に思わない人だっているでしょ?」
そりゃそうだ。お化けが犯人だなんて普通の人間は考えないだろう。
「特にあの推理部の人たちは絶対お化けなんて信じないと思うの。」
「推理部ね…。あいつらは探偵を気取っているような人種だから、そういう非科学的なものを信じないのは当然ね。」
「でしょ?でもあの人達は事件の捜査を止めたりはしないよね。」
「それはそうでしょうね。今日の事で推理部は大きく信用を失ったから、それを取り戻す為にも今まで以上に必死に捜査するんじゃないかしら。」
「そうだよね!」
久留熊は一体何を言いたいのだろう。確かに推理部はお化けなど信じないだろうし、事件の捜査を止めることもないだろう。しかし、そのことに何か問題でもあるのだろうか。
俺は不思議に思いながら久留熊の次の言葉を待った。
久留熊は少し間を開けてから意を決したように静かに言った。
「私、あの推理部が大っ嫌いなの。」
それがクラス一番の人格者の本音だった。