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子供が語る昔語り2

「あなたで二人目よ」

唐突な言葉に男は怪訝そうに娘を見る。

「この冬山に捨てられた人間のこと」

娘が放った言葉に男はうつむき震えていた。

さらに娘は続ける。

「自分の荷物の中身を見て、何も思わないの?」

視線の先の荷は解かれ、質素ながらも男の着ているものより質が良いものだ。

物の価値を知らない娘でも触れた瞬間にさまざまなことが想像できてしまった。

「大半が着物や装飾品で食料になりそうなものなんて入ってなかったわ」

冬山に入る人間の荷物らしいものは何一つとして入れられていなかったのである。

「あなたのことを思いやった形跡が見えないと思わない?」

防寒具など、持っていなかったのだろう。

男の服装からもそれが伺えた。

薄い布を体中に巻いて、少しでも寒さから身を守ろうとしたに違いない。

そんな人間の背負われていたものは女への捧げ物だ。

おそらく頂上を目指していただろう男。そこにあるものはただ一つ。

意味することもただ一つ。

「山神なんて、いないのよ」

そんなこと、麓の村人が一番知っている筈だ。

「だから、生贄なんていらないの」

いくら、美しい着物や宝飾品をもってしても山の実りは増えない。

静かに男は立ち上がり、広げられた荷をまとめ始める。

その仕草はひどく荒々しい。

「誰も、望んじゃいない」

娘はさらに言い募る。

「それじゃ、無駄死にだと思わない?」

男は荷を背に負うと外へと続くドアへと手をかけた。

背中が娘の言葉も現実も拒否しているようだった。

しかし、娘はそれも分かった上で男に悪魔のごとく甘く囁く。

「認めてしまえば?」

男の背を具に観察し、次々に言葉を並べていく。

「村があなたを捨てたんだって」

「あなたを捨てて自分たちは助かろうとしたんだって」

「本当は分かっているのでしょう?」

娘は湯気を立てるカップを両の手で包み込んで、言った。

「認めてしまえばいいじゃない、憎いって」

虚ろな瞳が娘を映したことにほくそ笑む。

「悲しいって、苦しいって、……どうしたらいいか分からないって」

娘は男の隣に立ち、扉を開いた。

「こんな吹雪の中を歩いても山頂なんて分からないわ」

白一色の向こうを見通すように遠くを見つめる。

「それでも、捧げ物を持って行きたいというなら、止めない」

振り返り、娘は男の前に立ちはだかる。

垂れ下がった男の手を拾い上げ、暖かな飲み物を手に持たせ、暖炉の側へと誘う。

男は大した抵抗もせず、なされるがまま、揺り椅子に座らせられていた。

「ちょうど、退屈していたの」

娘は戸惑いもなく板張りの床に腰を落ち着けた。

「おとぎ話でもしましょうよ」

語るのは子供の私だけれども、と娘は揺り椅子の手摺を優しく撫ぜた。


本題に入る前に終わってしまいました。

二部完結の予定が……。

有限無実行で面目ないです。

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