シンデレラ-後編-冷たい微笑の女王-
王宮の舞踏会。
煌びやかな光に包まれたその空間に、彼女は現れました。
その姿に、誰もが息を呑みました。
深紅のガラスの靴。漆黒のドレス。
それをまとったシンデレラは、かつての灰かぶり娘ではありませんでした。
その目に宿るのは、愛ではなく、計算された冷たい炎。
王子は、一目で心を奪われました。
彼女の美しさに、言葉も忘れ、他の誰の存在も見えなくなったのです。
シンデレラは微笑みました。
甘い言葉で心を惑わせ、優雅な所作で王子の魂を絡めとりました。
そして、夜が更けた頃、わざと片方のガラスの靴を残して姿を消したのです。
「この靴の持ち主を、必ず見つけ出せ!」
王子は狂ったように命じました。
全国を探し回った果て、ついに彼女は見つかりました。
再会を果たした王子は、迷いなく求婚しました。
そして、シンデレラは王妃となったのです。
だが、ここからが物語の真の始まりでした。
まず彼女は継母を地下牢へと閉じ込めました。
「あなたが私に与えたものを、そっくり返してあげる」
その牢には毎日、熱い灰が撒かれました。目も開けられないその地獄で、継母は咳き込み、泣き叫びました。
義姉の一人は、王宮に招いて舞踏会に参加させました。
しかしその席で、シンデレラは彼女の秘密や嘘を暴露し、貴族たちの前で恥をかかせました。
義姉は嘲笑の的となり、やがて人前に出ることすらできなくなりました。
もう一人の義姉には、偽の求婚者を仕向けました。
甘い言葉と偽りの愛で彼女を騙し、すべての財産を奪わせました。
気づいたときには遅く、義姉は一文無しとなり、街角で物乞いをする姿へと落ちぶれました。
彼女たちの絶望に歪んだ表情を見るたびに、シンデレラは心の底から震えるような快感を覚えました。
「ねぇ、もっとその顔を見せて」
それはもはや復讐ではなく、嗜虐的な悦びでした。
復讐を終えた後も、シンデレラの中に残ったものは、優しさではありませんでした。
王宮の使用人たちは、ちょっとした失敗で冷酷な罰を受けました。
貴族たちも彼女の目を恐れ、言葉を選んで頭を下げました。
王子でさえも、彼女の前では声をひそめました。
愛はいつしか恐怖に変わり、城は沈黙に支配されました。
それでもシンデレラは満足していました。
心を捧げた代償として、彼女は“真の幸せ”を手に入れたのです。
それは誰にも奪えない、他人の苦痛によって満たされる満足。
かつて優しかった少女は、今や“冷たい微笑の女王”として、末永く君臨し続けました。
めでたし、めでたし。