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アナテマ  作者: はるた
第二章
39/124

8 依頼(2)



 リリィがレムとリュカにルシナの捜索を依頼してから二日後、二人はロルカの街に辿り着いていた。

 ロルカは大きくはないが、それなりに賑わっている街だ。


「ったく、お前も人がいいよな。無償で人助けなんてよ」


 二日経った今でも、レムは未だに文句を言っている。


「たまには悪くないさ」

「けど、意外だったぜ。お前はもう魔戦士になんて関わりたくねえんだと思ってたからな」

「そう思っていたがな……彼らに関わるのも、少し面白いような気がしたのだ」


 レムは眼を丸くした。


「……熱あんのか?」

「至って元気だ」

「らしくねえな。お前がそんなこと言うなんてよ」


 リュカは少し笑ったが、答えない。


 酒場『ベロニカ』は割とすぐに見つかった。

 地元の住民に聞き込みをしたところ、多くの料亭や娼館が立ち並ぶ花町にあるのではないかという情報があったのだ。


 言われた通りに言ってみると、そこはあった。


 ベロニカの入口の前に立ったレムは、顔をしかめた。


「よお、リュカ。ここは酒場と言っても……」

「女を侍らせて楽しむ酒場──だな」

「……こんな所にあいつが出入りしてるってリリエルが知ったら……」


 リリィのことなど知ったことではないとレムは思っていたが、首を長くして待っている少女の姿を想像すると、少し気の毒になってきた。


「入るぞ」


 リュカは躊躇いなく店の中へ入っていく。


 非常に濃い酒と香水の匂いが鼻に突き刺さって、レムは思わず鼻をつまんだ。


「いらっしゃい」


 気怠そうな甘い声が二人を迎える。


 店内は多くの客で賑わっており、全てが男性客だ。その横には大胆に肌を露出した服を着ている女たちがくっついて酒を注いだり、話相手になったりしている。

 自分から男らしく振る舞っているレムだが、さすがにこんな所に入る勇気はない。


(ていうか、女といちゃいちゃして楽しむ趣味もねーよ!)

「あら、亜人のお客さん? どうぞ、入って」


 リュカたちを迎えた店員の女は、リュカとレムの腕を引いて中へ連れて行こうとする。


「すまないが、俺たちは客ではない。聞きたいことがあるのだが」

「そんなこと言わないで、一杯くらい飲んでってよ」


 女はリュカの腕に絡みついて、無理矢理席に座らせた。


「あんたも亜人? 珍しい髪の色してるわねえ」

「やだあ、可愛い! 犬の獣人さん?」


 もう一人の店員がレムの耳をいじっている。


「触るなっ! オレは狼だ! しかも男でもねえしっ」

「あははっ、可愛い! もう、サービスしちゃう!」

「おい、リュカ! 助けてくれ!」


 リュカはやれやれとため息をついた。


「ねえお兄さん、何飲む? うちは何でもあるわよ」

「適当に葡萄酒を頼む。――それで、聞きたいんだが」

「なあに?」


 リュカは懐から例の絵を取り出して女に見せた。


「この男に見覚えはないだろうか?」

「あら、この人……」


 女は見覚えがあるようだった。


「割と最近、うちに来たわよ。ものすごくいい男だったからよく覚えてる」

「詳しく聞かせてくれ」

「確か、ビアンカのお客だったかしら。二回くらい来たけど、両方ビアンカが相手してたのよね。奪い合いになってたけど」

「そのビアンカという方は今ここにいるのか?」


 女はレムの耳をいじっているもう一人に声を掛ける。


「ねえ、ミラ。ビアンカって今日店に出てた?」

「今日から明後日まで休みとってるわよ」


 ミラと呼ばれた店員は、リュカが持っている絵を見た。


「ああ、その人! あなた知り合いなの?」

「まあ、そんなものだ」

「その人なら、ビアンカと一緒に暮らしてるみたいよ」


 その言葉に、リュカとレムは凍りついた。

 そんな二人の様子には気付かず、ミラは更に続ける。


「十日くらい前だったかなあ……仕事が終わってビアンカが裏口から出て行った時、その人が待ってて一緒に帰ってたみたいなの」

「そ、それは確かなのか!?」

「間違いないわね。あんなハンサム、見間違えるわけないし」


 リュカとレムは思わず顔を見合わせた。

 あのルシナが、かつては魔戦士と呼ばれ恐れられた男が、こんな店で知り合った女と一緒に暮らしている? とても信じられない。


「それなりに長い間暮らしてるみたいだし……結婚でもするつもりなのかしらね、その人と」

「あ、有り得ん……」


 リュカは喘ぐようにそう呟いていた。

 万が一、それが本当だったとして、どうやってリリィに言えばいいのだ。

 ルシナを見付けたとしても、女と暮らしていてしかも結婚を考えているかもしれないなんて――。


「お、おいリュカ! どうするんだよ」

「どうするも何も……まず奴を探し出さないことには何も始まらんだろう」

「そ、そうは言ってもよ……どうするんだよ。結婚するからリリエルには会えねえとか言い出したら!」

「け、けっこん……」

「そうだよっ! 何て言えばいいんだよ」


 慌てふためいている二人にミラは、


「まあ、結婚はどうかわかんないけどね。とにかく一緒に暮らしてるのは確かみたいよ」

「あんたたち、もしかして浮気調査員とか? まあ、苦労が絶えないだろうねえ、あんな顔の男がいたら。いくらでも女は寄って来るだろうし」


 女たちは高らかに笑っている。


「と、とにかく……そのビアンカ殿の住所を教えて頂けるだろうか?」

「いいけど……」


 女はにやりと笑った。


「いっぱい飲んで行ってくれたら、教えてあげる」


 こうしてレムとリュカは明け方まで飲み明かすことになってしまったのだ。

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