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魔王を復活させた教団の教祖に転生してしまった。  作者: いかめし123
1章魔王を復活させた教団の教祖に転生してしまった。
2/13

状況整理と魔王

こんな場所へ放り込まれて、血まみれの儀式の中心にいて、全員から教祖と呼ばれている。 平常心でいられる方がどうかしている。


それでも、このまま突っ立っていては余計に怪しまれる。


何も知らないことを悟られないために、俺は出来るだけ短く言った。


「……儀式で、だいぶ消耗した。部屋へ戻る」


これなら曖昧だ。 自分が知らないことも誤魔化せる。


すると、すぐ近くにいた若い女性が一歩前に出た。 二十歳前後だろうか。黒いローブ姿だが、他の信徒より動きに無駄がなく、自然と周囲が道を空ける。控えめな雰囲気のせいで目立たなかったが、どうやら一般信者より立場は上らしい。


「かしこまりました、教祖様。こちらへどうぞ」


女性は落ち着いた声で言い、俺とアリスを先導し始めた。


(助かった……)


内心で本気でそう思う。 自分の部屋がどこにあるかすら分かっていないのだから。


歩きながら、女性は嬉しそうに続けた。


「本日は魔王様復活という悲願を成し遂げられ、本当におめでとうございます」 「明日の幹部会まで、どうぞごゆっくりお休みください」


……幹部会?


その単語を聞いた瞬間、冷や汗が額を伝う。


魔王を復活させるような宗教の幹部。

どう考えても、まともな連中であるはずがない。


(やばい……絶対やばいだろ……)


なぜだか、胃のあたりがキリキリと痛む気がした。


案内された部屋は、思ったより広かった。


だが――中はひどい有様だった。


床にも机にも、ベッドの脇にまで、大量の本が散乱している。

整理された様子は一切なく、まるで長年ここに籠もっていたかのようだ。

部屋の外へ出ていこうとする彼女を、俺は慌てて呼び止めそうになった。 でも、何をどう聞けばいいか分からない。


――あなたは誰だ。 ――ここはどこだ。 ――俺は何者だ。


そんなことを正面から聞けば終わりだろう。


俺は喉元まで出かかった言葉を飲み込み、代わりに曖昧に言う。


「明日は……いつも通りでいい。必要な報告だけ簡潔にまとめておけ」


女性は一瞬も怪しまず、深く頷いた。


「承知いたしました」


扉が閉まる。


その瞬間、俺はようやく大きく息を吐いた。


「……っはぁ……」


どっと汗が噴き出す。 膝が抜けそうになり、近くの机に手をついた。


まずするべきことは、情報収集だ。逃げるのは今ではない。

そう結論づけてから、部屋の中を見回す。


アリスは部屋の隅で、まだおとなしく立っていた。 まるで、勝手に動いて怒られないか様子を見ているように。


「……座ってていい」


そう言うと、彼女はこくりと頷き、ベッドの端にちょこんと腰を下ろした。


その様子を横目で見ながら、俺は机の上の紙束を一枚手に取る。


……読める。


見たことのない文字のはずなのに、意味が自然と頭に入ってきた。


「……魔王封印理論……?」


本の内容に目を通し周りを見渡すと、気づいてしまった。


――この部屋にある本のほとんどが、


魔王の封印や復活に関する研究書だということに。


ぞっとした。


執着。

狂気。


それ以外の言葉が思い浮かばない。


(やっぱり危ない組織じゃないか……)


ただ、その一方で、断定するには情報が足りないとも思う。 本当にただの悪の教団なのか、別の事情があるのか、まだ何も分からない。


机の上には走り書きの紙が一枚あった。



『魔王、善悪の区別がつかない可能性大』

その一文を見た瞬間、


それは恐ろしい言葉でもあるし、同時に、まだ何も決まっていないという意味でもある。心が躍った。


(……可能性はある)


善悪が分からない、ということは。

きちんと育てさえすれば、誰にも危害を加えない、

少なくとも“悪ではない”存在になる可能性もあるということだ。


そんなことを考えていると、

またしても、袖を小さな手が引っ張った。


「……さっきは、ありがとう」


魔王――いや、まだただの少女が、遠慮がちに言う。


続けて、少し首を傾げた。


「……名前、なんていうの?」


――え。


そういえば、俺の名前って何だ。


教祖と呼ばれているが、それは役職名だ。

本名を聞かれている可能性は高い。


一瞬で頭をフル回転させる。


ここで適当に名乗って、


そんな名前じゃないことがバレでもしたら終わりだ。


下手をすれば、

中身が別人になっていることがバレる。


そうなれば――

殺される程度じゃ、済まないだろう。


(……その場しのぎしかない)


俺は、できるだけ威厳がある風に答えた。


「教祖と呼べ」


少女はきょとんとする。


俺は続けて言った。


「……そういうお前は?」


少女は少し考え込み、曖昧に答えた。


「私は……アリス……」


「……いい名前じゃないか」

それ以上、何と言えばいいか分からなかった。


ただ、ここでさらに深掘りして聞くのは違う気がした。 彼女も彼女で、何が起きたのか分かっていないのだろう。


「今日は疲れただろう。休め」


部屋にはベッドが二つ並んでいた。 俺は片方をアリスに使わせる。


最初、彼女は遠慮するように俺を見ていたが、座らせると案外すぐに横になった。 よほど疲れていたのか、すぐ規則正しい寝息が聞こえてくる。


俺はその様子を少しの間眺めた。 寝顔は本当にただの子供だ。 これが世界をどうこうする魔王だと言われても、今は実感が湧かない。


自分のことも確認しなければと思い、洗面所へ向かう。


そこで鏡を見て、息が止まった。


映っていたのは、四十歳前後に見える男だった。 肩幅が広く、腕は丸太みたいに太い。目つきは鋭く、睨まれればたいていの人間は一歩引くだろう。


そして何より――


頭の両側から、大きな角が生えていた。


「…………」


しばらく言葉が出ない。


俺は鏡に手を伸ばし、自分の額を触り、そのまま角の根元に触れる。 固い。飾りではない。ちゃんと感覚がある。


「マジかよ……」


小さく呟いた声が、やけに低く響いた。


(人間じゃないのか……?) (いや、教祖っていうくらいだから、ここの連中と同類……?)


どちらにせよ、この見た目では外へ逃げたところで普通に紛れられない。


俺はしばらく鏡の前に立ち尽くしたあと、部屋へ戻った。


眠れる気はしなかった。


扉の鍵をもう一度確認する。 近くに置いてあった燭台を、いざという時の護身用に手の届く位置へ置く。 椅子を扉のそばに寄せ、そこへ腰掛けた。


ベッドに入る気にはなれない。


夜の間に誰かが来るかもしれない。 アリスがうなされて暴れるかもしれない。 朝になったら全部夢だった、という可能性にすがりたい気持ちもある。


だが現実は、冷たい石壁と、自分の角の重みと、向こうのベッドで眠る小さな寝息だった。


俺は何度も角を触り、何度も扉の音に耳を澄まし、何度もアリスの寝息を確認した。


結局その夜、ほとんど眠れなかった。


ただ一つだけ、椅子に座ったまま決めたことがある。


この子を、少なくともすぐには誰かに渡さない。


何が正しいかはまだ分からない。 でも今はそれだけだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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