第5話 — 生者の世界とミカヅキの夜
さて、物語のページをめくる時が来た。
今度は——生者の世界を見せよう。
この世界は現実だ。
いや、正確に言えば「生きている」。
もしかすると——死者の世界よりも、ずっと“死んでいる”のかもしれない。
もし、生者の世界が本物なら——
死者の世界は嘘なのか?
その答えは、きっと永遠に見つからない。
ところで、僕は誰だって?
もう知ってるだろう。
少なくとも——見たことはあるはず。
僕は、あの墓地で震えていた臆病な少年。
名前は——ミカヅキ。
友達? 賭け?
そんなの、冗談みたいな関係だ。
それでも、僕は彼らを探してしまう。
なぜかって?
たぶん、彼らが一番“正直”な人間だから。
……僕が間違ってるかもしれないけど。
さあ、見せてあげるよ。
生者の世界を。
言ったからね——後悔しても知らないよ。
役割は逆転している。
物語が始まる前に、レンズはすでに入れ替わっていたのかもしれない。
—
あの夜は、いつも通りの“普通”な夜だった。
いや、普通すぎる夜。
ミカヅキは家の外で母の帰りを待っていた。
仕事から帰るはずだった。 少なくとも、そう言っていた。
でも、彼は知っていた。
母は美容院にいて、父のお金を使っている。
父はというと、遅くまで仕事だと言いながら——
実際はバーで友達とサッカーを見ていた。
父は酒も賭けもやらない。
でも、嘘をつくのが趣味みたいだった。
夕焼けが空を染める頃、ミカヅキは玄関の階段に座っていた。
そこへ、友達がやってくる。
ゲンタ——背が一番高いけど、年齢は一番下。
シャツはいつも小さくて、へそが出てる。
サブロウ——真ん中の存在。ミカヅキと同じ背丈、同じ年齢。
少し無愛想だけど、一番まとも。
ブンタ——喧嘩っ早い最年長。
彼がいると、必ず何かが起こる。
ミカヅキは立ち上がる。
彼らが嫌いなわけじゃない。
でも、誰もいないよりはマシだった。
彼らは道を歩きながら、ふざけ合う。
ミカヅキは少し距離を取り、悪ふざけを避ける。
その時、ブンタの目が光る。
「なあ、賭けしようぜ」
「俺が考えたから、俺は参加しないけどな」
「夜の墓地に入るっていう挑戦だ」
サブロウは即座に拒否。
他の反応を待つ間もなく。
ゲンタはミカヅキの名前を叫び始める。
そして、みんなが声を揃える。
「ミ・カ・ヅ・キ! ミ・カ・ヅ・キ!」
追い詰められたミカヅキは、しぶしぶ承諾する。
彼らは笑いながら先に走り出す。
ミカヅキも、遅れないように後を追う。
すぐに墓地に到着。
夜はすっかり深まり、月が顔を出していた。
墓地の門の前で、全員がミカヅキを見つめる。
ブンタが前に出る。
「もう逃げられないぞ。入るしかない!」
ミカヅキは、恐る恐る数歩進む。
そして——
ブンタが背中を押す。
ミカヅキはよろけながら、数歩前へ。
そのまま、墓地の中へと足を踏み入れる。
なぜか、恐怖よりも——
期待の方が強かった。
カラスの鳴き声。
奇妙な音。
そして、友達の幽霊の真似。
ミカヅキは小道を進む。
一歩ずつ、少しずつ落ち着いていく。
その時——
木の陰で、何かが素早く動いた。
今度こそ、ミカヅキは本当に怖くなった。
でも、心臓の鼓動は——
恐怖だけじゃなかった。
死の匂いはしなかった。
それは、もっと純粋で、繊細なもの。
それは——少女の気配だったのかもしれない。




