時と場合と状況を考えてくださいね
年内に完成させたいと作った。
「サクヤ。お前との婚約を破棄する!!」
と、わたくしの婚約者であるピロニー殿下が、たくさんの宝石をあしらった煌びやかなドレスに身を包んだ少女の腰を抱きしめながら宣言する。
「お前のような醜い黒髪で地味な女など王になる俺に相応しくない!! 相応しいのはキャロルの様な可憐な顔立ちの女性だ」
「きゃっ。素敵ピロニーさまっ♪」
二人の世界で盛り上がっているが、わたくしが何一言口にしていないから状況が分かっていないのだろうか。
そう、今は餅つき中。ぺったんぺったんと合いの手で折り返している最中、応える余裕などない。
「お嬢さま。この杵で叩きのめしていいでしょうか……」
「餅は素早く搗くのが美味しくなるコツよ。手を休めないの」
餅を搗いているクロウドに注意をして、だいぶ柔らかくなった餅を見て、すぐにベテランの侍女が餅を運ぶお盆を用意して、メイド総出で餅を丸めていく。
「なっ、何をやっているんだ!! 俺の話を聞けっ!!」
そんな状況でようやく自分たちの話を聞いていなかったことに気付いたピロニー殿下が叫ぶ。
「誰か、交代を」
「はいっ」
髪の毛が入らないように頭に巻いてあった三角巾を外し、やっとピロニー殿下と向き合う。
「何用ですか? 殿下。本日は我が家で行う先祖代々の儀式の真っ最中ですが」
「当然知っている!! 父上含め貴族の者達が節目の年だからと参加していると言うこともなっ!! だからこそ現実を思い知らしめようと……」
言いかけた言葉が途切れる。
後ろで杵を構えたクロウドの姿があったからだ。
「クロウド。赤い餅は祝いの席には必要だけど、材料は血ではないから止めなさい」
「はっ」
杵を専用の台に降ろして、クロウドは後ろに控える。
「そうですね。節目の年で、婚約者である殿下に我が家の儀式に参加してほしいと招待状は渡しました。だけど、招待状の内容は確認されなかったのですね」
煌びやかな、外で動くにはやや不自由にしか思えない。ましてや、餅を搗くのに適していない格好の殿下と……確か男爵令嬢のキャロル嬢を見て嘲笑を浮かべる。
「煩いっ!! 儀式と言えば煌びやかな物だろう。なのに、何をして……」
「――まったく、我が国の歴史にここまで疎いとは思わなかったぞ」
呆れたように口を挟むのはやっとお雑煮を食べ終わって落ち着いた陛下。食べている最中に口を開きかけて、餅を食べていると喉がつまり死んでしまうから気を付けて食すという教えが無かったらおそらくそのまま生命の危機だっただろう。
なのでようやく話せるようになったのだ。
「父上……」
「我が国の始まりは、聖女ヤヨイさまが食糧危機を救ってくださったことに始まり、その後ヤヨイさまはサクヤ嬢……ファスト家の当主に嫁がれて、ヤヨイさまと同じ黒髪が生まれる家系になった。この儀式はヤヨイさまが新年の祝いに必要な儀式として、無事もち米が発見されて行なわれるようになった聖なる儀式。そのもち米が見つかって、節目の年なのに……」
陛下は涙を流している。
そう、我が国で食糧危機になった時に稲と米を持っていたヤヨイさまが異世界から転移してきたのが始まり。ヤヨイさまが持っていた米で飢えを満たし、持っていた稲と同じ植物を探して、育てることになったという逸話があった。
その際、ヤヨイさまを巡って男性陣の争いがあったが、それに勝ち抜いたのが我がファスト家の当時の当主だった。
それ以後も我が国に危機が訪れるとファスト家の血を引く者から転生者が生まれ、危機を脱する方法を与えてくれるので、ファスト家の血は引く手あまたなのだ。
とは言っても、危機じゃなくても普通に転生者が生まれているので危機が訪れた時だけ名乗り出ているというのがファスト家だけが知っている真実なのだが。特に黒髪の娘はそのヤヨイさまを彷彿させると言うことで黒髪黒目。この国の住民にしては地味……ゴホン。彫りの浅い顔立ちは特に喜ばれて、わたくしが生まれた時にわたくしを求める家の戦いはすごかったようで、それに勝ち残った陛下からすれば殿下の発言は許せるものではないだろう。
陛下は息子を睨むと、
「王命を無視しての言動も、聖女ヤヨイさまにとって重要な儀式の意味を理解せずに振舞う行い。そして、何よりも地味な顔立ちなどと……、何を学んできたのか」
「で、ですが、こんな女が王妃など……」
「――宝石の価値を知らない愚か者が」
お前にはファスト家の令嬢は勿体なさ過ぎた。
それは完全に息子を見捨てる発言だろう。
「父上っ!! 何をっ!!」
兵士に捕らえられて暴れるから砂ぼこりが立ってしまう。
「餅に砂が入りそうだわ……」
「そうですね。ならば、切り落としましょう」
「クロウド。それは餅を切るための包丁でしょう。人間を切る物ではないわ」
それに、
「鏡餅の準備が遅れるじゃない。一夜飾りは嫌よ」
餅つきに集中しなさいと注意すると、仕方ないとばかりに包丁を降ろす。
まったく。この従兄は前世の影響かすぐに物騒な考えに向かって行ってしまう。
まあ、でも。
「婚約破棄、了承しましたわ」
ファスト家に生まれたのに他の家に嫁ぐのはお断りだったのよね。日本食が好きなだけ食べられる環境が、お祝いの時にしか食べられない他家に嫁ぐメリットもないし。
それに、わたくしの黒髪を。
「こんな烏の濡れ羽色の綺麗な黒髪を醜いなどと……」
と自慢の黒髪を本気で褒めてくれる人がいい。
さてと、餅を食べ終わったら結婚を申し込もう。
わたくしの前世の知識で無事に打つことが出来た刀を見せれば喜んでくれるだろうか。
クロウド=蔵人。
サクヤ=咲夜。
ちなみにクロウドは前世侍。サクヤは刀匠の娘だった。
たぶん、年内最後の作品だと。皆さん良いお年を。




