反逆者になったわけ
「みんなも知っているように私はこの街を含めたいくつかの街をまとめる領主であるマークスマン家の一人なんだ。そして領主だった父には私を含めて三人の兄妹がいてね。昔は仲良くやっていたんだ。
ただそれも数年前に父が次の領主に1番上の兄ではなくて2番目の兄を指名してからおかしくなっていったよ。」
なるほどな。所謂お家騒動的なやつということか。
「上の兄は下の兄が指名されてからそれまでの豪快だけど優しかった姿は消えてどこか思い詰めたような雰囲気を感じていたんだ。そして数ヶ月前のある日私が護衛を連れて街の外に出ていた時にそれは起こったんだ。簡単に言えばクーデターのようなものだ。
上の兄が下の兄を殺して父を幽閉したんだ。私はそこにいなかったからこうして今も無事にいる訳だけど…その事を聞いた時の衝撃は今でも忘れていない。ただ父を幽閉したとはいえ全ての権力は手に入れていなかった。だから私は準備を整えて兄の凶行を止め、父を助けるために家へ帰ることにしてあとちょっとという時にハーゲンと出会ったんだ。」
なるほどなぁ。そりゃ急いで帰ったんならあんなに疲弊しているのも頷ける。安全よりも速さを重視してたというわけか。
「その後はハーゲンと街まで戻ってそこから家へ向かったというわけだ。」
「話を遮って申し訳ないのですが…ハルベルト様はなぜハーゲン様に貴族の証である紋章を渡したのですか?あれが無ければあなたは貴族の一員として見られなくなるのですよ。」
え、あれそんなに大切そうなものなのか…。確かにそんな大切なものならなぜ俺に渡したのかは気になるな。
「それは…私はこの騒動のカタをつけたら貴族をやめようと思ってね。最悪の場合兄を殺すかもしれない。そうなったら周りが許してくれても私が私を許せない。それに……もし私が死んでも貴族の証であるその紋章を持っていなければ形だけだが兄が殺したのは貴族では無い一般人となるからね。
今はあんなふうになった兄だけど私にとってはまだ大切な兄であることに変わりは無いから。」
「なるほど。そういう理由でしたのね。とりあえずは納得します。」
「ありがとう。……話を戻させてもらうよ。私がハーゲンと別れて家へ着いた時、もう既に兄がほぼ全ての領主としての権力を手に入れていたんだ。そして私が帰ってくるないなや、全ての罪を私にかぶせて反逆者ということにしたんだ。それを知った私は着いてきてくれた騎士たちと一緒に逃げることにした。助けようとしていたのにいざ家に着いたら逃げることになるとは…不甲斐ないよ。
ただ街を出ていこうとすれば必ずバレる。だからスラム街まで逃げて隠れていたんだけど直ぐにバレてしまってね。あとはみんなの見たとおり、襲われたというわけだ。」
「そうだったのか。…辛いのに話してくれてありがとな。」
「助けてくれたんだからそれくらいはするさ。」
「なぁなぁ、経緯はわかったけどよ…。ハルベルトさんの父親は無事なのか?」
「それは……分からない。確認する暇もなくにげてきたからね。」
「そっか…。」
「それで…ハルベルトはどうしたいんだ。こんな状況だ。このまま安全なところまで連れて行ってやることも出来るが…。」
「ありがたい申し出だけど断らせてもらうよ。もう既に手遅れかもしれないけどせめて私の手でこの騒動を終わらせたいからね。」
「……そう言うと思ったよ。ここまで助けたんだ。どうせ俺たちのことも相手に伝わってる。ならば最後まで手伝うよ。二人とも、それでいいか?」
「はい。状況は違いますが他人事とは思えませんし。」
「俺も同意だ!」
「……だそうだ。ハルベルト、どうする?」
「みんな、ありがとう。その気持ちに縋らせてもらうよ。」
「任せろ!」
ということでハルベルトの事情を聞いた俺たちは手伝うためにどうするかを話し合うことにした。とは言ってもこの人数だ。大それたことは出来ない。せいぜい隠れて近づくか正面突破の二択だ。
―
――
―――
――――
あの後、俺たちはどうせ攻めるなら正面突破ということに落ち着いた。ただ、俺以外の三人はある程度なら進めると思うがあのレベル相手にずっと戦い続けるというのはきついと思う。
ということで俺はハルベルトにこの森で少し鍛えないかということを提案した。
「ハルベルト。今の強さで正面突破を行っても返り討ちに合うだけだ。もしまだ余裕があると思うのなら少し鍛えてから行かないか?」
「うん…今から行っても返り討ちにあうのはその通りだ。確かに少しでも強くなってから行く方がいいかもだね。」
「了解。それじゃこれを指に着けておけ。」
そう言って俺はハルベルトにも経験値の指輪を渡した。
「あ、ありがとう。」
「それじゃハルベルトもあそこの二人と一緒に魔物と戦ってきてくれ。……と忘れてた。ハルベルトはなんの職業なんだ?」
「私は弓術士だよ。」
「なるほど…それじゃこの武器も貸すよ。」
そう言って俺はひとつの武器をアイテムボックスから取りだした。
・不可視のクロスボウ :レア
このクロスボウで飛ばした矢は透明になる。だが威力は普通のクロスボウと変わらない。
「これは?」
「これは撃った矢が透明になるクロスボウだ。と言っても威力は変わらないからな。」
「透明になるだけでも充分すごいよ!ありがとう。」
そう言ってハルベルトも二人に交じって魔物と戦いだした。
正直ハルベルトの気持ちを考えたら今すぐにでも兄の凶行を止めに行くべきだとは思うし俺ならそれも出来る。だが、それではハルベルトの気持ちに整理がつかないと思う。これは仮にも家族の問題であって本人がカタをつけなければいけないと思っている。
ただ手伝うと言ったからには補助的な面で助けるつもりだ。それに少しでも強くなった方が今後も役に立つだろうしな。
ということで俺は三人が魔物と戦う姿を眺めつつ時々アドバイスをしたりして、半日が過ぎていった。
主人公
主人公はこの世界でも冒頭に述べていたように魔王ロールプレイをするつもりです。そのため主人公は最強という立ち位置にはいますがよほどなことがない限り補助役に徹するつもりです。
ただ、強さチートが無い分補助役という面で強いアイテムや防具などを渡して配下チートということは行われます。なので、チート系は嫌だ。苦戦するところがみたいという人がいればご期待に添えないかもしれません。