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アナテマ  作者: はるた
第四章
76/124

3 風雲急を告げる使者




 翼人族の使者は、族長の家へ招き入れられて、並んで座るリリィたち四人とライザの間に座った。

 背中から生える大きな白い翼。その名の通り翼が生えた種族なのだ。

 その使者はリリィと同じくらいの年齢に見える少女だった。短い黒髪は乱れに乱れ、汗だくで体中に汚れが付いている。


「ミトと申します」


 床に両手を付いてお辞儀をする。


「ミトとやら、早速本題を話してもらえるか」

「はい」


 翼人族と水人族の宝玉が奪われた――それを伝えるために、彼女は休まずその翼を使って竜人族の里へ飛んできたのだ。

 水人族の宝玉が奪われたのは翼人族よりも前ということだった。水人はその名の通り、水場に生きる種族だ。水からあまり離れることができないので、比較的近くに集落を築いており、飛行によって他種族より速い移動ができる翼人族に伝令を依頼したという。

 残る宝玉を所有する獣人族の里へは、別の翼人の使者が向かったらしい。


 ミトはぎゅっと拳を握り締めた。


「我が里の宝玉が奪われたのは、三日ほど前のことです。何者かが宝玉を保管している聖殿に侵入し、宝玉を強奪して逃亡しました。……聖殿の警備をしていた者は全員殺害されたのですが、その死に方が妙なのです」

「妙、とは?」

「五人全て、黒い灰になっていたのです。衣服と所持していた物が残り、体だけが燃されたかのように」


 そんな真似がただのヒトにできるはずがない。間違いなく力を使ったのだ。


「それに、聖殿の中へ入れるのは門番たちが守る扉しかありません。窓も壁も破損していませんでしたし、何よりそんなことをすれば誰かに見咎められないはずがない。聖殿の内部へ突然出現したとしか考えられません」


 聖霊の力なら、それは可能だった。

 やはり、ルシナは本当に聖霊を滅ぼす気だ。リリィの心の中に暗い影が落とされる。

 どこかで信じていない自分がいた。かすかな期待を抱いている自分が。

 しかしこうして現実に、ルシナは宝玉を奪った。容赦なく邪魔を排除して――。


「その姿を見た者は誰もいなかったのか?」

「はい。事件に気付いた時には、既に逃亡した後でしたから……」

「リュカ。魔戦士の仕業に間違いないか?」


 魔戦士という言葉を聞いたミトが驚いてリュカを見た。


「確実に。ルシナは聖霊と同様の力を有しています。聖殿の内部へ空間移動して見張りを灰にする、というのも彼ならば難しくないでしょう」

「理由は何だ? ルシナは暗黒戦争でエーゼスガルダを救ったのだぞ。それが、今になって……」

「叔父上もご存知でしょう。ルシナは以前、聖霊の一人を殺した」

「…………」

「それによって聖霊族から追われる身となったのです。安寧を得るために、聖霊族を滅ぼすつもりなのでしょう」


 ルシナが望むのは平穏に生きること。自身の生を干渉する者を排除することだ。


「ルシナがここへ来るのは時間の問題です。聖殿の警備を強化するべきでしょう」

「うむ。――ミトよ。遠い地からご苦労だったな。疲れた体を休めるが良い」

「……はい。ありがとうございます」


 竜人たちに連れられて、ミトはふらつきながらその場を後にした。ミトの疲労は身体的なものだけではないようだった。


 遅かれ早かれ、ルシナはここへやって来る。宝玉を奪うために。

 リリィは腰の剣をぎゅっと握った。


「族長」

「何だ?」

「あたしも、聖殿の警備に参加させてください」


 ライザは一瞬眼を見開いたが、すぐに厳しい顔つきになった。


「ならん。里の者以外を聖殿の中に入れるわけにはいかん」

「足手まといにはなりません。必ず、ルシナを止めてみせます」

「――お主はルシナとどのような関係がある?」

「以前、ルシナに助けられたことがあります。今度は、あたしが彼を助けたいんです」

「助ける? ルシナを逃がす気か」

「いいえ。ルシナは苦しんでいるんです。聖霊との戦いは、彼の命を削ることになる。ルシナを止めて、彼の苦しみを解放させたい」

「お主に何ができるというのだ」


 リリィは立ち上がり腰の剣を抜いた。その場が殺気立つ。


「何をする気だ!」


 ライザの護衛が立ち上がり、持っていた剣の切っ先をリリィに向けた。

 リリィは自分に向けられた敵意に臆することなく、レイハの剣を両手で持つ。


「これはレイハという聖霊から賜ったものです。この剣があれば、あたしは聖霊と同様の力を扱うことができる。ルシナの力に対抗することだってできます」


 レイハは、この剣の力でルシナへ対抗しようなどとは思ってはいけないと言った。しかし、こうでもしないとライザの理解を得ることができない。


「それが本当に聖霊の剣ならば、それだけを渡せ」

「これはあたしにしか扱うことができません。持って頂ければわかります」


 リリィは剣を床に置いた。

 ライザが合図をし、部下の一人がその剣に手を伸ばす。


「!」


 彼の手が柄に触れようとした時、バチンと音を立てて見えない何かがその手を弾いた。もう一度試したが、同じことだった。

 リリィが再び剣を持つ。レイハの剣は、彼女の手を拒否することはしなかった。


「……確かに、そのようだ」

「――お願いします。必ず、役に立ちます」

「覚悟はあるのか? ルシナと親しい仲だったのなら、彼と戦うことは辛かろう。それに、死ぬかもしれんのだぞ」

「死の覚悟はしています。けれど、死ぬ気はありません。必ず生きて、ルシナを助けます」


 しばらく二人の視線がぶつかり合った。が、強い決意の籠る青い瞳に負けたのか、やがてライザが首を振ってため息をついた。


「仕方あるまい。ただし、妙な真似をしたら命はないと思え」

「ありがとうございます」


 リリィは剣を収め、深々と頭を下げた。


   * * *


「不思議な娘だ」


 その夜、ライザとリュカは二人で酒を酌み交わしていた。


「リリエルですか?」

「恐ろしく真っ直ぐな瞳だった。あんな眼を見たのは久しぶりだ」


 ライザは懐かしげに眼を細める。


「お前もレムも、あの眼に心を動かされたのか?」

「我々だけではありません。俺たちをエーゼスガルダへ送ってくれたレイハも……彼女なら、ルシナを止めることができると信じています」

「まるで、深く知る友人を語るようだな」


 そう言ってライザは笑った。


「昔は魔戦士に憧れる少年だったお前が……ルシナとは親しかったのか?」


 リュカは苦笑する。


「運命とは……不思議なものです」

「お前がそんなことを口にする歳になるとは、時が経つのは速いものだ」

「俺もいつまでも子供ではありませんよ」

「兄上が立派に成長した今のお前を見たら、さぞ喜ばれるだろうな」

「族長としての役目を立派に果たされている叔父上の姿を見たら、涙を流して喜ぶでしょう」


 リュカは窓の外の夜空を見上げた。満月が白い光を振りまき、星々が煌めいている。


「兄上が守り通した宝玉を、私の代で奪われるわけにはいかん」


 ライザの表情は厳しいものになっている。


「ええ。必ず守りましょう」

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