6 夢幻
部屋に戻ったリリィは窓を開けて夜空を見ていた。
剣の練習をしようと思ったのに、セスのせいで全くできなかった。
(全く、本当に何なのかしら)
同じ部屋の中にはレムがいるが、熟睡しているようで物音を立てても起きる気配はない。
もうすぐルシナに会えるかもしれない。ただ、最悪の形で。
明日からリリィは聖殿の内部の警備につくことになっていた。自分から望んだことだが、恐れもあった。ルシナと戦うことになる……彼の邪魔をすれば、殺されるかもしれない。いくらかつては親しかったとしても。
ルシナと向き合うのが怖い。変わってしまったルシナを正面から見つめるのが。
レイハの剣をぎゅっと握り締める。
(レイハ……力を貸して)
ルシナを止める力を。彼を助ける力を。
月明かりが差しこむ部屋の中――リリィの背後に月光ではない光が出現した。
「!」
それに気付き、リリィはばっと後ろを振り向いた。
リリィから少し離れた場所に、白い光がゆらゆらと揺れている。速まる鼓動を落ち着けて、リリィは剣を抜いた。
白い光は段々と大きくなり、人の形をとっていく。
(まさか……聖霊!?)
聖霊は下界には干渉しないはずでは――。
しかしその光の正体は驚くべきものだった。
光がはっきりと輪郭をとり、その姿を現す。
リリィは構えていた剣を落としそうになってしまった。
「ル……シナ……」
* * *
漆黒の髪。深紅の瞳。こちらを見つめるその美貌の青年は、間違いなくルシナだった。
リリィは絶句して彼を見る。
「ルシナ――!?」
ルシナの体は光を帯びていた。短い髪や服の裾がふわふわと浮き上がっている。
その姿にリリィはかすかな違和感を覚えた。
確かにルシナそのものだった。しかし、何かが違う。その感覚は以前、ルシナに変身したネオスに感じたものと似ていた。
「まさか、ネオスなの……!?」
ルシナは答えない。言葉を何も発さず、ただリリィを見ているだけだった。
リリィは剣を収め、ルシナに近付く。
静かな空間の中、心臓の鼓動だけが響いているようだ。震える手で、ルシナの光をまとう体に触れようとする。
「ルシナ……本当に、ルシナなの? どうしてここに……」
するとルシナが初めて動いた。リリィの手を握ったのだ。
まるで冷たさも温かさも感じられない。いや、触れられているという感触でさえも。まさに形ある光そのもののようだ。
光に包まれた彼は、ぼんやりとした深紅の瞳を自らの手に重ねられたリリィのそれを見つめている。
「あなた……一体……」
するとルシナは片手でリリィの前髪をかき分け、縛られたように動けないでいるリリィの額に、そっと口付けた。
確かに触れたはずなのに、その唇の感触も温かさも感じることはできない。
「迷わないで」
消えてしまいそうな、小さく呟く声だった。だが、彼は確かにそう言ったのだ。
「傍にいるから」
「! ルシナ!!」
柔らかな光を帯びるその体を、リリィは強く抱き締めようとした。




