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魔王を復活させた教団の教祖に転生してしまった。  作者: いかめし123
1章魔王を復活させた教団の教祖に転生してしまった。
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教団見学と魔王③

「本日で、ひととおりのご案内は最後になります。学び舎と救護室をご案内します」


教団の拠点に、こんな場所まであるのか。

案外、子供への施設は充実していることに好感を覚えた。


「きょうは、どんなとこ?」

「勉強する場所と、治療する場所だ」

「べんきょう?」

「色んなことを学ぶことだよ」

「アリス、まなびたい」


アリスの声が少しだけ弾んでいて、それに俺も少しほっとした。


最初に案内されたのは学び舎だった。


石造りの広い教室に机と椅子が並び、壁際には本や紙束が整然と並んでいる。

そこだけ切り取れば、ごく普通の学校のようだった。


実際、小さな子供たちは文字の練習をしていた。


「これは『山』。こっちは『川』。では、三回書いてみましょう」


若い信徒が穏やかな声で教えている。

読み書きや計算、簡単な地理や薬草の知識。

その範囲だけ見るなら、特におかしなところはない。


俺は少しだけ肩の力を抜きかけた。


だが、教室の奥では別の授業が行われていた。


年長の子供たちが地図の前に集められ、年配の男が静かな声で話している。


「ここは、かつて我らの民が暮らしていた土地だ」

「王国と女神教は、それを“浄化”の名のもとに奪った」


黒板には女神教の紋章が描かれ、その横に『偽りの正義』『奪還』の文字が並んでいる。


子供たちは真剣な顔でそれを書き留めていた。

怒鳴られているわけじゃない。

むしろ静かだ。静かだからこそ、余計に圧がある。


アリスが俺の袖を引く。


「……みんな、かおがおなじ」

「同じ?」

「おなじこと、ずっとかんがえてるかお」

「……」

「あれ、つかれる」

「……たしかに、疲れそうだな」


内容が嘘か本当か、俺には分からない。

この世界の歴史をまだ何も知らないのだから。

だが、少なくとも今の俺には、幼い子供たちへ「敵」がいることを教え込んでいるように見えた。


教師がこちらに気づき、深く礼をした。


「教祖様。ご覧になりますか」

「……今日は何を教えている」

「歴史です。文字や数だけでは、自分たちがなぜここにいるのか分かりませんから」


その答えに、俺はすぐには返せなかった。


間違っていると断言するだけの知識もない。

だが、気持ち悪さだけは消えない。


前の席にいた小さな男の子が、アリスを見て恐る恐る聞いた。


「まおうさまも、おべんきょうするの?」


教室の空気が少しざわつく。


アリスは俺の後ろに半分隠れながら、小さく答えた。


「……しない」

「なんで?」

「……むずかしそう」

「正直だな」

「きょうそも、できる?」

「……たぶん」

「たぶん?」

「たぶんだ」


その正直すぎる返事に、何人かの子供が小さく笑った。


アリスが俺を見上げる。


「……ここ、きらい」

「そうか」

「……もっと、すきなことまなびたい。ぬいぐるみのつくりかたとか」

「……そうだな」



読み書きも教えている。

普通の勉強もある。

それでも、その全部の下に「敵への憎しみ」や「取り戻すべきもの」が土台に敷かれている。


(これが真実なら、必要な教育なのかもしれない)

(でも、もし違うなら……)


そこまで考えて、俺は首を振る。

まだ断定するな。

分からないうちに決めつけるな。

自分にそう言い聞かせる。


だが、嫌なものは嫌だった。


次に向かったのは救護室だった。


学び舎のざらつきがまだ胸の中に残っていたせいか、扉の前に立った時点でもう気が重い。


そして、その予感は半分当たった。


中から、押し殺したような悲鳴が聞こえてきたのだ。


「っ……あ、ぁあ……!」


アリスがぴたりと足を止める。


「……いたいの、いる」

「ああ」


リーネが何も隠さず扉を開ける。


中には寝台がいくつも並び、薬草や包帯、器具が整然と並べられていた。

見た目だけなら、ちゃんとした治療施設だ。


だが、その中央で行われている処置は、俺の目にはどうしても異様に映った。


セレナが寝台の男の胸に手をかざしている。

男の皮膚の下では黒い筋のようなものが蠢き、セレナの掌から放たれた紫がかった光が、それを無理やり引きずり出しているように見えた。

あまりにも辛そうで、拷問を受けているようにしか見えない。


男は歯を食いしばり、脂汗を流している。


「耐えなさい。もう少しです」


セレナの声は穏やかだ。

穏やかなのに、その光景の中では妙に冷たく聞こえた。


黒いもやのようなものが傷口から抜け、セレナの体に入っていく。


俺は思わず息を呑む。


(……なんだ、あれ)


現代日本の感覚で理解できるものではない。

治療というより、呪いか何かを無理やり剥がしているように見える。


アリスが俺に小声で聞いてきた。


「……あれ、セレナのなかにはいった」

「……見えたのか?」

「うん。へんな味しそう」

「食べ物じゃない」

「……たべてない?」

「たぶん違う」


処置が終わると、男はぐったりと寝台へ沈み込んだ。

だが、さっきまで皮膚の下を走っていた黒い筋は消えている。


そのそばにいた若い女が、泣きそうな顔で何度も頭を下げた。


「ありがとうございました……! 昨日より息がしやすそうで……!」


その反応が、また俺の判断を鈍らせる。


拷問なら、あんな顔はしない。

少なくとも、彼女には本当に助けてもらったように見えた。


セレナがこちらに気づき、血のついた手を布で拭いながら一礼する。


「教祖様。見苦しいところをお見せしました」

「……今のは何をしていた」

「女神教の呪毒を抜いていました。放っておけば肺まで蝕まれていましたので」


呪毒。

その単語だけで、ますます分からなくなる。


別の寝台では包帯を巻かれた少女が眠り、さらに奥では老人に薬湯を飲ませている信徒がいた。

救護室全体を見れば、確かにここは「助けるための場所」なのだろう。


それでも、中心で行われていた術はあまりにも不気味だった。


なぜセレナが黒いもやを吸収しても大丈夫なのか。

女神教がなぜ呪毒などという怪しげな攻撃をしてくるのか。

分からないことばかりだった。


救護室を出たあと、アリスはしばらく黙っていた。


やがて、ぽつりと聞く。


「……きょうそ」

「なんだ」

「ここのひとたち、いいひと?」


一番答えにくい問いだった。


俺は少し考えてから、正直に言う。


「……わからない」

「わからない?」

「助けてるようにも見える。でも、怖い時もある」

「……じゃあ、へんなひと?」

「ああ。たぶん、かなりへんだ」


アリスはそれ以上言わなかった。


俺も、言葉が続かなかった。


学び舎では子供たちへ過去と敵を教えていた。

救護室では、人を助けているように見えるのに、その方法があまりにも異様だった。


善人とも言い切れない。悪人とも切り捨てきれない。

だから余計に、気味が悪かった。


部屋へ戻る途中、アリスが小さく息を吐いた。


「……つかれた」

「俺もだ」


もし誰かがアリスに「あれが敵だ」と教えたら。

今日、学び舎で見たあの子たちみたいに、この子もそれを信じてしまうのだろうか。


そう思った瞬間、背筋が冷えた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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