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魔王を復活させた教団の教祖に転生してしまった。  作者: いかめし123
1章魔王を復活させた教団の教祖に転生してしまった。
14/16

双子と勇者の息子


王都東区の大聖堂は、夜明け前から白い光に満ちていた。

磨き上げられた回廊の床を、朝焼けが淡く染めている。


俺――エドワード・ブレイブは、聖堂裏手の広間へ向かいながら、革手袋の指を引き締めた。

魔王は復活した。拠点の正確な場所はまだ掴めていないが、女神教団が感知した異常魔力を追えば、いずれ辿り着く。

今日、そのための遠征が始まる。


「エドワード様、こちらです」


クラリスに導かれ、扉をくぐった瞬間、俺は足を止めた。


「……何のつもりだ」


広間にいたのは、武装した騎士団ではなかった。

十歳から十五歳ほどの子供たちが、整列してこちらを見ていたのだ。

杖を持つ者、短剣を提げた者、薬瓶や祈祷具を抱えた者。誰もが幼い。にもかかわらず、その目だけは妙に慣れきっていた。

こんな子供たちを、争いに巻き込むわけにはいかない。


中央では、二人の子供が木剣を打ち合わせている。


短い琥珀色の髪の少年と、同じ顔立ちの少女。

年は十二、三ほど。だが踏み込みも太刀筋も、見習い騎士よりよほど鋭い。


「遅いな、エドワード!」

「もっと早く来ると思ってたのに」


同時に口を開き、同時に笑う。


クラリスが一歩前へ出た。


「今回の同行者です。双子の兄がライル、妹がライラ。教団戦闘養成院でも特に優秀な二人です」

「優秀っていうか、強い」

「弱い大人よりは役に立つよね」


ライルが肩をすくめ、ライラが木剣を軽く振る。


俺は広間全体を見渡した。

どの顔も若すぎる。


「ふざけるな」

「エドワード様?」

「今回の任務は遠征だぞ。魔王の痕跡を追う以上、戦闘になる。こんな子供を連れていけるか」


空気が張り詰める。

だが、子供たちは視線を逸らさなかった。


「子供だからって舐めんなよ」

「そうだよ。あたしたち、もう戦ったことあるし」


ライラが言い、ライルが笑う。


「魔物二十七体」

「夜盗三人」

「邪教徒も二人」

「数えるな」

「だって面白いし」


冗談みたいな口調に、背筋が冷えた。

強い弱いの話じゃない。そんな年で、それを数えていること自体がおかしい。


「……それでも駄目だ」


その時、広間の奥の扉が静かに開いた。


現れたのは、長い白衣を纏った女だった。

三十代半ばほど。柔らかな亜麻色の髪を流し、穏やかに歩いてくるだけで、広間の空気が彼女へ揃う。


「聖母様」


子供たちが一斉に頭を下げる。


聖母セラフィナ。

女神教団で保護と癒しを司る象徴。その名は俺も知っていた。


「はじめまして、エドワード様」

「……聖母殿」


セラフィナは俺の前で立ち止まり、静かに微笑んだ。


「この子たちの同行に反対なのですね」

「当然だ。相手は魔王だぞ」

「ええ」


あっさり肯定され、逆に言葉が詰まる。


「だからこそ連れていくのです」

「……何?」

「この子たちは皆、魔物や邪教に家族を奪われました。焼かれた村から救い出した子もいます」


セラフィナは子供たちを振り返る。


「この子たちは、守られるだけでは心が死ぬのです」

「だから戦わせるのか?」

「違います」


その声は静かだったが、一歩も引かなかった。


「自分の足で立ち、自分の意思で進むことを許すのです」


広間のあちこちから、小さな頷きが返る。


俺は奥歯を噛みしめた。

子供に選ばせた時点で大人の責任は消えない。そう言い返したいのに、セラフィナの言葉は妙に胸に刺さった。

父を失った十年前の自分を、一瞬だけ思い出したからだ。


それでも、納得はできない。


「連れていって死なせていい理由にはならない」

「死なせません」

「保証がどこにある」

「私とあなたがいれば、問題ありません」


迷いのない断言だった。


根拠のない楽観ではない。

何を捨ててもそうすると決めた人間の顔だ。


「……そんなもの、保証にならん」

「それでも私は連れていきます」


広間が静まり返る。


セラフィナはさらに一歩近づき、低く言った。


「あなたは人類最後の剣。私は女神の祝福を預かる者。私たち二人がいて、この子たち一人守れないというのなら――最初から、この国に未来などなかったのでしょう」


正論ではない。

だが、ここで反発し続けていても埒が明かない。


ライルがにやりと笑う。


「おれたち、あんたが思ってるよりしぶといぞ」

「そうそう。勝手に守る側と守られる側を決めないでよ。もしかしたらエドワードより強いかもよ」




ライラまで同時に笑って舌を出す。

その驕りがより俺を不安にさせた。だが、それ以上に、この場の流れがもう変わらないことが分かってしまった。


俺は長く息を吐いた。


「……分かった」

「ありがとうございます」

「勘違いするな。納得したわけじゃない」


セラフィナは微笑んだまま頷く。


「ええ。それで十分です」

「一つだけ約束しろ」

「何でしょう」

「こいつらを絶対に死なせるな」

「もちろんです」


その答えを、俺はまだ信じきれなかった。


クラリスが声を張る。


「出発準備、完了!」


子供たちが一斉に荷を背負う。

ライルとライラは最後まで小声で言い争い、後ろの年長の少女に頭を小突かれていた。


俺は聖剣の柄を強く握る。


父上。

あなたが守ろうとした世界は、俺が思っていたよりずっと脆く、歪んでいるのかもしれない。

それでも、ここまで来た以上、引き返すつもりはなかった。


「出るぞ」


大聖堂の扉が開く。

先ほどまではいい天気だったのに、気付けば空は雲に覆われていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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感想なんでも大歓迎です。誤字脱字、矛盾などでも、どしどし送ってください!

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