第2章:ようやく評価された者
第2章:ようやく評価された者
「マイラ・キーンはAランク。カイはSランクだ。」
その言葉は、判決のように大理石の広間に響き渡った。
修也・木渕は評価室の端に立ち、背筋を伸ばしたまま、両腕を下ろしていた。
その顔には何の感情も浮かばない——嫉妬も、恐怖も。
ただ、静かな観察だけがあった。
「やっぱりあの兄妹はキーン家の血筋か……最強の三大血統の一つだな。」
彼は眉一つ動かさない。
嘲らず、羨まず。
ただ、淡く光る球体を見つめていた。
石の台座の上に、透き通るような結晶球が浮かぶ。
微かな蒼光を放ち、脈打つように揺らめくその球は、ダンジョン・コアの欠片から作られたと伝えられている——魂の共鳴を〈ARKシステム〉が読み取る神器。
一度触れれば、運命は決まる。
修也は一歩、前へ進む。
背後で群衆がざわめいた。好奇と無関心が入り混じる声。
「Let’s see what I get……」
彼は小さく英語で呟き、指先を球に触れた。
【SYSTEM INTERFACE:ARK SYNC — 起動】
世界が砕けた。
音も、光も消える。
ただ、広がる虚無。
そして——空間が戻る。
彼は無限に続く白い大広間の中に立っていた。
中央には巨大な〈振り子時計〉がそびえ、その振り子は不自然なほどゆっくりと揺れている。
ひとつの「カチリ」が、心臓の鼓動のように深く、重く響いた。
「……A clock?」
修也の声は、静寂に飲まれた。
その時——声が響いた。
耳ではなく、脳の奥に直接刻み込まれるような声。
【スキル付与:〈Replacement〉 Lv.1】
修也は瞬きを一度。動揺も、恐怖もない。
「Replacement……?」
英語で確かめるように口にする。
その響きは、知らないのに懐かしかった。
半透明のウィンドウが、目の前に展開される。
【Skill Info:Replacement Lv.1】
効果:装備品——損傷したもの、呪われたもの、古びたものを新しい形へと置き換える。
置換後の性能(向上・低下・同等)は使用者が選択可能。
注記:スキル進化の可能性あり。〈システム異常〉を検出。
彼は画面を見つめ、目を細めた。
「Eランク……? なのにスキルの等級表示が『???』だと?」
冷静な思考の底で、微かな熱が灯る。
「普通じゃないな。」
ゆっくりと息を吐く。
「……まあいい。力は力だ。」
振り子が止まった。
——時間が動き出す。
【SYSTEM SYNC — 完了】
瞬きの一瞬で、虚無が消えた。
大理石の広間が戻り、光球は静かに輝きを失う。
群衆はまだ動いていなかった。
まるで、彼の評価の間だけ時が止まっていたかのように。
「本当に……起きたんだな。」
そう思いながら、修也は二人の警備員に導かれて台座を離れた。
抵抗も、言い訳もない。
無表情の裏で、思考だけが燃え立っていた。
(このスキルがあるなら……試してみる。
たとえ出来損ないでも、俺が良いものに変えてみせる。)
指先がわずかに動く。
誰にも見えない光のウィンドウが、彼の視界に浮かんでいた。
外では、学院の中庭が喧噪に包まれていた。
ランクの報告。将来の期待。無数の声。
マイラ・キーンは人々の中心に立ち、称賛と羨望を浴びていた。
カイは柱にもたれ、目を閉じたまま退屈そうにしている。
修也はその脇を通り過ぎた。
誰も声をかけない。
誰も気づかない。
だが——オーブは見ていた。
そして、ARKシステムの最深部で。
あの〈振り子時計〉が、再び——
静かに音を刻んだ。




