子供が語る昔語り8
「よくも我が住処を荒らしてくれたな、人間ども」
目に焼けつくような鮮烈な赤の着物に顔を覆うように垂らした薄布をかけた若い娘が銅鑼を手に練り歩く男達を見下ろす。
前触れも無く山頂に現れた娘に人だかりが足を止めた。
「よくもおめおめとここまでやって来れたものだ」
風にあおられ、娘の髪は生き物のように蠢く。
その姿に年かさの男達が顔色を変える。
「ふむ、中には覚えている者もおるようだ」
赤く色づけされた唇を片側だけつりあげ、笑う娘の声には蔑みがありありと映し出していた。
「外の世界の時間の流れは随分と早いと見える」
驚愕する老いた集団の中にとりわけ蒼褪めた男に目を合わす。
その男がこの集団の最高齢であるようだった。
「ふん、もう誰が誰か見分けもつかぬ」
河原の小石のように時と言う名の奔流に流されてどれもこれも変わり映えしなくなる様によく似ていると娘は思った。
「それでもそこの者は我に覚えがあるようだ。のう、人間よ」
狙ったかのように突風が男達の間を吹き抜ける。
その風が娘をも煽り、薄布を奪い去っていった。
とっさに前に出した腕を下せば赤と目が合う。
人だかりは二つに分かれていた。
光を浴びて輝く瞳に見入る者、娘の視線から逃げたいとばかりに目を逸らす者。
それだけで、娘には十分だった。
「言うてみよ、人間。我が貴様らの何であるか」
狼狽具合から、後者の者達は山神の真実を知る者だと分かっていた。
「この先には何があるか、何をしたのか」
春は麓から登ってくる。
雪解けは始まり、春は訪れたものの風は冷たく、足場は悪い。
「よもや忘れたとは言うまい」
口を噤んだままの男達に娘は焦れる。
村人の罪悪感など娘の空虚の前では取るに足りないものだった。
揺り椅子が音を立てていた日々を思い出す。
座る主を亡くし、温もりの無くなったそれに寄り添う毎日。
「忘れることなど許さぬ」
その夜に囚われ続けているのが独りになった日から恐怖が影のように付きまとう。
「許しなど認めぬ」
どうして、こんな辛い思いをしなくてはならない。
「私のように一生影に苛まれ、幸福を感じる度、己の罪に恐怖するがいい」
娘は死に際の穏やかな祖父母、母の顔を打ち消す。
犠牲となった者を忘れて、それを当然のように考えて、幸せに生きるなんて許さない。
追い詰めるように一歩足を踏み出す。
「危ない!」
娘の体が傾いだ。