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アナテマ  作者: はるた
第四章
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17 出発(2)



 ライザが付けてくれた護衛は、イーズの他にキナという女性だった。リュカとは幼馴染らしい。

 キナはリリィににっこり笑って挨拶をしてくれた。


「よろしく、リリィ」

「よろしくお願いします」


 キナは暗黒戦争を経験しているらしい。故にルシナのことも知っているのだ。


「私は当時半人前で、あまり実戦には参加していなかったけれど……彼のことはよく知っている。――それにしてもすごいな。愛する人のためにそこまでできるなんて」

「いえ……とにかく無我夢中で。リュカにも、迷惑をかけてばかりです」


 くすくすと笑う彼女は大人の魅力を兼ね備えたグラマラスな女性、という風だ。リュカと並んだらさぞ映えるだろう。

 そう思っていると、背後から黒い気配を感じた。


「…………」


 黙ってキナをじっと見つめているのはレムだ。尋常ならぬ彼女の気配に、リリィは引きつった笑みを浮かべながら、


「ど――どうしたの?」


 恐る恐る聞いてみる。

 レムはむすっとしたまま、


「別に」


 と答えた。『別に』のわけがない。レムが不機嫌なわけは大体予想することができた。

 レムの腕を引っ張って、少し離れたところへ連れて行く。


「別にリュカとキナさんは、何かあるわけじゃないんでしょ?」

「幼馴染だってよ」

「それはレムだってそうじゃない!」

「違うよ。オレとリュカは一緒に成長したわけじゃない。言っただろ? リュカにとってオレはただの妹なんだって」


 リリィはぶんぶんと首を振った。


「そんなことない! リュカが言ってたの。レムは空気みたいなものだって」

「空気ぃ?」

「普段からそのありがたみを噛みしめることはないけど、常に傍にいなきゃ駄目だって! 離れてると苦しいんだって、そう言ってたの」


 しかしレムはむっつりとしたままだ。


「所詮そんなもんか……」

「何言ってるのよ! これ以上の愛の告白ってないじゃない!!」

「リリィは勘違いしてるよ。リュカはそんなつもりで言ったんじゃないって。本当に、単純に長い間一緒にいるからそう言っただけだ。オレに持ってるのは間違っても恋愛感情じゃない」

「何でそう言い切れるの!? そうだとしても、別にいいじゃない!」

「オレはお前みたいに強くないよ。自分に全く興味がない相手を想い続けることなんてできない」


 リリィは唇を強く噛んだ。今のレムはいつもの覇気が全くない。それに最初から無理だと決め付けてぐちぐち言っているその態度が気に入らない。


「もういいわよ! レムなんか知らない!!」


 頭から湯気を立ち上らせながら、ずんずんとリリィは去って行ってしまった。


   * * *


「怒ってる?」

「怒ってるわよ!」


 水をごくごく飲んでから、乱暴にテーブルに置く。

 向かい側に座っているのはセスだ。頬杖を突きながら怒っているリリィの顔を見ている。


「そんなに怒ってたら疲れない? もうすぐ出発するっていうのに」

「だって、レムがあまりにもわからずやなのよ!」

「どうせリュカのことだろ? 放っとけばいいのに。勝手に悩ませておけばいいんだよ」


 じろりとセスを睨む。


「あたしはあなたとは違うの」

「他人が入ったらこじれるだけだよ。本人がなんとかしなきゃ、くっついたって長続きしないんだから」

「それは……わかってるけど」


 確かに、レム自身がどうにかしなければ進展などない。しかしレムは半ば諦めてしまっている。


「どうすればいいんだろう……」

「どうもしなくていいよ。放っておけば」

「でも、力になりたいじゃない」

「それが余計だって言ってるんだ。君にできることなんて何もないんだよ。ただ傍から見てればいいの」

「そう……なのかな」


 レムは大切な友人だ。友のために自分ができることは全てしたい。しかし、その思いが彼女にとっては余計なことになってしまうのだろうか。


   * * *


「それでは、行って参ります」

「ああ、気を付けるのだぞ」


 旅立ちの時、ライザは自ら見送りに来てくれた。他にも多くの竜人たちが同胞の旅立ちを見送ろうとしてくれている。


「族長、本当にありがとうございました」


 リリィを信じ、我儘も聞いてくれた。

 ライザはにっこりと優しく微笑む。


「己を信じ、突き進むが良い。お主なら必ずルシナの闇を照らすことができるだろう」


 リリィも笑い、大きく頷いた。


「はい。ありがとうございます」


 セスに助けられ、小竜の上に乗る。馬と似ているが、鱗の感触が何とも不思議である。

 続いてセスもリリィの後ろに乗った。小竜の手綱を引くのはセスの役目なので、自然とリリィの体に腕が回される形となる。


「っ!」

「どうかした?」


 わかっているくせに、わざと不思議そうに言う。


「――何でもない」


 ぶっきらぼうにそう言うと、セスはくすりと笑った。


 レムの方に視線を向けると、小竜に乗った彼女はどこかぼんやりとしたようにリュカを見ていた。

 そのリュカはというとさっきからライザやキナと話をしている。他にも友人だろうか――多くの竜人たちがリュカに別れを言っているようだった。

 リュカは前族長の息子で、ライザの甥に当たる。彼の人柄から考えても、多くの者から慕われるのは用前のように思えた。


(レム……)


 生まれ育った土地の仲間と共にいるリュカは、レムには立ち入れない領域にいるのだろう。


 その気持ちはリリィにも痛いほどわかった。

 リリィの全く知らない過去を持つルシナ。話には聞いていても、その時のルシナを直接知らないリリィにとって彼の過去は、『耳で聞いたこと』でしかない。

 そして今――本来なら踏み入ることのできないルシナの心の領域へ、リリィは足を踏み入れようとしているのだ。

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