奴隷の事情
俺は改めて二人の奴隷を見た。女の方は先程も思った通り腕の欠損を抜きにしてみれば目立った外傷もなく貴族と言われればすんなり納得出来る。
そして、男の方は貴族と言うよりも騎士と言われた方が納得出来る。目が包帯で巻かれている以外は目立った傷もなく、風貌も騎士らしく筋肉質な体に整った顔立ち、そして手には剣を振っていたのだろう、たこが出来ている。
一通り観察した俺はいざ、二人に話を聞くために声をかけた。
「改めてよろしく。俺はハーゲンダンツ。ハーゲンと呼んでくれ。」
そういうと女の方が反応して
「かしこまりました。ハーゲン様。わたしはカレリア=フォン=アレクトリアと申します。今は亡きアレクトリア王国の王女でした。そしてこちらは私の騎士であるハイゼンと言います。ハイゼンは喉を潰されて喋ることが出来ないのです。ご容赦ください。」
え……王女さま?貴族じゃなくて?
嘘だろ……。通りで高いわけだよな。だが今は先ず話を聞かないとな。せっかく1000万Gも払ったんだ。話を聞いてから動いたって遅くない。
「そうか。それで…お前たちが俺に願いたいことはなんだ?」
「はい。無理なことは承知で頼みがあるのです。どうか……どうか私たちを裏切り国を乗っ取ったハルゲーンを倒して頂きたいのです。ですが無理なことは理解しています。なので誓ってくれるだけで構いません。どうかお願い致します。」
そういうとカレリアとハイゼンが俺に向かって頭を下げてきた。
なるほどな。要は復讐か。……もしかしなくてもこれって魔王っぽいのではと俺は思った。言うなればこの復讐は国を潰す復讐だ。いかにも魔王っぽい。それにこの二人は俺の配下になる予定だ。ならば最後にその願いを叶えるのもいいかもしれないな。
俺はそう結論付け二人に向かってこたえた。
「もちろん叶えてやる。だがその代わり二人には死んでもらう。本当にそれでも構わないのなら俺に着いてきてくれ。もし嫌だと言うのなら奴隷商のところに戻って構わない。」
そういうが二人はもう覚悟が決まっているのか
「もちろんついて行きます。」
と言ってきた。その覚悟を見た俺はその申し出を受けいれ街の外に向かうことにした。流石に街の中で殺したりするのは問題になるかもしれないしな。
俺たちは奴隷商を後にすると街にはいる時に通った門を通って森の中へと向かった。
ある程度のところまで進むと俺は二人に
「それじゃ今から殺すよ。ただしっかり願いは叶えるから安心してくれ。それじゃ準備が出来たらそこに立ってくれ。」
そういうと
「かしこまりました。」
と言って二人はそこにたった。俺はその姿を見ながらもほんとにこれでよかったのかとは思う。俺の目的のためとはいえ生きている人間の命を奪うのだ。例え本人たちが受け入れていたとしてもやはり胸にしこりは残る。
だが決めたことだ。今更辞めると言ったら彼女たちの覚悟に泥を塗るようなものだ。
俺は意を決して二人に向けてスキルを発動した。
「衝撃波!」
このスキルは相手の体内にダメージを与えるスキルだ。ゲーム内では装備の軽減を無視してダメージを与える。スキル自体は丙スキルなため比較的誰でも使えるので基本的な威力は低い…が、俺の魔術の修練度はMAXだ。そのため一瞬で命を奪えるまでに強化されている。
そうしてスキルを発動した次の瞬間には二人とも地面に倒れた。俺はそれを確認するとすぐさま死者の軍団を発動した。
「形無き迷える魂よ、主無きもぬけの殻よ、今ここに一つとなりて我が命に従え!死者の軍団!」
そう唱えると二人の寝ている地面に見慣れた魔法陣が現れ紫色の光に包まれたかと思うと二人は再び立ち上がってきた。
よし!この世界でもこのスキルは使えることが確認できた。俺はその事に安堵したと共にさっそく配下である二人に命令を下すことにした。
だが、命令をすることは出来なかった……なぜなら
「あれ?私はどうなって……」
「声が…出せる…」
と命令もしていないのに二人が喋り始めたからだ。どういうことだ?俺はまだ命令をしていない。……わからん。
と俺が悩んでいると声をかけてきた。
「ハーゲン様。私達はいつ死ねばいいのですか?」
?????
「……もしかしてカレリアか?」
「はい。そうですけど……」
どういうことだ?
―
――
―――
――――
あの後二人には待ってもらって状況を整理してやっと理解することが出来た。
まず初めに俺のスキルは確かに成功した。だがこの二人はまだ死んだばかりで魂が離れきっていなかったと思われる。そのため俺のスキルで再び繋がった魂と体によって生前の状態のまま不死のアンデッドになったというわけだ。こりゃ予想ができるわけが無い。
何せ今まで使った相手は魂のないデータ上の存在だったわけだしな。
だがこれはこれでありだ。元からしっかりと自我があれば命令も細かく出来る。それに……二人の願いであった復讐も出来るだろうしな。
と一通り理解した俺は二人に説明をした。しばらくして説明を聞き終わった二人は、
「ハーゲン様は死者蘇生ができるのですか!本当にすごいです!」
「ハーゲンさん。俺の喉を直してくれて感謝するよ。この恩は必ず返すぜ!」
と好意的に受けいれてくれた。
ちなみにハイゼンが言ったように二人の体は自動的に治る。今の二人は限りなく人間近いが分類上は俺と同じくアンデットだ。そのため魔力がある限り自動的に体が治る。
その後俺たちはひととおり話して互いの目的などを話した。結果的に二人は俺の魔王になるということを受け入れてくれその過程でハルゲーンを倒すということで納得してくれた。
予想外ではあったが無事に目的を終えた俺たちは再び街に戻ることにした。一応二人がアンデットとバレないか心配だったが大丈夫だった。
アンデット
基本的には不死であり倒すことは出来ても消滅させることは出来ない。ただ、アンデットと言えども休息は必要であり、ハーゲンが生み出すことになる配下は人間の機能を深く残しているため食事などのエネルギー補給も必要となる。
本来であれば街の魔道具に反応するが死後すぐに復活したことや、魂と体が一致しているため相当高性能な魔道具でなければ見分けられない。