地球儀の冷たい数字
地球儀が届いた。掌に収まるほどの小さな球体。送り主の欄は空白で、木箱は妙に冷たかった。悪ふざけかと思いながら球を転がすと、表面に薄い光の膜がふっと広がった。
光に触れるたび、世界の輪郭が静かに盛り上がる。声に反応するらしく、試しに「人口」と言ってみると、都市ごとの点が淡く瞬き、数字が粉雪のように降り積もった。「天気」と告げれば雲の流れが浮かび、「幸福度」では街が彩られた。灰色の国が目につく。
これはひどく便利で、ひどく無感情だった。
便利さの中に潜む、生々しいざわつきはすぐに気づいた。光は無垢で、数字は冷静だ。だが、その静けさが逆に胸を締めつける。掌の中の球は、まるで呼吸するようにわずかに振動していた。僕は夢中になって、いろんな数を試した。
──そして僕の好奇心は、余計なところで唇を勝手に動かした。
「核兵器の保有数」
世界は一瞬、黒い静寂に覆われた。次いで、アメリカとロシアの領土上に重く、沈むような点が落ち、長い列を引きずった。その列が、まるで世界を縦に裂いていく刃のように見えた。喉の奥が、氷を流し込まれたように冷たくなる。
そこまで踏み込むつもりなどなかった。
でも“知りたい”という欲望は、喉までせり上がっていた。そこで止めればよかった。なのに口は、どうしようもなく滑った。
「……死者数」
発したはずの声は、耳に届く直前で温度を失い、まるで誰か別の人間が代わりに囁いたようだった。
光は弾けず、ただ沈んだ。数字は落ちるというより、沈んでいく。吸い込まれるような暗さの中で、僕の指先は震えていた。掌の上の地球儀は重く、もう回せなかった。
僕はそっと、それを箱に戻した。木箱の匂いは変わらないのに、胸の内側だけが急に冷たくなっていた。箱を閉じたあとも、指先には微かなしびれが残り、視界の端では小さな数字がちらちらと光っているように感じた。
夜になっても眠れなかった。目を閉じると、都市の上に降る数列が、皮膚を這うように浮かんでくる。冷えた数字が、薄く張り付き、そのまま体温を奪っていく気がした。
世界は、こんな風に測られ、数えられ、どこかで静かに保持されているのだろうか。
それを知った僕自身の「数」も、すでにどこかに刻まれている気がして、怖くてしかたなかった。




