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アナテマ  作者: はるた
第四章
124/124

エピローグ 再生

 聖地の空は、常に青い。

 下界のそれとは違う太陽が常に天空の中心に浮かび、白い雲がふわふわと漂っている。

 外であっても、下界とは違う。完璧に管理された世界。


「本物の空も、こんなんなのかなあ」


 草の上に仰向けで寝転び、ぼそりと呟いた。

 下界の空は時間によって色を変えるという。青、赤みを帯びた橙、薄い黒――。

 夜空というのは見たことがある。というのも、普段過ごしている部屋の天井がそれを模しているからだ。青みがかった黒、それを埋め尽くす星という光の粒。見慣れたものであるが、美しかった。


 許可を得れば宮殿の外に出ることができるので、頻繁にこうして青空を見に来ている。

 夜空も好きだが、青空を見ていると不思議と懐かしさのようなものを覚えるのだ。心が安らぐような、そんな気分だった。


「ここにいたのですか、セルム」


 柔らかい声がかかる。

 すぐ傍に来てセルムを見下ろす女性の顔は、優しい笑みを湛えている。


「君は本当に空が好きですね」

「うん」


 シャナンは腰を下ろし、セルムと同じように空を見上げた。


「懐かしいんだ」


 セルムの深紅の眼がゆっくりと瞬く。


「……見たいなあ」


 そう呟く彼の、白に近い銀色の髪をシャナンは優しく撫でた。


「下界の空……いつか見たい。シャナン、行ってもいい?」

「今はまだだめ。君がもっと大きくなったら、ヴェルディカに訊いてみましょう」


 少年は嬉しそうに頷いた。

 立ち上がり、背伸びをする。


「会いたい、なあ」


 誰に、とはシャナンは訊かない。シャナンにはわかっていた。

 セルムが生まれる原因ともなったアル・カミアでの一件。その時聖地を訪れた、彼ら。あれから過ぎた時間はまだわずかだ。

 自分の命の元となった二人の記憶を、セルムがどれだけ受け継いでいるのかはわからない。『前世』での詳細な体験を話したことはないが、時折その時のことを覚えていなければ知り得ないようなことを、セルムは口にする。


 そして、重なる。眼が、表情が、仕草が――。

 

 恐らく彼らがセルムを見ても、そう思うだろう。あの魔人の少年と重ねて。


「……会えますよ。約束しましたから」


 シャナンも、見て欲しかった。

 今のセルムの姿を。力強く生きているこの命を。


 セルムは頷き、青い空を見ている。

 どこまでも続くような澄んだ青が、鮮やかな瞳に映っていた。

これにて、アナテマは完結となります。

ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!

活動報告に後書き(という名のただの反省文)を載せているので、よろしければご覧ください。

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