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アナテマ  作者: はるた
第四章
103/124

30 再び、そして……(2)

 鉛のような瞼を持ち上げると、酷くぼやけた景色が映った。

 何度か瞬きをし、ようやく視界がはっきりとしてくる。


(天井……家の中か)


 大きく息を吸うと、懐かしい匂いが鼻孔をくすぐった。


「……起きたか」


 安堵したような声。これだけは、昔から変わらない。自分の声より高く少年らしいものになったのは、いつからだろう?


「体の調子はどうだ?」


 ゆっくりと拳を握ってみた。四肢に重さが残るが、どうやら体に不自由はないらしい。不思議と体の奥底はすっきりとしてさえいた。


「……ここ最近では、間違いなく一番いい」


 頭を内側から叩いていたような頭痛は消え失せ、意識もはっきりしている。

 どうせなら記憶ごと消えてしまっていれば良かったのに。しかしその願いは叶わなかったようだ。


「ついさっきまで死にかかっていた」

「……よく覚えてない」


 体を起こそうとしたが、おかしいほど力が入らなかった。

 ルシナは諦めてしばらく体を横たえていることにした。


 首だけ動かして、ベッドの傍らに座っている少年を見る。

 初めて会った時は、明らかに自分より年上の容姿だった少年。見た目の変わらない彼を、いつの間にか追い抜いていた。


「……あの子……」


 そう言った声はかすれていた。


「俺の他にもいたはずだ。あの子は……?」

「……無事だよ。今は外に出てる。後の二人も、眠っているだけだ」


 それを聞くと、なぜか自然と息が零れた。ずっと胸につかえていた不安事が取れたように。


「……会わないつもりか」


 レイハの言葉に、ルシナはしばらく黙っていた。

 が、やがて小さく声を吐き出す。


「今更……どんな話をしろって言うんだ。俺は……あの子の傍にいない方が良い」


 レイハは何も言わなかった。

 手元の閉じられた本の表紙に視線を漂わせている。その唇は、かすかに震えているようだった。


「……いいのか。それで、本当に」


 今度はルシナが黙る。

 レイハの声は小さく、掠れていた。


 レイハは苦渋に満ちた眼を上げて、無表情のまま横たわるルシナを見た。

 その視線は真っ直ぐにルシナを見ることは、できていなかった。真実から眼を逸らそうとしているかのように。現実を嘘だと認めたい――そう思っているようでもある。


「もしお前が望むなら――リリィを連れて、二人でどこか遠くへ隠れて暮らすこともできる。あの子はお前と生きる道を選ぶだろう。セルドナでなくとも、暮らせる場所はいくらでもある。私が協力して、お前たちの身を聖霊族から隠す。そして彼らに簡単に見つからないような場所で――」

「ネオスから逃れられる場所なんて、この世のどこにもない」

「……エーゼスガルダから遠く離れれば、ネオスもそう自由に行動はできない。不干渉の掟を守らざるを得ないだろう。万が一ネオスがお前を捜しに来たとしても、私が必ず阻止する。今度こそ――守ってみせる」


 ルシナの視線はぼんやりと宙を彷徨っている。


「私は……お前の願いを叶えたい。幸せに過ごして欲しいんだ。残された時間を――」


 少年の唇が何か言葉を紡ごうとして止まる。

 しばしの沈黙の後、レイハは一つ呼吸をしてから、


「さっき、お前の体に触れた時……わかった」

「…………」

「……わかっているんだろう」


 ルシナは何も言わない。ただその表情、眼の光は現実を受け入れた者のそれだった。

 

「お前はもう――」

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