表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

教団見学と魔王②

昨日は食堂と子供部屋を見た。

今日はその続きだ。


俺はリーネに案内されながら、内心で少し身構えていた。


生活の場を見たことで、教団に対する印象は多少やわらいだ。

だが、会議での空気や、王国・女神教と対立しているという話を考えれば、戦うための設備がないはずもない。


「本日は鍛錬場と集会堂をご案内します」

「……順当だな」

「はい。教団の今を知るには、どちらも外せません」


隣ではアリスが兎のぬいぐるみを抱えたまま歩いている。

昨日もらったあれが、すっかり気に入ったらしい。


「きょうは、こわいとこ?」

「昨日よりは、そうかもしれない」


そういうと、俺の袖をいつもより強く握った。


まず案内されたのは鍛錬場だった。


広い石造りの空間に、木剣や槍、盾が並べられている。

砂を敷いた区画では、何人もの信徒が稽古をしていた。

乾いた打撃音、短い号令、踏み込む足音が絶えず響く。


中央ではガルドが腕を組み、荒っぽい声で指示を飛ばしていた。


「腰が高い! それじゃ一撃で持ってかれるぞ!」

「盾を先に出せ! 斬ることより、生き残ることを考えろ!」


鍛錬場の空気は殺気立っていた。

だが、ただ人を壊すための訓練というより、死なないための動きを叩き込んでいるように見える。


大きな音にアリスはびくっと肩を震わせた。


「……っ」


俺はすぐに彼女の前へ半歩出る。


「大丈夫だ。ただの稽古だ」

「……おと、おおきい」

「そうだな。嫌なら離れて見よう」

「……うん」


少し後ろへ下がった場所から見ていると、ガルドがこちらに気づいて近づいてきた。


「教祖様。見学か」

「ああ」


近くで見ると、やはり威圧感がある。

頬には古い傷が一本走り、短く刈った髪の間から獣の耳が覗いていた。

口元には鋭い犬歯が覗いている。会議の時も迫力はあったが、汗と土にまみれた鍛錬場だと余計に戦場の男に見えた。


「若いのも多いな」


俺がそう言うと、ガルドは鼻を鳴らした。


「鍛えてやらねえとてんで駄目だからな」

「戦わせるためか?」

「生き延びさせるためだ」


即答だった。


ガルドは顎で隅の区画を示す。

そこでは年若い信徒たちが、盾の構え方や転び方を教わっていた。

木剣を振り回しているわけではない。まずは防御と退避の動きだ。


「剣を持てりゃ立派な兵士、なんて甘い話はねえ。逃げる足と、守る腕がなきゃ終わりだ」


言葉は荒いが、理屈は分かる。


アリスが俺の袖を引いた。


「……あのひと、こわい」

「ガルドのことか?」


ガルドはその会話を聞いていたのか、片眉を上げた。


「怖く見えるなら、それでいい。舐められて得することは少ねえ」


乱暴だが、やはりこの男なりの理屈があるらしい。


鍛錬場を後にしたあと、次に案内されたのは集会堂だった。


そこは鍛錬場とはまるで逆の空気だった。

高い石天井の下に長椅子が並び、奥の壁には無数の木札が掛けられている。

小さな灯明がいくつも揺れ、その下には花や石、小さな布切れなどが供えられていた。


「……ここは?」


俺が訊くと、リーネは少しだけ声を落とした。


「亡くなった者たちを悼む場所です」


その答えは静かだったが、重かった。


集会堂の隅では、何人かの信徒が黙って祈っていた。

激しい儀式の気配はない。

ただ静かで、疲れ果てた人間たちの沈黙がある。


そこには子供らしいおもちゃなども混ざっていた。


「子供も……?」


思わず漏れる。


リーネは目を伏せた。


「飢え、病、討伐、襲撃……理由は様々です」


アリスが俺の袖をくいと引いた。


「……きのうのおんなのことかもいなくなっちゃう?」

「……」

「……やだ、いなくなるの」


その言葉に、胸の奥が妙に重くなる。


アリスは兎のぬいぐるみを抱えたまま、おもちゃをじっと見つめていた。

きっと意味を全部は分かっていない。

でも「いなくなった人の場所」だということだけは感じ取っているのだろう。


リーネが静かに言った。


「ここには、祈りに来る者も多いです。怒りや悲しみを抱えたまま眠れない時に」

「……それで、少しは楽になるのか」

「分かりません。ただ、来ないよりはましだと思いたいのです」


俺はその答えに何も返せなかった。


鍛錬場には戦いの準備があった。

集会堂には喪失の痕があった。


片方だけなら、まだ単純に見られる。

だが両方が並ぶと、この教団が「戦いたい集団」なのか、「戦わざるを得なくなった集団」なのか、簡単には決めつけられなくなる。


部屋へ戻る途中、アリスがぽつりと聞いた。


「……きょうそ」

「なんだ」

「きょうそは、いなくならないでね」

「大丈夫だ。俺はどんな時もアリスのそばにいるよ」


アリスはその答えに満足したのか、少し表情を緩めた。


教団のことは、まだ分からない。

でも少なくとも、こいつらの生活の下には、かなり深い傷が埋まっている。

それだけは、今日ではっきりした気がした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


すこしでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけるととても励みになります。




感想なんでも大歓迎です。誤字脱字、矛盾などでも、どしどし送ってください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ