ダンジョンが現れた日
こんにちは、みなさん! これを読んでくれてありがとうございます。これはこの物語の第1章です。 ウィンドウシステムやダンジョンなど、ファンタジー小説に登場するような要素にとてもインスピレーションを受けて、この作品を作りました。 そういった仕組みがとても面白くて好きなんです。 読んでくれて本当にありがとう。 これからも読んでくれたら嬉しいです!
## 第1章:ダンジョンが現れた日
ダンジョンが現れたその日、世界は「安全」という幻想をやめた。
警告も、説明もなかった。
ただ――それは現れた。現実を裂くようにそびえ立つ、黒曜石の巨大な門が。
その門は、誰にも解析できないエネルギーを脈動させていた。
そして、そこから溢れ出したのは、人類が見たこともない「存在」だった。
肉と骨がねじれた獣。
悪夢がそのまま形を得たような怪物。
政府は崩壊し、都市は落ち、恐怖は怪物よりも早く広がっていった。
――そして、人々は「覚醒」した。
ある者はそれを「進化」と呼び、
ある者は「神の介入」と呼んだ。
理由はどうあれ、人間たちは突如として“力”を手に入れたのだ。
炎、氷、念動、治癒、召喚――常識も物理法則も無視する異能。
世界は、一夜にして変わった。
ダンジョンは次々と出現し、
英雄たちは次々と立ち上がった。
だが、その均衡が保たれることは、一度もなかった。
---
二年後。
韓国という国は、もはや存在しなかった。
そこは「戦場」と化していた。
Sランクのダンジョンが群を成すように現れ、
一つとして安全な場所はない。
州全体が放棄され、生存者は避難。
残った者たちは――もう、いない。
国際社会は韓国を「レッドゾーン」と呼んだ。
飛行禁止。立入禁止。救助もなし。
それでも――一人の少年が逃げ延びた。
---
2026年、日本・渋谷。
冷たい雨が、金属のような匂いを街に落とす。
ネオンの光が水たまりに揺れ、車が水煙を上げて走り抜ける。
無数の傘が、幽霊のように行き交っていた。
その中を、一人の少年が歩いていた。
木淵シュウヤ。十六歳。
日本と韓国のハーフ。
家なし。家族なし。頼れる者なし。
彼は、火の中から逃げてきた。
着の身着のまま――そして、焼け落ちる家族の記憶だけを抱えて。
あの日、家族を飲み込んだダンジョンは、まだ誰にも攻略されていない。
名さえついていない。
ただ現れ、すべてを喰らった。
叫び声。熱。
そして――その後に訪れた静寂を、彼は今でも覚えている。
今、彼は渋谷の街角で生きている。
雨除けの下で眠り、盗めるものを食い、必要なら拳を使う。
だが今日は違った。
今日は――学校に行く日だった。
勉強のためではない。
未来のためでもない。
今日は「評価の日」だからだ。
---
日本では、十六歳になると全員が“スキャン”される。
政府が全国の学校に設置した評価装置――
無機質な音を立て、静かに唸るその機械は、人間の「潜在力」を測るという。
ランク、能力、戦闘適性。
それらを一瞬で判定する。
ある者は即座に覚醒し、
ある者は時間を要し、
そしてごく一部は――最後まで何も得られない。
シュウヤには、自分がどれに当てはまるのか分からなかった。
だが、彼が“望むもの”だけははっきりしていた。
---
雨が弱まるころ、彼は学校の門をくぐった。
服は濡れ、息は白く、足音だけが響く。
通り過ぎる生徒たちは彼を見た。
好奇、嘲笑、嫌悪――いろんな視線が交錯する。
彼は気にも留めなかった。
校舎の前で、上級生のグループが一人の新入生を囲んでいた。
小柄な少年が震え、鞄を盾のように抱えている。
上級生の一人が拳を振り上げた、その瞬間――
シュウヤが踏み出した。
拳を掴み、空中で止める。
「消えろ。」
低く、静かな声。
「俺が本気出す前にな。」
上級生が目を細める。
「誰だ、お前。」
「新入生だよ。」シュウヤは答えた。「そこの奴と同じ。」
「じゃあ、関係ねぇだろ。」
「……関係ある。」
上級生がもう一度拳を振り上げる。
だが、動いたのはシュウヤの方が早かった。
合気道――派手さはないが、確実に相手を制す技。
彼は腕を捻り、重心をずらし、一瞬で相手を地面に沈めた。
他の三人が動けずに固まる。
そして、次の瞬間――彼らは能力を発動させた。
炎。水。土。
三人の上級生、三つの異能。
シュウヤは――何も持っていなかった。
それでも、戦った。
---
その戦いは公平ではなかった。
むしろ、一方的だった。
炎がシャツを焼き、
水の衝撃で身体が地面に叩きつけられ、
岩が肋骨を砕いた。
それでも彼は、誰もが想像したより長く立っていた。
――だが、最後には倒れた。
---
二時間後。
廊下を歩く彼の姿は痛々しかった。
焦げたシャツ。濡れた髪。
左足を引きずり、全身に打撲と切り傷、乾いた血。
守った新入生が「ありがとう」と言おうとしたが、
シュウヤは何も答えなかった。
彼は教室に入り、目の前の“評価装置”を見つめた。
無言で立ち尽くすそれは、まるで神殿の石碑のように重々しく、
低い音を響かせていた。
誰も、その仕組みを知らない。
「魂を読む」と言う者。
「才能を裁く」と言う者。
中には「ダンジョンと繋がっている」と信じる者もいた。
シュウヤは拳を握りしめ、
一歩、前に出た。
装置が光を放つ。
柔らかな光が彼の全身を包み――
その奥底で、何かが目を覚ました。
---
**第1章 終わり**




