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アナテマ  作者: はるた
第三章
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4 レイハとルシナ(1)




 ロザリア邸を出てからおよそ一週間後、リリィたちはレイハの住むという場所まで辿り着いた。


「本当にこんな所にレイハが住んでるのかよ?」

「お前は黙っていろ」


 街から離れた森の中、そこにレイハの家があった。家と言っても非常に簡素な造りで、小屋と言った方が正しいだろうか。見付けようと思わなければ見つからないような場所にあり、しかも誰かが住んでいるのかさえ疑わしい。

 レイハは人目を避けて暮らしているというのだから、こちらの方が都合が良いのだろう。


 ヴィンセントはどうしているだろう。やはり、勝手に家を出てしまったことがリリィの心に引っ掛かっていた。以前のように父の追手には出会わなかったが、置手紙一通で納得しているわけがない。どうしても不安は拭い去れなかった。


 考え込んでいるリリィをよそに、セスは早くも家の扉を叩こうとしている。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「何?」

「まだ心の準備が……」

「そんなのなくていいよ」


 冷淡にセスは言い放ち、扉を叩いた。

 レイハ――ルシナを育てた聖霊。彼の全てを知る存在……

 リリィは高鳴る鼓動を抑えられなかった。

 しばらくして、扉の鍵ががちゃりと開き、ゆっくりと扉が開いた。


「やあ、久しぶり――でもないか」


 セスのすぐ後ろにいたリリィは息を呑んだ。

 扉を開き顔を出した人物は、十二、三歳程度の少年だったからである。


(これがレイハ……)


 聖霊が見た目通りの年齢ではないということはわかっていたが、それでも驚きは隠せなかった。

 一見するとどこにでもいそうな普通の少年だったが、琥珀色の瞳は深い知性を帯び、長い年月を経た落ち着きがある。

 レイハは怪訝そうに眼を細めてセスを見、後ろにいるリリィたち三人を順番に眺めた。


「セス? ……何の用だ」

「ちょっと頼みごとがあってね。入れてくれない?」

「帰れ」


 ぴしゃりとレイハは答えた。セスは苦笑し、レイハがドアを閉めるより先にドアノブをがっしりと掴む。


「冷たいなあ。もうちょっと考えてくれたっていいじゃん。話だけでも聞いてよ」

「私の力を当てにしているのなら無駄だ。もう力を使うつもりはない」


 取りつく島もない。少年の声にはわずかな感情の揺れさえない。

 このままでは暗黒大陸に行けなくなってしまう――。


「待ってください!」


 リリィは思わず叫んでいた。レイハはリリィに視線を移す。


「お願いです、話を聞いてください」

「……君は?」

「リリエル・ロザリア。数ヶ月前ルシナに会って、それから彼にはとてもお世話になりました」

「…………」

「ルシナは……聖霊族を滅ぼすつもりです。もう行動に移しているかもしれない。彼を助けるために、あなたの力を借りたいんです!」

「助ける?」


 少年の口から発せられるとは思えないほど、低く冷たい響きの声だった。


「君に何ができる?」

「わかりません……でも、彼を止めたいんです。このままじゃ多くの人が死ぬ。ルシナも、聖霊に……あなただって、ルシナを助けたいでしょう?」

「やめた方がいい。君にできることは何一つない。私にも……」


 その時初めてレイハの琥珀の瞳が揺れたが、彼の発した言葉にしか意識を向かわせていなかったリリィは、それに気付くことはなかった。

 そんなリリィの心の中を段々と染めて行ったのは、湧き上がる怒りであった。


 全てを諦めたようなレイハの言葉。どうしてそれほどまでに決め付けているのか――。


「何でそんなことが言えるの!? 諦めて、逃げてるだけじゃない!」


 鋭いリリィの声に、レイハはじっと彼女の眼を見据えきっぱりと言い切った。


「そうだ。私は逃げているのだ。私が向き合っても、どうにもならない問題だということはとうの昔にわかっている」

「……あなたができなくても、あたしにならできるかもしれない」

「……どうしてそう言える?」

「それは……」


 どうしても、ここで退くわけにはいかない。何が何でもレイハを納得させなければ――。


 レイハは小さくため息をついて、半分も開けていなかった扉を大きく開いた。


「……入れ」

「!」

「それほど自信があるのなら、話だけは聞こう」


   * * * 


 家の中に部屋は一室しかなく、その部屋には家具もあまり置かれておらずまるで生活感が無い。ただ、あちこちに本が山積みになっていて、それだけがこの家の住人の存在を表していた。


「椅子は人数分無いから、適当にその辺に座りなさい」


 言われた通り、本の山を押しのけて四人は床に座った。レイハただ一人だけが、唯一の椅子に腰かける。


「あんたは椅子に座るわけ?」


 不満気にセスが言う。するとレイハは当然のように答えた。


「この家の主が椅子に座って何が悪い」

「普通は客が座るんじゃないの?」

「君たちは客ではない。侵入者だ」

「自分で入れたくせに……」


 ぶつぶつ呟くセスを、レイハはじろりと睨む。見た目は少年のはずなのに、凄まじい迫力である。


「文句があるなら直ちに帰ってもらおう」

「セス! ちょっと黙っててよ! ごめんなさい、レイハ。大人しくしますから」


 ここまで来たのに、帰されるわけにはいかない。


「まず、疑問があるのですが」


 リュカが言う。


「あなたはルシナの育ての親らしいが、アル・カミアを出た理由は一体? ルシナも以前はアル・カミアで暮らしていたのですか?」


 琥珀の瞳が陰を帯びる。レイハは小さく息を吐いた。


「……最初から話そう」 

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