33 決意(2)
「本当に、良かったのか?」
夜明けの空の下、レムが不安そうに尋ねる。
リリィは頷いた。
「うん」
そろそろ使用人たちが起き始める頃である。誰にも気付かれないようリリィたち四人は、部屋の窓から屋外へ出たのだった。荷物も身動きしやすいように必要最低限にしてある。
暗黒大陸に行くことは家の誰にも言っていない。言ったところで認めてもらえるはずはないし、最初からそのつもりだった。
部屋の机に家族へ宛てた手紙だけ置いて来たのだ。到底それだけで納得してもらえるとは思っていないが、その方法しかなかった。
(父さん、兄さん……我儘で勝手なあたしでごめんなさい。でも、このままセルドナで大人しくしていたら、絶対に後悔する。必ず、生きて帰って来ます)
二度と帰って来れないかもしれない。
そうすればヴィンセントやヘルムートはどこにもいないリリィを探し、失意のまま生涯を送ることになる。そんなことはさせない。それは決意だったが、簡単に果たせないということもわかっていた。
「ここからレイハがいる場所までは、大体一週間くらいかな。まあ、行ったところで協力してもらえるとは限らないけど」
「話が違うじゃねえかよ」
「確実な方法だと言った覚えはないよ。でもこの方法しかないだろう?」
レムは押し黙った。
セスは後ろを歩いているリリィを振り返った。
「レイハが協力してくれるかどうかは、君次第だよ」
「……ねえ、セス」
「何?」
「さっき言ってた、レイハが一族を離れた事件って一体何?」
それはルシナに関係したことなのだろうか。
セスは少し間を置いてから、
「レイハに聞いたら?」
と言った。
「育ての親って言ったわよね。どうして聖霊がルシナを育てたの? 本当の親は?」
「『かれがどこから来たか、誰もしらない』――」
セスは呟くように詩の一節を口にした。
「そう詩に語り継がれている。魔戦士がどこから来たのか誰も知らないんだよ。聖霊族でもね」
「…………」
「それと、言っておくけどね。記憶を取り戻したルシナが、君の知る彼と同じだなんて思わない方がいいよ。邪魔をする奴は容赦なく殺すだろう。たとえそれが君でもね。それが魔戦士と呼ばれたあの人の本質なんだ」
「待てよ」
レムが口を出す。
「リリィを助けるために力を取り戻したのに、せっかくリスクを負って助けたリリィを殺すっていうのか?」
「そうさ。言っただろ? 以前のルシナと今のルシナを同じだと思わない方がいい。それに、リリィがルシナの中で大切な存在のままだったら、余計にね」
レムは釈然としない様子だったが、リュカに視線で制されてそれ以上は追及しなかった。
そのまま四人は黙ったまま歩き続けた。朝早いということもあって、道路に人はほとんどいない。
「あたしはルシナを信じてる」
不意にリリィは口にした。
「ルシナが闇の中にいるなら……助け出してみせる」
セスもちらりとリリィに視線を遣るだけで、何も言わなかった。
闇の中にいたリリィの意識を呼び戻したのはルシナだった。あの優しい光は……
ルシナのために何ができるか、まだわからない。しかし聖霊を滅ぼさせるつもりも、聖霊たちにルシナを捕まえさせる気もない。
再びルシナの力を失わせる方法があれば……
そうすれば、聖霊たちの穏健派はルシナを追うことはしないだろう。ネオスは囚われているし、彼を始めとする過激派たちも、仲間の意見をないがしろにはできまい。
まずはレイハに会わなければ始まらない。
リリィは前を向いた。




