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魔王を復活させた教団の教祖に転生してしまった。  作者: いかめし123
1章魔王を復活させた教団の教祖に転生してしまった。
15/18

お見舞いと魔王

目を覚ますたび、最初に来るのは痛みだった。


ただ、その痛みは、日を追うごとに少しずつ輪郭を失っていった。

胸の奥にはまだ鈍い重さが残っているし、腕を大きく動かせば、焼けた皮膚の下で傷が引きつる。

それでも、寝台の上で身じろぎするたびに死にそうになるような時期は、もう過ぎていた。


「本当に、すごい治り方です」


包帯を巻き替えながら、セレナが冷ややかに言う。


「褒め言葉か?」

「いいえ。驚いているだけです」


ぴしゃりと言い切ると、彼女は包帯の端をきつく引いた。

鋭い痛みに、思わず息が漏れる。


「傷はかなり塞がっています。ですが、完治ではありません」

「分かってる」

「分かっていません」


セレナは一歩も引かなかった。


「歩けることと、無理をしていいことは別です。いいですか。わかっている人は、勝手に部屋の外に出たりしません。無理はするな――何度言えば覚えるのです」

「……善処する」

「その返事が一番信用できません」


冷たい視線を投げつけると、セレナは盆を持ち上げた。


「今は休みなさい。次に傷を開かせたら、今度はもっと痛い方法で止めます」

「脅しが物騒すぎる」

「脅しではありません」


そう言い残し、彼女は部屋を出ていった。


扉が閉まる音を聞いてから、俺はようやく長く息を吐く。


正直、自分でも驚いていた。

あの炎の中に飛び込み、あれだけ焼かれたのに、こうして起き上がれている。

普通の人間の身体なら、今も寝台から動けなかっただろう。


この身体は、見た目だけじゃなく、中身までどこか人間離れしているらしい。


窓の外を見る。

地下拠点の一室だから、見えるのは狭い換気窓から差し込む薄い光だけだ。

空の色も、風の匂いも、ここにいるとよく分からない。


不意に、扉が遠慮がちにこつりと鳴った。


「……きょうそ」


聞き慣れた小さな声に、顔を上げる。


扉の隙間から覗き込んできたのはアリスだった。

その後ろには、少し困ったように微笑むリーネの姿もある。


黒い髪の隙間から小さな角がのぞき、赤い瞳が不安そうに揺れていた。

あの日以来、アリスは俺の目が覚めている時間を見計らっては、こうして何度も様子を見に来るようになっていた。最初は入口からこちらを見ているだけだったのに、今では自分から中へ入ってくる。


「入ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ」


そう言うと、アリスはほっとしたように肩の力を抜き、部屋へ入ってきた。

その両手には、木の皿が大事そうに抱えられている。


「……おみまい」

「お見舞い?」


アリスはこくりと頷いて、皿を差し出してきた。

上には、少し不揃いに切られた果物と、形の崩れた焼き菓子が載っている。


「これ、おまえが?」

「……きるの、みてた」

「作ったのか」

「リーネが、きった。アリスは、のせた」


後ろにいたリーネが、わずかに口元を緩める。


「厨房の者が、アリス様のお見舞い作りに協力してくれました。アリス様ご自身も、ずっと真剣にお皿へ並べておいででしたよ」

「……がんばった」

「ああ。すごいな」


そう言うと、アリスは少しだけ胸を張った。

本当に小さな変化だが、それでも最初の頃を思えば信じられないくらい自然な仕草だった。


俺は皿を受け取り、机の上に置いた。


「ありがとう」

「くだもの食べたら早く治る?」

「アリスが並べてくれたんだより早く治るよ」


アリスは俺の包帯の巻かれた腕を見て、それから視線を落とした。

全部を理解しているわけではないだろう。だが、自分の力が俺を傷つけたことだけは、ぼんやりとでも覚えているのだ。


「お前のせいだけじゃない」

「でも、アリス、こわくて……」

「知ってる」

「……また、なる?」


あの黄金の炎のことだ。

暗闇、恐怖、孤独。あの時の全部を、この子はまだ引きずっている。


俺は少し考えてから答えた。


「ずっとこのままだったら、また何かの拍子になるかもしれない」

「……」

「でも、怖くないものを増やしていけば、前よりはましになる」


アリスはじっと俺を見つめる。


「……きょうそ、なおる?」

「思ったより治りは早い」

「……じゃあ、もうしなない?」

「アリスをおいては死なない」

「ほんと?」

「ほんとだ」


ようやく、アリスの肩から少しだけ力が抜けた。


その様子を見ていたリーネが、そっと言った。


「教祖様が目を覚まされてから、アリス様はずいぶん落ち着かれました」

「俺が寝てる間はどうだった?」

「……かなり不安定でした」


リーネは声を落とした。


「夜中に何度も起きて、扉の方を見ておられました。誰かが来るたびに、教祖様かどうか確かめていたように思います」

「……そうか」


アリスは気まずそうに俺の袖を握る。


「……いたから、へいき」

「今はな」

「うん」


しばらく、静かな時間が流れた。

アリスは俺の寝台の端にちょこんと座り、俺は受け取った果物を少しずつ口に運ぶ。

リーネはその少し離れた場所に立ち、部屋の空気が乱れないように気を配っている。


不思議と、それは心地よかった。


「……きょうそ」

「なんだ」

「なおったら、なにする?」



その問いに、少しだけ言葉が詰まる。


ここ。

地下の拠点。狭い部屋。石の壁。限られた空。

少なくとも、子供が育つには息苦しすぎる場所だ。


「……そとを見て回るのもいいかもしれないな」

「そと?」

「そうだ」

「……こわい?」

「怖いこともあるかもしれない」

「きれい?」

「海、自然いくらでもきれいなものはある」

「……みたい」


アリスがぽつりと呟いた。


その一言が、妙に胸に残った。


怖いものを減らすには、安心できる経験を増やすしかない。

この子をずっと地下に閉じ込めたまま、本当に落ち着かせられるのか。

その考えが、初めてはっきりした形を取る。


リーネが俺の表情を見て、何かを察したように目を細めた。


だが、その時はまだ、誰も次の展開を口にはしなかった。


ただ、アリスが俺のそばで少しだけ安心した顔をしている。

それだけで、この日のお見舞いは十分すぎるほど意味があった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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