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アナテマ  作者: はるた
第二章
64/124

33 決意(2)




「本当に、良かったのか?」


 夜明けの空の下、レムが不安そうに尋ねる。

 リリィは頷いた。


「うん」


 そろそろ使用人たちが起き始める頃である。誰にも気付かれないようリリィたち四人は、部屋の窓から屋外へ出たのだった。荷物も身動きしやすいように必要最低限にしてある。

 暗黒大陸に行くことは家の誰にも言っていない。言ったところで認めてもらえるはずはないし、最初からそのつもりだった。

 部屋の机に家族へ宛てた手紙だけ置いて来たのだ。到底それだけで納得してもらえるとは思っていないが、その方法しかなかった。


(父さん、兄さん……我儘で勝手なあたしでごめんなさい。でも、このままセルドナで大人しくしていたら、絶対に後悔する。必ず、生きて帰って来ます)


 二度と帰って来れないかもしれない。

 そうすればヴィンセントやヘルムートはどこにもいないリリィを探し、失意のまま生涯を送ることになる。そんなことはさせない。それは決意だったが、簡単に果たせないということもわかっていた。


「ここからレイハがいる場所までは、大体一週間くらいかな。まあ、行ったところで協力してもらえるとは限らないけど」

「話が違うじゃねえかよ」

「確実な方法だと言った覚えはないよ。でもこの方法しかないだろう?」


 レムは押し黙った。

 セスは後ろを歩いているリリィを振り返った。


「レイハが協力してくれるかどうかは、君次第だよ」

「……ねえ、セス」

「何?」

「さっき言ってた、レイハが一族を離れた事件って一体何?」


 それはルシナに関係したことなのだろうか。

 セスは少し間を置いてから、


「レイハに聞いたら?」


 と言った。


「育ての親って言ったわよね。どうして聖霊がルシナを育てたの? 本当の親は?」

「『かれがどこから来たか、誰もしらない』――」


 セスは呟くように詩の一節を口にした。


「そう詩に語り継がれている。魔戦士がどこから来たのか誰も知らないんだよ。聖霊族でもね」

「…………」

「それと、言っておくけどね。記憶を取り戻したルシナが、君の知る彼と同じだなんて思わない方がいいよ。邪魔をする奴は容赦なく殺すだろう。たとえそれが君でもね。それが魔戦士と呼ばれたあの人の本質なんだ」

「待てよ」


 レムが口を出す。


「リリィを助けるために力を取り戻したのに、せっかくリスクを負って助けたリリィを殺すっていうのか?」

「そうさ。言っただろ? 以前のルシナと今のルシナを同じだと思わない方がいい。それに、リリィがルシナの中で大切な存在のままだったら、余計にね」


 レムは釈然としない様子だったが、リュカに視線で制されてそれ以上は追及しなかった。


 そのまま四人は黙ったまま歩き続けた。朝早いということもあって、道路に人はほとんどいない。


「あたしはルシナを信じてる」


 不意にリリィは口にした。


「ルシナが闇の中にいるなら……助け出してみせる」


 セスもちらりとリリィに視線を遣るだけで、何も言わなかった。


 闇の中にいたリリィの意識を呼び戻したのはルシナだった。あの優しい光は……


 ルシナのために何ができるか、まだわからない。しかし聖霊を滅ぼさせるつもりも、聖霊たちにルシナを捕まえさせる気もない。

 再びルシナの力を失わせる方法があれば……

 そうすれば、聖霊たちの穏健派はルシナを追うことはしないだろう。ネオスは囚われているし、彼を始めとする過激派たちも、仲間の意見をないがしろにはできまい。


 まずはレイハに会わなければ始まらない。

 リリィは前を向いた。

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